第7話 えぇ?(困惑&ドン引き)

「えぇ?」

困惑とドン引きを多分に含む俺の声は、主に二つの事象に向けられている。

一つは、

「欠月殿!凄いですね!この聖装!今なら何でも出来そうです!」

と、言いながら「十六夜」を着てはしゃぐ葉月と、二つ目は俺の懐にある大金リアルマネーにあった。

何故大金リアルマネーなんて物を俺が持っているのか?それは簡単、ゲームショップ産の武器を売ったのだ。

俺的にはそこまでの武器でも無いし、店主の言い値で売ろうと思ったのだが、そこで葉月からの待ったが入った。どう見ても安すぎる、との事で、何やら交渉を開始し、最終的には店主の言い値である日本円換算にして10万円程度から、その15倍の150万円程度になった。

大地の大盾、月射る長弓、空穿ち地を断つ、以上三点が450万円で売れた。

因みに、これらを買うのに必要な聖痕コインは一律50。ガチャ一回1コインなので、五十連回すと貰えるようになる。のだが、50連回すのに必要な金は大体15000円……。

分かって貰えたか?

ぐぅぅぅ……申し訳がねぇ。

100倍……100倍って……どうなんだこれ。

日本の法律的には大丈夫なのか?独占法とか触れてない?それ以前にこの金策はくそ程心苦しいから二度と売らない。

葉月曰く正当な値段らしいが、嫌なもんは嫌だ。なんかこう、転売ヤーになった気分だった。あの〇ソ共め……グッズの恨みは忘れてねぇぞ。

まぁ、それはともかく、せっかく金が入ったんだ。突っ込むか。

てな訳で、百万ほど課金した★

これが世に言う3ねる〇ろ。

一度に課金して良い額ではありはしないが、正直に言う。スゲー気持ちいい。

ちょっとだけならもう一度売っても良いんじゃないかと思ってしまう…。

「いや、駄目だろ。普通に」

はっ…そうだな。ダメだわ。

「どうかしたのですか?欠月殿」

「あぁ、いや何でも──」

声の方を向き、唐突に思い出した。

そう言えば俺───

(現実逃避を、してたんだったなぁ……)

「な、い」

俺の視線の先には、剥き出しの南十字大剣サザンクロスを背負い、腰には同じく剥き出しで黒い美しい刀身をしている漆剣しっけん海豹アザラシ、初期刀を装備した、葉月がいた。

「どうしたんです?船を買いに行くのでしょう?速く行きますよ」

そう言いながら欠月の手を引っ張る朔夜。

「あぁ、うん。わかった」

そう言って、俺達は港へと向かった。

数時間後。

金に物を言わせてちょうど二人が乗れるくらいの小舟を買い、今二人は海の上にいた。

マップ機能生きててホントに良かったな……なかったら詰んでたまである。

そんな事を思いつつ、葉月の方へと目をやると、再び現実逃避したくなってきた。

何でって?ステータス三倍効果が今も続いてるから。数時間、ずうっと。

ゲームでは町中では発動していなかったし会話挟んだりマップ移動するとまた三十分経たないとステータス三倍効果は発動しなかったんだが……。

なんでずっと永続してんの?まじで?え?ほんとに何で?

おかしいだろーーー!?

こ、こんなん俺、まじでクソザコじゃん!おかしいじゃん!なんで効果時間設定してないんだよ!とんだぶっ壊れじゃん!うわーーー!俺も聖装使いたひーー!ずるいだろ!高々ヒロインってだけでこの優遇は!なんで聖装なんて使えるんだよォォ!!

うわぁぁぁぁん。運営がモブを虐めるぅぅぅ!

…………

よし、落ち着いた。

真面目に何でだ。やはり効果時間が設定されて無いのだろうか?

現実かした弊害……害と言えるかは分からんが。

まぁ兎も角、これで例のダンジョンの攻略はイージーゲームになった。

あのダンジョンは61層からが真のエンドコンテンツだしな。

10層までなら星一キャラのみの編成でも……頑張れば行ける。

と言うか、60層まではキャラパワーで攻略可能……なのだが61層からは難易度がバグる。昔はよく主人公単騎で突っ込んでいたものだ。ちな、俺の記録は93層。主人公単騎でこれを越えたやつは見たこと無いね!

普通にやっての100層攻略者も見たことない。

あ、とか言う落ちは無い。俺の最高到達階層は98層だ。

ガチで大変だったわ。飲まず食わずの世界レコード書き換える位には。

あの時は完全にキまってたよね。

スポーツ漫画読みながら「プークスクス。ゾーンなんてある分けねぇだろ」って笑ってた人間だけど、過去の自分を無性にぶん殴りたくなった。

そんな過去のことを思い出していると、目的地に着いたようだ。

「お、此処だな」

そう言って不安定な船の上でゆっくりと慎重に立ち上がった。

「あ、あの、欠月殿を信頼してないわけでは無いのですが、此処には何も無いですよ?」

「違う。下だ、下」

「は、はぁ!?」

恐る恐ると下を見た朔夜は驚愕した。

そこには、

「あれが、世界最高難易度ダンジョン、くそったれのエンドコンテンツ。深海の不可侵領域、その名も、」

ただ、巨大な、

「深淵の門だ」

門が鎮座していた。


深淵の門

ゲーム「聖なる神と希望の王」におけるエンドコンテンツその一。60層まではライトなユーザーでも余裕を持ってクリア出来るが、100層は攻略者が出ないほどの偏重ぶり。ただし、十層ごとの宝箱からの報酬はめちゃめちゃに美味しい。さらに、所謂エリクサー枠のアイテムが複数ドロップするので、欠月的には低階層は良い稼ぎ場らしい。

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