第90話 奪罰
「さぁて、やるか」
先程の超長距離射撃より数秒も経っていない間に、欠月と晦日は八つ首の神の元へと到達した。
「俺の仕事はここまでだ。後、よろしく」
「はっ、い」
額に脂汗を浮かばせながら、しかし晦日はしっかりと返事をした。
それを確認した欠月は、未だに呆けている神へと刀を向けた。
『それじゃ、今度は私の補助ないから、頑張りなさい』
原典はそう言って黙る。
恐らく準備に入ったのだ。
「さて、制御出来るかな」
欠月が数秒と経たずに
それは、部分式【刹那】の存在だ。
先程放った
それを、欠月自身に使った。
その結果音を超越し、光速に肉薄する程の速度を獲得した訳だが、当然晦日は勿論欠月も身体が耐えられる訳が無い。
なので、【原典】の妨害能力を応用し、
今回はその防護が無いので、俺が【刹那】の速度を調整しつつ
と、考え事をしていたその時、刀身が光った。
「準備、完了って事ね」
いわゆる、牙突の様な体勢を取り、狙いを定める。
「よぉ、神様」
小さく呟いて、目を見開いた。
「喰らって逝けよ。横紙破りの……」
地を蹴った。
大地が抉れた。
そして、
「「「「!?」」」」
八岐大蛇の胴体に、到達する。
「天罰を」
目映い光が刀身から放たれる。
光は刀全てを呑み、八岐大蛇をも侵食する。
『権能【創造】』
十六の理の一つ。
本来は無からの創造ではあるが、本来の使用者でない【原典】が使用した場合、素材が必要になる。
今回の場合は、神の権能。
もしもそれが、可能性世界由来の
しかしその権能は、世界の創世者によって創られた、真性の理。
こと【創造】にかけて、勝るものは無い。
神の権能が、赫邪練哲を包む鞘へと劇的変貌を遂げる。
「っ!」
ふらつき、落ちそうになる。
(ダメだ、今はまだ)
柄を強く握り、痛みで意識を保つ。
「随分と足が速い」
そっと、背中に手が当てられた。
「やっぱ、来てたか
「勿論だ。君のお陰で自由の身だからな。ありがとう」
マジかよこの爺さん、もう傷治ってら。
普通にドン引き何ですけどぉ。
『もう大丈夫よ、離れなさい』
「離れる。運んでくれ」
「了解だ」
小脇に抱えられた俺は、レイラを見つけると、
(何かすっげぇ見られてるんですけどぉ)
取りあえずウィンクしといた。
中指が帰って来た。
ぴえんだ。
「して、次は?」
何で俺に指示求めんだよ、レイラのとこ行けよ普通に。
「街の結界の前まで。その後あんたはレイラ達にこう伝えに行ってくれ」
◆◆◆
「彼からの伝言だ「奴はこれから、命有る限り暴れまくる。止めろ」だそうだ。それと、朔夜には個別に……と」
レイラが青筋を浮かべる。
「アイツ……情報がッ少ないッ!」
雷嵐腕鎚が無駄に放たれる。
「ここが最終決戦と言う訳ですか」
「……えぇ、そうね」
情報の開示を渋る欠月への不満は置いておき、未だに沈黙を保つ大蛇を見据え、レイラは気を引き締めた
◆◆◆
先程の木陰にて、晦日が浅い呼吸を繰り返す。
欠月が……正確には【原典】が行った行為により、彼女に刻まれし契約の天秤は消え失せた。
しかし、あの怪物から攻撃が消えた訳ではない。
「むしろ、そこからが本番だろう」
この場所に来るまでに、
彼曰く、あの神だった者が行った所業が、自らが契約した神の所業と見なされていないのは、あの神の性質故の事らしい。
あの神は、その根源たる【大河】を元に自然信仰のもと生まれた神だ。
そしてあの八本の首は、【大河】より派生した川への信仰が元となって出来ている。
つまり、一本一本が別々の川への恐怖や畏怖などで出来ている。
それ故にその首一本一本は、別々の神として扱われた。
しかし、先程神としての力を
だからこそ───【天罰】が下る。
「奴は殆どの力を削がれ、その身に残る力で出来るだけこの地に爪痕を残すだろう」
今までは
女神の天秤より【天罰】が下り、奴は完全に神としての力を失い、それどころかただの怪物にまで成り下がった。
「それは良い。それを止めるためにレイラと……朔夜がいる」
だが、と。
彼は心配そうに私の顔を見た。
「きついのは……本当に大変なのはお前だ、晦日」
躊躇いがちに、彼は口を開く。
「奴は、お前を───お前のその眼を喰いに来る。新たな、八岐大蛇としての神格を得るために」
アカシャの輪【地】。
欠月の持つ【海】や、□□の持つ【天】と並び、現在全てを見る力を持つ万理万能の輪の欠片。
それも、多分来るのは物理的にじゃなく、
「……ふっ。はは」
渇いた喉が鳴った。
「やっぱり…こう、ですよね」
最早、見栄をはる余裕も無いのかただ真っ白な世界で、晦日は再び過去と対峙する。
「「「「小娘、その瞳をォ差しダセェェェェェ!!」」」」
「煩いなぁ……ちょっと、黙って下さいよ……頭に、響く、ので」
布津御魂を杖代わりに立ち上がり、それを見上げる。
止まらない。
突っ込んで来る。
このままでは死ぬのだろうか?
そう、疑問に思う。
けれど、分かりきった疑問である。
「
横から、声が聞こえて。
その声が、晦日の疑問に答えたのか、それとも、あの怪物に対して突き付けた物かは、目の前を見れば明白であった。
「「「「グゥゥゥゥゥ」」」」
怪物の胴に十字の傷が刻まれる。
その、奇っ怪な太刀筋は。
あぁ、分かりきっている。
あれは、あの剣の道理を無視した斬撃はっ!
「あねっ、うえっ!」
思わず後ろを振り返る。
「晦日……随分、随分と遅くなりました」
後悔や、安堵や、そして優しさが詰まった声と視線が晦日に向けられる。
「無事で、よかった」
感情が、涙となってその頬を伝う。
「……はい、はいっ」
真白の世界で、二人は抱き合う。
けれど、しばらくして二人は名残惜しそうに離れた。
まだ戦いは終わっていない。
「晦日、動けますか?」
現実なら到底不可能であろうが、ここは夢の世界。
ならば、
「はい。動けます」
□□は、既出だったか未出だったか忘れたけど既に登場してるキャラです。最初に匂わせ(?)もしてるんで探してみてね。
可能性世界由来の権能
可能性世界は、簡単に言えば可能性の数だけ世界があるので、全く別の、例えば物理法則が無い世界もあるため、可能性世界で生まれた権能はその権能が生まれた世界線以外では【理】と言える程の絶対性が担保されない。
とは言え理不尽能力であることに変わりはない。
【原典】などの他の世界や他の理が考慮されていない時に創られた権能は、真に理と言える程の絶対性がある。
因みに、可能性世界の権能判定は割りとガバガバだったりする。
例えば、絶対に斬る権能とかは斬れるまで斬るから実質絶対に斬る理みたいな、クッッッッソガバガバ判定。
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