第84話 絶世

「あ、気付いた?」

そう言うと彼女は嬉しそうにウィンドウを開いた。

「ここねー!私が創ったの!」

手慣れた様子で幾つかのウィンドウを取り出し、見せてくる。

「これは」

八岐大蛇と、それと戦う朔夜達が映っていた。

別のウィンドウには、倒れている俺と、それを心配する晦日が。

そして、最後のウィンドウには、たった一本の刀が。

「───で、俺をここに呼んだのは、誰だ?」

それらの情報を脳内で処理し、俺は疑問を口にする。

「お前じゃないだろ。俺の勘がそう言ってる」

おそらくは、前世の俺辺りか。

「私よ」

後方から、美声。

一瞬、思考が蕩ける程の。

警戒していた自身の思考が、ただそれだけで消え失せる。

「……誰だ?」

絞り出せた言葉は、ありたいていなその一言。

「私は──■■■■。っと、失礼、聞こえないわね」

コツコツと、その声が俺の耳元を横切った。

そのまま俺を通り過ぎて行って、仮想の神の横辺りで止まり、回転クルリ

「私は──原典。取り敢えずはそう呼んで?」

白銀の髪がたなびいて、何処までも深いアオの瞳が俺を捉える。

「まぁ、これからヨロシクって事で」

俺の前に現れた絶世は、そう言って手を差し出した。

「どうも、欠月だ。ヨロシク」

手を差し出して握手する。

(美しい。あまりにも)

感嘆、と言うよりは畏怖ドン引きに近い。

(レイラやステラ……いや、それ以上か)

前世に匹敵する美しさ。

あちらは男だったが、その外見は中性的で、誰もが思考を放棄する程美しかった。

まるで、目の前の女のように。

「そう、欠月ね、オッケー。私の事は、そうね、好きに呼んで。隊長でも、主君でもクソアマでも俺の女でも、なんでもいいわよ?」

ふざけた提案をする美女。

だがしかし、

(特異点にしては、少々人間的過ぎるな)

「オーケー、隊長。それで、貴女は何者だ?」

「さぁ?何者かしらねぇ?一つ言えるのは、貴方は既に私を知ってるわ」

悪戯に微笑み、こちらに見定めるような視線を向ける。

「……旧き者か」

「せ~いかーい★」

ヌルリ。

たった一歩。

ほんの一瞬。

瞬きの間で、彼女は彼の後ろに回りに、その耳元で囁いた。

「……それで、目的は?貴女が俺の前に表れる理由は、今のところ見当たら無いが」

「あーそれね。ちょっと前までは貴方とアンチクショウをぶつけるのも面白いかなーって思ってたんだけど、ちょぉっと事情が変わってねぇ」

小刻みに翔びながら、彼女は再び正面に戻る。

「君が協力者に相応しいか、見に来たのよ」

「断──」

「ちなみに、報酬は前払いよ」

ちっ、こいつ、俺が今何欲しいか解った上で提案してやがる。

「最高の協力者パトロンになるよう努力しよう」

「何言ってるの?貴方実働部隊よ?」

「オーケー社長パトロン、万事任せな、責任だけはシクヨロォ!」

「ねぇ、何私のお兄ちゃんとってるのさ」

白髪の幼女が頬を膨らませて欠月の右腕を抱く。

「あら、ごめんなさい。えーっと、名前、なんだっけ?」

「まだないよ!」

「着けて上げなさいよ、保護者パパ兼兄

「あー、確かに、ずっと仮想の神ってのも不便だな。期待せずにちょっと待て、今考える……」

(仮想……理想……フロンティア…)

「フロン…ってのはどうだ?」

「うん、ありがとう」

フロンは、少しだけ嬉しそうにしつつ、それはそれとして本題を話始めた。

「時間がないから、本題を始めるよ」

そう言って、再びウィンドウを出す。

「と、言っても話は簡単でね。このままじゃ負けるよ、お兄ちゃん」

見せられたウィンドウに映った光景は、紛れもなくバッドエンドの未来。

「それを、何とかするために俺を呼んだんだろ?」

「えぇ、そうよ」

社長原典が頷く。

「で、私はその解決を手伝って恩を売る為にここにいるってワケ」

「俺は何をすればいい?」

すぐに自身の仕事タスクを確認する。

「簡単よ。コレ」

そう言って出されたウィンドウには、見覚えのある一本の刀。

「取ってきて♡」

「舐めてんのかお前」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る