第97話 祝祭

?」

『始まりの女神、開闢の始者。色々な呼び方があるけど、最も有名なのは──【始原】。この世界を始めた、始まりの超越者よ』

……つまり、デウスエクスマキナ的な奴か。

『そうとも言えるし、そうでないとも言える。彼女──便宜上彼女と表するけど──は、この世界に関われない。……より正確には、関わった時点で、世界は消滅する』

やべーやん。

『まぁ、兎も角それが定めたを越えた者達の事を、本来世界から生まれようもないエラー、変異体と呼ぶの』

その理屈で言えば、

「確かに、俺も」

そうなる、か。

「欠月殿ー!焼きそば持ってきましたよ!」

頼んでいたものを買ってきた朔夜とステラがこちらに歩いてくる。

「ありがと。おー、美味そうだな」

朔夜が持ってきた焼きそばやたこ焼きを見ながら嗅覚から伝わる情報も吟味する。

「~~っ!いい匂いだ」

「それは良かった」

持っていたたこ焼きを欠月に渡し、他の焼きそばやらを欠月の座っていたベンチに置いた。

「では、私はもう少し買ってきます!」

「おう、行ってら」

そう言うと、朔夜は人混みの中へと消えいった。

「……な。何とも」

「欠月様は、こういった行事を体験したことがあるんですか?」

ステラが聞いてくる。

「そらな。ってか、ステラは無いのか?」

「…私は、こっち側には居られませんでしたから」

彼女は聖女だ。

こういった祭などで、民と一緒に楽しめるような立場でも無いのだろう。

「少々、羨ましいです。私は、こういった祭の楽しみかたを知りませんから」

「でも、お前さん、お転婆聖女だったんだろ?」

「流石に、本職の方でも無ければ祭の厳戒態勢の中でバレずに脱走なんて出来ませんよ」

苦笑いしながら、ステラはそう言う。

「じゃ、お兄さんがいっちょ教えてやりますかね、祭の楽しみ方ってやつぅ?」

意外そうな顔をして、立ち上がった欠月を見上げるステラ。

「…それは……お願いします」

微笑みを浮かべて、ステラも立ち上がる。

「ですが、これらの食品はどうしましょう?置いていく訳にも参りませんし……」

「あぁ、それなら問題ない。……【原典】」

『何?』

「貴女は!」

「ちょっと鞘の形態変えられる?」

『……何でそれ出来るの知ってるのよ』

「理論的には可能かなと」

『きっしょ!何で分かるのよ』

そう言うと、段々と鞘の形が不定形になり、刀が完全に呑まれる。

ソレはゆっくりと人の形を形成し、やがて形が定まる。

「……こんなもん?」

黒髪に赤眼の少女が、俺に問うて来た。

「上々。それじゃ、頼んだ」

そう言うと俺は、ステラの手を引いて祭の最中に飛び込む。

「欠月様、先ほどの方は?」

「俺の協力者みたいなもんさ。それより、祭を楽しもうぜ?」

「それもそうですね……欠月様、あれ、やってみたいです」

ステラが控え目に指差した先には……

「あぁ、射的か。おーけー。行くか」

実は結構得意なのだ、あれ。

「全然当たりませんね……」

烈に並び、しばらく経つと俺達の番が回ってくるが、ステラはあまり当てられずにいた。

「コツがあるんだよ。まずは体勢な。脇を締めて柄と頬を密着させる……あぁ、密着させ過ぎると撃ったときの反動でアザが出来るから気をつけろよ?引き金を引くのは利き手じゃないほう。台に両肘をのせる。うん、これでいい」

後はステラのエイム次第だが、真正面から当ててもあまり意味がない。

「当てる場所は角。そうすると、回転する力が生まれて倒れやすくなる」

と、そんな講義をしていると

「欠月殿にステラ殿!何をしているので?」

買い歩き中であろう朔夜が大量の食べ物を持ってこちらに歩み寄る。

「ん?聖女様に祭の楽しみ方を教えてんの。お前もやる?」

「是非!祭を楽しむとなれば、この私の右に出るものはいませんので!」

「それは頼もしいですね」

合流した三人は、時間を忘れて祭を楽しんだ。

その後、欠月が【原典】にブチギレられていたのは、また別の話である。


◆◆◆


「ククッ奴が黄泉よみがえったか」

かつて【災厄】と呼ばれた者は、戦いの予感にほくそ笑む。

「挑戦者よ、いつか我らは邂逅する。その時が……」

きっと、始まりだ。











鞘の形態変化

鞘の形自体はあくまでも八岐大蛇の神性を奪って形を変えたものなので、理論上はどんな形にでもなれる。

勿論、それが人形でもその例には漏れない。 





ちなみに、欠月君はお祭り一回行ったか行ってないかのお祭りエアプです。

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