第56話 唸る水災の前触れ

「数日前、の豪雨が降ったのですが、それにより幾つかの川が決壊し、その近隣の村々が崩壊しました」

うーん?

試験の内容がよめねぇな。

川の決壊で被害者が出たとして、その被害者の治療とかが試験内容だとして、魔漏症で死亡した葉月妹を治療出来ると言う証明にはならないはず。

ならなんでこんな話を?

………まさか、体よく面倒事を処理させようとしてる?

俺が失敗しても葉月に近づくを排除出来るし、村人程度が死んだ所でこの若様には支障無いだろうし……これだからお偉い様はさぁ。

「そして現在、その崩壊した村の村人を私共の城を一時的に開放して受け入れているのですが……その村人達から、葉月晦日さんと同じような症状が確認出来ました」

……はぁ!?

おいおいマジかよ、めちゃくちゃ有用情報の可能性来たぞ!

疑ってごめんよ、若様。

「それは……本当に…?」

葉月が唖然とした表情で若に聞いている。

「はい。間違いないです。玄月げんづき様にも確認しましたが、間違いないとの事でした」

玄月って確か葉月の祖父だったか。

たしかあの人対戦可能NPCの中じゃ最強クラスの性能してたよなぁ。

俺の対人方面はあの人から学んだと言ったら過言だが、NPCの中じゃ一番強かったし特殊仕様があっておもろかったから良く行ったな。

「なるほど、その村人たちを治療するのが試験って事でオーケーか?」

「はい。村人達の所へ案内しましょう」


◆◆◆


(……こりゃ、酷い)

百を越える数の人が大広間のような場所に寝かせられ、従事であろう人々が患者達を看病している。

中には半身が磨り潰されたかのような者もいる。

「これに加えて魔漏症か…」

思わず、言葉がこぼれた。

血の臭いが漂う大広間には、それ程の光景があった。

あまり詳しくはないが、ただの川の決壊ではここまでの地獄絵図にはならないはずだ。

「なぁおい若様、いったいどんな大河が決壊したんだよ?」

まぁ、魔漏症が出てるから、恐らくただの川じゃない。何かしら、曰く付きだろう。

「……決壊した川は、この大戸港でも数える程しかない大河です」

「なるほど、ありがとう」

いやまぁそらそうだろうよ。

ただの川の決壊でここまで酷い怪我人でな……いや、待てよ。

現代ほど通信技術の発達していないであろうこの世界で、なぜこれだけの人数を助けられた?

これだけの人数を運ぶなら、事前に助ける用意をしていないと不可能だろう。

「欠月様?」

こちらを心配するような声音が隣から聞こえて、欠月は生まれた疑問を一時的に打ち切る。

「あぁ、何だステラ?」

「いえ、そろそろ治療試験を始めましょう?」

「あぁ、そうだな。魔漏症の方は俺がやるから、怪我の方頼む」

「はい、仰せのままに───」

色々と疑問はあるが、一先ず目の前の問題を片付けよう。

「聖なる女神よ、貴女の使徒が救いを請う」

ステラの詠唱が始まった。

(あぁ、これ聞いたことあるな。って事は全員を一気に治す気か)

それをしたら確実に聖女バレするだろうに、どうやら最早そんな事を気にしている場面ではないと判断したらしい。

(さて、俺も俺で仕事をしようか)

近くで苦しむ患者の元へと向かい腰を下ろす。

「彼の者ら、罪無き者。女神よ、どうか彼の者らに貴女の涙を」

ステラが詠唱を終え、その奇跡の名を告げる。

聖なる慈悲セイント・ティア

まるで、温かな水に包まれたような、そんな感覚が大広間、いや、城全体を包み、痛みに悶え苦しんでいた者達の傷がみるみる内に癒えてゆく。

「……聖女様だ」

誰かが、そう呟いた。

それを皮切りに、大広間は聖女様の大合唱に包まれる。

それを横目に、欠月は淡々と一人の患者を診ていた。

「なるほど、悪夢を見ると」

「はい。あの、村が呑まれたあの日から、ずっと、何かに呑まれる夢を見るんです……」

その少女は、かなり衰弱した様子で、欠月が見る限りかなりの魔力が体から抜けている。

勿論、それは死に至る程の魔力欠乏ではないが、放置していれば近い内に衰弱死か発狂死か、それはわからないが、まぁ死ぬだろう。

「それじゃあ、ちょっと失礼しますねぇ」

(確かゲーム中だと浄光で直そうとしてたか?)

まぁ最も、直そうとしてたのが確実に魔漏症とは言えないので、何とも言えないが。

浄光ライト

淡い光が少女の体を照らし、少女の体にまるで噛み跡のような模様が浮かび上がった。

(ビンゴか……)

魔漏症、その正体には大体辺りがついた。

「……一応、対処はしますが、根本的な解決にはならないでしょう。……聖域サークル昇華サブリメイト

少しだけ、その噛み跡のような模様が薄れ、患者の顔色が良くなった。

「それでも、かなり楽になりました。ありがとうございます」

少女は、そう言って頭を下げた。

「いえいえ、気にしないで下さい」

欠月はそう言ってその少女の元を離れた。

「どうでしたか?」

葉月が少し期待するように聞いてきた。

「どうやら、神聖魔法だけじゃ無理そうだ……楽にする事は可能だけどな」

「それ、は」

絶望したような表情を浮かべる葉月。

「安心しろ。治療法は思い付いた。その為に、少し働いてもらうぞ」

勿論、この国の住人にもな。

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