第85話 契約

鬼畜原典からの無理難題に、俺は分かり易く顔をしかめた。

「一回失敗してんだぞ」

映された刀は葉月邸の道場の地下にマスター○ードの如く刺さっている。

そして、地下に行くためにはあの剣聖、葉月玄月を打倒する事が必須条件だ。

それ以外にやることは無いが、それが最も難しい。

ただの試合でさえ負けたのだ。

本気の爺さんと戦うとか普通に死ねる。

「ただの一回で諦めるの?」

人をおちょくるような笑みを浮かべる社長原典

その美貌が腹立たしさを加速させる。

「……アレが俺の理論値最善戦だ。アレ以上は無理だよ」

「そっ。じゃあ、晦日ちゃんの命も諦めなさい」

口を尖らせてそう言った。

「ちょっと待て。何でそうなる?」

俺のその疑問に、フロンが答える。

「旧き者…つまり、原典さんの本体が、この刀なの。だから、この刀をお兄ちゃんが手に入れない限り、彼女は支援が出来ない」

なるほど、そう言えば叢雲も刀だった。

「今は特にね…の事を抑え込んでるし、力の効力が弱まってる。貴方が直接触れていないと、支援らしい支援も出来ないわ」

アンチクショウとやらがどんな奴なのか知らんが、傍迷惑は野郎だ。

「……貴方ともう一柱ひとりが原因何だけどね」

「そらさーせん」

「まぁ、ざっくり分かったでしょ?あ、それと朗報よ。私…というか、旧き者の力が弱まってるから、道場の中でも体内で完結してる身体強化とかは使えるわよ」

どういう事だ?原典=旧き者、では無いのか?

「……それならやりようは……あるかぁ?」

あの爺さんちょっとやそっとの身体強化で勝てる相手じゃねぇぞ。

「いえ、あるじゃないですか、勝ち筋」

フロンがそう言って、人差し指を上にあげる。

「魔法剣」

「そう言えば、あれも身体強化の類いだな」

正確には、おまけで身体強化の能力がある。

まぁ、そのおまけがえげつない訳だが。

「ね?ちょっと有言実行するだけの簡単なお仕事でしょう?」

艶やかに微笑む彼女には、有無を言わせぬ迫力があった。

「簡単に言ってくれる」

だが、有言実行は確かに……出来てなかったな。

「勝って見せなさいよ、今度こそね?」


◆◆◆


「欠月さん!?欠つっ…ゴホッゴホッ!」

突如倒れた欠月に大きく取り乱した晦日が咳き込んだ。

「すまん…もう、大丈夫だ」

晦日をなだめつつ、ゆっくりと立ち上がる。

「少しここにいてくれ。必ず戻る。そして、約束するよ。俺が必ず君を届ける。──────だけど、犠牲にはさせない」

すっ、と欠月は息を吸い込んだ。

。俺が必ず、君を生かす」

晦日は、大きく目を見開いた。

「貴方まで、そのような事を仰るのですね」

そして、少し微笑んだ。

「ステラさんも、同じことを言ってくれました」

あぁ、彼女ならば言うだろう。

「だから、私はこう言ったのです。─────ならば、仮に私が生き残った時は、いつか貴方の一助となりましょう」

「欠月さん」

目と目が合って。

「お願いします──私は────」

涙が、溢れた。


◆◆◆


死にたいから、その契約を持ち出したのでは無いのだ。

誰にも、死んで欲しくないから、その契約を持ち掛けた。

「だからさ、爺」

地下への入り口の前に立つ老人は、その眼に殺意を宿らせて、そこに立っていた。

「そこ、退けよ」

「旧き約定故────この老体、打ち破って見せよ」

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