第96話 勝利の宴
「もうほぼ終わってんな」
遠目に、雑魚の殲滅戦が終息しつつあるのを確認した欠月は、呆れと関心を同時に抱く。
(侍、戦闘力高過ぎだろ)
中々どうして、個人技がずば抜けている。
玄月ほどとは言わないが、技量が高い者が大半だ。
「見る限り、死者は居ませんね」
隣の木に登っている朔夜は、安堵したような声でそう言った。
「怪我人は……彼処に纏められてるな……ちょっくら行ってくるわ」
木から降りてステラに声をかけ、戦場を避けつつ怪我人が集まっている街の前へ向かう。
因みに、レイラと晦日は先に帰っている。
と言うより、
「私、先帰るわね」
とマイペースを発動したレイラに気絶している晦日を預けた形だ。
晦日の容態は安定しているので問題は無いと判断した。
朔夜は護衛として着いてきている。
「中々、ですね」
怪我人は、数々の戦場の医療現場を見てきたステラが絶句する程の量だった。
とは言え、一人一人の傷は軽く、稀にいる重傷者はステラが優先的に治すことで少なくともあの場にいた患者は全て治療が完了した。
それから暫くして、若様により殲滅戦の終わりが宣言され、港全体がお祭りムードに包まれた。
◆◆◆
「……ぅ…?…ッ!」
目が覚めた晦日は、急いで刀を探した。
しかし、途中でそれを中断する声がかかる。
「安心しなさい、ここは安全よ」
レイラは、晦日の部屋の壁に背を預けて両目を閉じた格好で晦日に言った。
「レ、レイラさん?…ここは、私の部屋、ですか。姉上は?大丈夫なんですか?」
晦日の意識は、【白花】を放った直後で途切れていた。
「魔力に変化はないし、無事でしょうね」
レイラは、遠くはなれた三人の様子を侵雷にて把握していた。
「そう、ですか……。良かった」
小さく微笑むと、晦日はレイラを見る。
「レイラさん、ありがとうございます。…それと、もうあちらへ行っていただいても大丈夫ですよ」
遠くから聴こえる
「別に良いわ」
港と葉月邸は近いとは言えない。
行こうと思えばすぐにでも行けるが、特段行きたい理由もない。
それよりも、
「ねぇ、お風呂ってある?」
今は湯に浸かりたい気分だ。
◆◆◆
戦勝会……とでも言えば良いのか、大戸港は少し浮かれた雰囲気に包まれていた。
聞いた話によれば、太古から病気……と言う名の呪いが蔓延することや、川の大規模な氾濫などは定期的にあったらしい。
ここの住民達はそれをあの神の仕業だと解釈し、解放されたと喜んでいるようだ。
この前の患者達も騒いでいる人々の中に見つけたので、彼らの呪いが消えたこともあの神が昔から自分達を苦しめていた神だと言う思いに拍車をかけたのだろう。
(呪いは大蛇で確定。川の方は……まぁ、幾つかは自然現象の可能性はあるが、呪いを広める手段として水災を使っていたようだし、ほぼ真実だろうな)
「さて」
祭の喧騒を横目に俺は、ベンチの隣に立て掛けた赫邪練哲を見る。
「幾つか聞きたい事がある」
『どうぞ?』
思いの外乗り気らしい【原典】は、鼻歌交じりに俺の質問を聞く。
「
あの時、城に忍び入った男からの質問に対する俺の答えは、「なにそれ?」だった。
取りあえずそれっぽいこと言って煙に巻いたが、かなり気になるワードではあった。
『むしろ、知らなかったの?それ。と言うか、もう死語だと思ってたわ』
「多分死語だろうよ、知らんけど」
意外そうな彼女の声は、その言葉が大して重要なものでは無いように勘違いさせるが、忘れてはいけない。
【変異体】であるかどうかは、あの男の雇い主が彼程の戦力を殺すか殺さないか決めるほど重要な情報なのだ。
『そうねー。なんて言おうかしら。……昔の定義でも良い?』
「いいぞ」
『【変異体】って言うのは、世界の可能性を越えた存在の事よ。私が認識してる限りは二つ。
第一変異体である【灰の龍王と契約者】と、第二変異体である【
と?
「灰の龍王と契約者とやらは、二人で一人なのか?」
『えぇ…まぁ、そうね』
「世界の可能性を越えるってのは……」
『文字通り。世界の可能性を越える……つまり、世界を凌駕する───それを証明するには、方法はたったひとつ』
世界を───
『──殺す。それをしたもの……或いは、出来るものを、【変異体】と、彼女は言ったわ』
第一変異体 灰の龍王と契約者
第二変異体 旧世主
第三変異体 ■■■■■■■
第四変異体 ■■
第五変異体 ■■■■
第六変異体 ■■■■
第七変異体 ■■■
変異体
世界を殺し得る者、或いは、殺し得た者。
本来、生まれようはずもない、原典を越えた可能性。
無限に最も近く、しかし無限ではない世界と言う可能性を上回った事により、逆説的に無限に至った
或いは、無限へと至った結果世界と言う可能性を上回った
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