第88話 天主外理、相対する Ⅱ

『でしたら、克ちますよ』

いつか吐いたその大言壮語は、今ようやく果たされた。

「ぐっ……ふ」

大胸筋をバッサリいったが、やはり死んではいなかった。

「これで、終わりだ」

そう言いつつ、玄月を避けて道場の奥、掛け軸の方へと向かう。

「私が、言えた口ではないが……後を、頼んだ」

その声には、後悔か、あるいは……いや、その推測は下衆と言えよう。

「言われずとも」

そう言って、掛け軸をめくる。

「……」

掛け軸の裏に隠されていたのは、地下への入り口だ。

(待ってろよ、クソアマ……しっかり、役にたって貰うからな……)


◆◆◆


「わぁ、本気マジで来たぁ」

引き気味なその声は、目の前の刀から聞こえてくる。

「テメェ……いや、もういい……疲れた……取り敢えず、役に立てよ…何が出来る?」

イラッと来たのを喉元で抑えて、助けると豪語した彼女の能力を聞く。

「私が出来る事は十五コ。その内の一つだけ」

創造、暴食、破壊だのといった能力が15あり、今はその内どれか一つだけを使える状態らしい。

「……具体的な能力を教えてくれ」

別に、能力名を教えてくれとは言ってない。

「だから、が全てよ」

「──……権能、だったな」

権能。

理を越える理。

転じて、屁理屈理不尽とも言う。

(───ようは、使用者権能者本人が、と信じていればそうなる)

何故ならば、屁理屈それが理屈となるからだ。

例えば、【破壊】ならば、自分と他者の間にある空間を破壊して転移とか、そんな感じで、「そうはならんやろ」を体現するのが権能者彼ら、であり、目の前のコレと言うことだ。

「じゃあ、創造で」

「へぇ……一応聞くけど、なんで?」

俺のチョイスが意外だったのか、聞いてくる。

「創造なら、お前の力抑え込めるかも知れんだろ。ちょうど、素材もある」

仮にも神の遺体なら、この女の力を抑えて込む鞘の一つも創れよう。

「……ふっ…ふふっ……良いわ。合格っ。私を手に取りなさいな、ワタシの悪友ロメオ?」

幻視した。

御光を背負い、こちらに手を差し出す彼女を。

神々しくも、どこか親しげに笑みを称えるその美貌を。

──そして、有無を言わせぬその瞳を。

元より有無を言うという選択肢などワケではあるが、どうにも鬱屈な気持ちで、俺はその手を取る。

「はぁ……謹んで、我が社長パトロン


◆◆◆


「チィッ!」

剣撃、雷撃、そして超重量が飛び交うその戦場で、忍者達を指揮するレイラはほぼほぼ撤退戦を強いられていた。

最初こそは良かった……いや、アレを良いと評するのは、業腹ではあるのだが、現状と比較すれば、まだマシだった。

なんらかの術により巨大化させた鎖鎌が、あの神の首に巻き付き一時結界から離す事には成功したが、あの神はすぐに興味を無くし、再び結界に巻き付いた。

計三度程それを繰り返し、これは無意味だと悟ったところで、戦術を切り替えた。

奴を攻撃し、こちらに興味ヘイトを向ける作戦である。

レイラと朔夜が上下方向から首を切り落とそうとして、雷を落としたその瞬間、八本の首が二人を睨んだ。

まず攻撃されたのは首の下にいた朔夜だ。

方法は単純。

その身体……超重量を、地面に叩きつけたのだ。

もっとも、彼女はヌゥンッ!などと言って弾き返したが。

まぁ兎も角、作戦通りこちらに敵意を向けてくれた……だが、予定外だったのはその強さだ。

ある程度、いっそ過大な位の評価を下し、それでなお問題ないと断じたはずだったが、完全な予想外である。

「レイラ殿ッ!来ますッ!」

朔夜が叫ぶ。

「解ってるわよッッ!!」

四本首による水流ブレスを、己の雷により打ち消す。

切り札の一つである雷神トールは、早々に切らざる終えなかった。

それ故に、髪は赤化し、その瞳は純金の如く輝いている。

今の彼女は絶好調と言って相違ない。

それでも、

(くっ。避けようにも、これじゃ自軍に被害がッ)

ブレスは継続火力の多段ヒット攻撃である。

対して、雷は多段ヒット攻撃ではあるものの継続火力には事欠く。

その相殺は、雷では相性が悪いと言えた。

水を渡り、雷が奴らにダメージを与えてはいるだろう。

しかし、アレらは神である。

そう簡単には倒れない。

何より、忍者味方達が足枷になっていた。

「違いますッ、レイラ殿ッ!」

気付いた時には、遅かった。

(回り、込まれたッ!)

右後ろで、神の顎が開かれる。

それを中心として、水気が消え失せ、口の中には高密度のエネルギー体と見紛うような水球が生まれた。

(四本は、ブラフッ!)

アレを喰らえば、流石のレイラといえども無事ではすまない。

死ぬことは無いだろうが、戦力低下は免れないだろう。

(クッ──ソッ!)

覚悟を決めた、その時。

「レイラ殿、我らに気遣いは無用です」

影達の長が、その顎を縛り、閉めた。

パァァァンッ!

破裂音が鳴り響き、頭を失った首が高速で引いて行く。

奇襲の失敗を悟った四本首もブレスを中断した。

「ありがと」

「礼には及びません。それと、気遣いは不要。この戦いについて行けない者は街に向かいました」

気付けば、長や一部の実力者を除いた忍者達は消えていた。

「そう。死んでも恨まないでね?」

「何を。元より、その覚悟」

獰猛に笑う男の顔には、微塵も死への恐怖など感じない。

「さっさと来なさいよ……クソボケ」

無意識に出たその言葉を、レイラは欠月クソボケを貶す事で打ち消した。










■■■■原典

彼女を言葉で表すのならば、「善性を持った唯我独尊」だろう。

天才であり、孤高であり、しかして孤独ではない。

きっと、彼の特異点と共にあったなら、その孤独を癒せたかも知れ───ないな、ない。

けれど、彼の者の凶行を止めるくらいは出来ただろう。

───悪友を悲恋の運命ロメオと言うことを、かつての友は悪趣味だと言った───もう、随分前のことだ。

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