第87話 異端の剣
魔法剣、それは異才・葉月朔夜が産み出した剣と魔の融合技術──ではない。
それは、あえて分類するなら詐術の類いだ。
理論的には、剣士の動き、つまりは型や技を詠唱の変わりとして魔法を発動する儀式魔法の類い…なのだが。
ならば、何故「詐術」と評するのか。
儀式魔法とは、詠唱魔法と同じで、「魔法的に何かを表す特定動作」を組み合わせて発動に至るものだ。
当然、葉月朔夜の動きにそんなものは取り入れなれていない。
ならば、何故魔法剣は魔法剣足り得ているのか。
葉月朔夜の魔法剣は、世界を欺いている。
この動きは、魔法的に意味のある動きだと。
そう、世界を錯覚させている。
それこそ詐術と評する所以。
それこそ彼女の至りし境地。
世界に対する詐術。
それこそが魔法剣の本質である。
───だが、今、玄月が使っている魔法剣は、少々異なる。
朔夜の使う魔法剣が世界を欺く詐術なのに対し、玄月のこれは彼の動きを
つまり、
(一瞬、遅れが発生する)
詐術は世界に交渉を仕掛け、事前にそれが了承される。
しかし世界が彼のイメージに合わせるのでは、僅かに、ほんの刹那にも満たない時間ではあるが、少しのラグがあった。
(それと、勝機はもう一つ)
この場所では、
例えば、通常時はオートで発動出来るスキルは、今はマニュアル発動になっている。
つまり、理論上───
(可能になるんだよな、これがっ!!)
魔法剣、起動。
その剣の名は、光輪。
神の使徒たる証明にして、その身を護る光の魔剣。
雷が蹂躙した身体が、光によって癒される。
「っっ」
苦痛が、駆け抜けたそばから癒される。
実に奇妙な感覚だ。
だが、これならもっと
(雷光、出力っ、全開)
視界が一瞬赤く染まり、嘔吐感が腹の奥底から押し寄せる。
「カハッ」
赤黒い血が床を濡らした。
「流石にキチィ」
明らかな隙を見逃してくれる程、相手は優しくはない。
「あっぶねぇ」
背後からの凶刃を、そのまま転がって回避する。
「ん゛っ!?」
勢い余って、壁まで飛んだ。
激しく背をぶつけ、再び血の塊が口内を通過する。
「う゛ぇ」
ドロォと血を口から流しながら体勢を整える。
幸い、と言って良いのか、
(到達まで約1秒半。それだけありゃ十二分)
勢い良く立ち上がり、
「オラァ!」
掛け声と共に投擲姿勢に入り、刀を投げる。
「…っ」
此方に駆け寄っていた玄月は身を剃らして回避する。
その隙に、欠月は別の武器を取り出した。
「流石にそれでアンタの相手は荷が重い」
新たに取り出した武器を構えて、玄月を見る。
しかし、もうそこに玄月はいない。
「当て勘っっ」
気配──床の軋みや風の音、そして炎の揺らめき──を感じた方に視線より先に刀を置く。
再び、刀が重なった。
(体勢が悪い。力が入らん。が、)
「関係、ねぇな」
片手で持っていた所に、もう片方の手を添える。
(弾けろ、雷ィ…!!)
「何だ、それは」
玄月が呆然と呟く。
発光。
欠月の体躯は、内より出でる雷と癒しの光によって、うっすらと発光していた。
「さぁな。俺にとっても未知だよ」
そう応じつつ、後方へ。
「逃がさん」
「逃げねぇ」
啖呵は切った。
それはもう、十分な程に。
だから、後は果たすだけ。
「有言っ」
あれ程見えていた
「実っ」
踏み込む。
俺がこの男に勝つ可能性があるのは、速さと技量の二点のみ。
しかし、強化されたこの男を前に、俺の技量と言う武器はあまりに脆い。
(ならば)
強化が、世界が追い付く、その前に。
(最短距離で、最速で)
「行ッ!!」
勝つ。
スキルのオートとマニュアル発動
通常欠月では、あらゆるスキルを介して発動くる技術は、発動までがマクロ化され、精々形状をいじる位しか出来ない。マニュアル状態では自分自身で術式の組み立て等が可能な為自由度が上がる。
今回で言えば、魔法剣の同時発動などはマニュアルでしか出来ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます