第89話 万雷、天地満たし神穿つ
今話から刀状態の原典さんのセリフは『』にします。
「この刀の名は?」
地面より引き抜いた【原典】の器たる刀を抜き身の状態で腰に差しつつ、その刀の銘を聞く。
『
そんな投げやりな回答は、欠月を満足させうるものでは無かったが別に無理に聞き出す理由も無し、その名の由来は置いておく事にした。
「あんたの力は何処まで届く?」
能力の効果範囲によって、取るべき戦術は大きく変わる。
『妨害だけなら、それこそ上の道場を埋めるくらい。だけど、権能を使うとなれば……相手にもよるけど神クラスなら直接刺さってないと厳しいかしらね』
「そうか。手は?」
『あるわよ。少し、キツイけどね』
「重畳」
満足気にそう頷いて、彼は掛け軸をくぐる。
「玄月さん――」
顔を上げ、玄月に声を掛けようとしたところで、気付く。
(いない?)
彼の痕跡として、血痕だけが道場の外へと続いていた。
しかしその血痕は、森の方へと続いていた。
「まさか、向かったのか?」
あの傷で?冗談だろう?
『彼…いいえ、彼らの事は随分縛り付けてしまったからね…自由にさせて上げて』
その声には、どこか後悔の色があった。
「っぱ、碌なモンじゃねぇな。俺らはよ」
『ま、そうね』
ある種、上位者としての共感か、二人は何処か哀愁を漂わせる。
「さて、行きますか」
視線を切り、晦日を待たせている屋敷を見る。
『残った全てを、救いに、ね』
◆◆◆
「欠月、さん」
襖を開くと彼女と目が合った。
「準備が整った。覚悟は?」
愚問と解って、尚問うた。
「命なら、幾らでも賭けましょうとも」
死を前提として生きてきた少女は、今宵初めて、生きるために命を賭ける。
「なら、行こうか」
布都御魂を腰差し、晦日を背負う。
「乗り心地、余りよくないですね」
「じゃあ、コレが終わったら改善案頼むよ」
◆◆◆
『良く見えるわねぇ。ここからだと』
山の頂上、最も高い木の上に移動した欠月は、視線を八首の神へと向ける。
「おい、それより大丈夫なんだろうな?」
木の下にぐったりとした様子で横たわる晦日を見つめ、自身が腰に差す刀へと詰問する。
『問題ないわ。信じなさい』
その断言には、不思議と信じてしまいそうになる力がある。
「オッケぇ。じゃあ、始めるか」
赫邪練哲を引き抜いた。
(ゲームでは装備としては無かったからか、この武器?……武器に装備の為のステータス制限は無かった)
そして、どうように武器としてのステータスすらも、無かった。
しかし、刀としての切れ味で言えば、他を寄せ付けぬ程のモノがある。
そして、魔法に対する補助能力は、ゲーム中に登場したあらゆる武器を上回る。
それは、
(まぁ、兎に角この刀は)
杖としても、扱える!!
「『震えよ、天空』」
声が重なる。
「『我が雷霆の兄弟が』」
辺りに、響く。
「『貴様を打つ時』」
森が震える、大地がすくむ。
「『世界は終局を迎える』」
雷雲が立ち込める。
「『鳴りし音は天打つ雷』」
完全詠唱。
「『
辺りは地獄の様相へ。
様変わり激しく、雷が大地を打ち据える。
雷鳴が
ゲーム的に言えば、それは環境を変えてスリップダメージを叩き込むだけの技。
ゲーム補正による劣化が消えた、だけではない。
完全詠唱、二重詠唱。
それだけでも、無い。
(回路接続、結構威力伸びたな)
元々ゴミ同然だった欠月の魔力回路と、世界レベルに膨大な【原典】との魔力回路の接続により、彼の魔法は──いや、彼らの魔法は大きく威力を向上させていた。
(ゲーム的に言えば、適性究極ってとこか?)
此だけか、と言われれば、否である。
二人の天才による短時間ながらの魔法改造は、天打つ雷鳴を、効果エリア内での雷属性強化と言う新たな境地へと導いた。
「『光は刹那』」
再び詠唱が始まった。
「『雷光は過ぎ去る』」
速く、ただ
「『
遠く、より
「『最果てを目指し』」
収束。
雷が、世界の終わりが一点へと集まる。
「『雷霆が落とすは無比の稲妻』」
「『
山間が紫電に染まる。
一閃。
残した結果は、果たして。
◆◆◆
「……?」
その前触れを、レイラは遠く離れた戦場で感知した。
(今、のは?何?いったい、あれは)
何処かで感じた気配。
決して、良いものでは無かった。
良い思い出であれば、こんな、恐怖と高揚をない交ぜにしたような気分にはなっていない。
その時だ。
八本ある首の内の三本と器用にタイマンをしていた朔夜が弾かれた様に戦線離脱し、叫んだ。
「避けろ!!!」
忍者が消える。
(おもいだした)
あれは、あの気配は。
一つ、じゃない。
幾つもの、いったい、何個の?
欠月、ゼウス、それに、道場の時の────
考えが纏まるその前に、空が紫に染まる。
───────────────────────────────
耳をつんざくような爆音と爆風が吹き荒れて、八つの内、四つの首が消し飛んだ。
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