第46話 ※アポ無し凸は迷惑極まってるのでやめましょう

その日は、平和な日だった。

聖女脱走騒動も聖女の愛馬が海洋国家ルティアの港町、バルザックで発見された事が原因で聖女の行方も大体分かり、捜索隊が組まれ、1日ぶっ通しで各方面に対応していた教皇の超過密ダイヤ並みのハードスケジュールもやっと落ち着きを見せ始めていた。

その最中だ。

「……む?」

自らの執務室に、何やら魔法陣が浮かび上がった。

「……!」

教皇と言う立場上、彼は幾度も魔法による襲撃を体験している。

しかし、このような、全くもって兆候なく出現するのは見たことが無かった。

「天と地を神は別たれた…『境界線ホライゾン』」

それは、教皇のみに伝えられる劣化再現した神聖魔法であり、結界魔法である。

教皇はそれを反射的に使用した。

この魔法であれば、おそらく外の者達が気付くまでは耐えられるだろうと判断したからだ。

魔法陣は光を一段と強め、そして徐々に光が消えて、四人と一匹の姿が露となる。

「聖女殿っ!?」

その内の一人の正体に、教皇は目を剥いた。

「こんにちわ、教皇様」

ステラは多少驚いた様子はあったが、直ぐに聖女然とした笑みを浮かべる。

「えっ?教皇?……まぁ、ちょうど良かったのかぁ?」

何処にでもいそうな青年が頭をかきながら何事か呟く。

(聖女殿が敵対や警戒の様子を見せていない以上、敵対者の類いでは無いでしょうが…)

しばし無言の時間が続く。

「……取り敢えず、この馬フラッシュどうにかしない……?」

いたたまれなくなったレイラがそう提案する。

「そうですね…室内では些か狭いですし、教皇様、退出許可をいただいても宜しいでしようか?」

「え?えぇ、良いですよ」

状況が飲み込みきれていない教皇は、意図せず退出許可を出した。

「それでは、また後程伺います」

ステラがそう行儀よく頭を下げて、四人と一匹は一旦教皇の執務室を後にした。


◆◆◆


「やっぱ僧って禿げるもんなのか?」

教皇の執務室を離れて少し、欠月がそんな事を言い出した。

「はい??」

不敬極まれりな発言に葉月が困惑する。

「え?普通に生えてたじゃないの」

レイラが疑問符を浮かべた。

「いや、帽子とズラで誤魔化してたが、ありゃつるっぱげだぞ。なぁ、ステラ?」

「……ノーコメントで」

こっちにその話を振るな!とばかりに目をそらすステラ。

その反応が、ハゲだと如実に物語っている。

「覚りとかの過程で禿げるんかな?…まぁ、人の愚痴毎日聞いてちゃストレス貯まるか」

能天気にクソ失礼なことを呟く欠月。

「失礼ですよ。仮にも教皇聖下相手なのですから、もう少しオブラートに包んでください……」

苦笑しながら、ステラがフラッシを馬小屋の管理人に引き渡した。




どっちかってぇと教皇の毛根が死滅したのはお転婆聖女が原因なんすけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る