第69話 奉られる者達の矜持

「着いたー」

日数にして約三日。

遂に俺達二人は都に到着した。

「やっとね…」

レイラが少し疲れた顔で言う。

「あぁ、結構かかったな。まぁ、後はそこの門番さんに手紙渡してちょっと待つだけだろ」

欠月が城の門番へと駆け寄り、玄月の手紙を渡した。

ややあって、小一時間程待たされ、兵士のような者が呼びに来た。

「欠月殿、そしてその旅仲間様。よくぞおいでになりました。陛下が謁見をする、との事です。私めに着いて来てください」

そうして、欠月達は、その国の王、日の本の神と対面する事となる。


◆◆◆


「ぬぅ?爺やから手紙じゃと?」

幼子のような外見をした少女が、ここ数年無かった事態に首をかしげた。

「はい。これです」

そう言って臣下の中でも特に自分が信頼を置いている女が、その手紙を自身へと差し出した。

「……ふむ」

その手紙を一通り読み、内容を噛み砕いて思考する。

(爺やたっての願いとあらば出来る限り応えてはやりたいが……)

何せ、爺やこと葉月玄月はその少女の剣の師であり、同時にその少女が幼くして今の座にいるのもその老人の助けあってのことだった。

(今は此方も状況が悪い……いや)

恐らく、爺やはそれを承知で送ってきたのだろう。

ならば、

「会うだけ会ってみよう。あの爺やが送ってきた者達だ、何かがあるかも知れん」


◆◆◆


「まぁじで天皇トップに謁見出来るたぁ、あの爺さん何者だよ」

その襖の前で、欠月はその困惑を吐露する。

「同感。一国の王が、それも神体として信仰される存在がこうも簡単に会おうとするなんて、あのお爺ちゃん只者じゃないわね」

そう言っているうちに、目の前の先導役が膝をつき、襖を開く。

(────っ)

「汝らが玄月の寄越した客人か」

まるで、少女のような外見のそのは、その地位に相応しいオーラを纏っていた。

そして、その姿は欠月の記憶を刺激する。

(やはり、あのボスと似ている)

これは本格的にゲーム中の東の国がどんな道を辿ったのか気になる。

少なくとも、目の前の存在からは本気の黒葬までとは言わずとも、レイラを越えた力を感じる。

何があればこの都が遺跡化するのか。

「えぇ、そうよ。私、と言うよりあのお爺ちゃんが寄越したのはこいつだと思うけどね」

レイラが平然とそう答え、謁見の間がざわついた。

「ちょっ、レイラ君さぁ……」

流石の欠月もドン引きである。

この地の王に対して、余りにも無礼。

(こいつ、俺の邪魔したいのか?)

やっぱりこいつがいると纏まる話も纏まらない。

今からでも帰した方が良いだろう。

ま、もう遅いが。

「……無礼ですよ、お客人」

天皇の側近らしき女官がレイラを睨む。

「……まぁ、無礼なのはそうね。でも、を見たら同じ奉られる者としては敬意を表せないわ」

自分の非を認めつつもレイラは怒気を孕んだ声を彼らに向けた。

「……あれ、とは何のことだ?」

天皇はその態度に顔をしかめる事無く、レイラへと自身の非を問う。

「………良くもまぁ、自分の民を易々と他の神に喰わせるものね。見た時目を疑ったわよ」

あ、そうか。

彼女も神なのだ。

ならば奉られる者として、自身の民奉る者達に対する彼女なりの流儀があるのだろう。

そして、自身の民を他の神に喰われる現状を容認している神に対して反感がある、と。

「あぁ、ちょっと良いか」

そこで俺は手を上げて発言権を求めた。

「良い」

天皇陛下からの有り難い御言葉発言許可が出た。

「今更取り繕った所であれだから話すが、俺がここに来た目的は葉月晦日を助ける為に貴殿の名前を借りたいからだ。使用用途は大戸港の大名への現地住民への避難要請。貴殿方東の国に何ら不都合は無い、筈だ」

そこまで話したところで、側近の女官が俺に対して質問をしてきた。

「少し待ってください。確かに葉月晦日が病に伏せっているのは此方も把握しておりますが、何故彼女の治療の為に大名に要請が必要な程の大規模な避難が必要なのですか?」

……ん?

根本的に認識が食い違っている気がする。

まさかとは思うが……

「貴女達、晦日の病原知らないの?」

信じられない、と言った風にレイラが声を上げた。

「……なるほど」

天皇陛下が思い当たったと言う顔をする。

「何の事か分かったみたいだな、天皇陛下。それで、どうする?出来れば許可して欲しいんだが」

「許可しよう。出来れば戦力的な支援をしたいが、すまない。詳しくは言えんが此方も状況が悪くでな。戦力を送る事は出来ん。そして頼む。我が民を、救ってくれ」

天皇陛下が頭を下げる。

(まじかよ)

そこまでは想定してなかったわ。

何処の世界でもそうだが、権力者の頭はそう軽いものでは無い。

謝罪するとは、つまり、此方の非を認めると言うこと。

それは、敵に付け入る隙を与えると言うことに他ならない。

そして、頼み、ときたか。

「任せなさい」

俺が了承するよりも先に、レイラが了承の言葉を口にする。

そして、それと同時に身を翻した。

「北欧神の名にかけて、貴女の見る目が正しかった事を証明しましょう……行くわよ、欠月」

……あぁ、うん。

やる気になったのは良かったんだけどさ、

「最初からやる気になって貰えるぅ?」


「うっさい」




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