第91話 侵犯者

街に入った欠月は、ボロボロの身体で城まで行き、聖女の前まで到達する。

(いやはや、城門が顔パスになってて良かった)

結界内からも外の状況は見えていた事に加え、ちょっと前にここで治療を行ったのが効いていた。

解呪ディスペル

光の柱に囚われたステラの前で、その呪文を呟いた。

「欠……月…様?」

光の柱に囚われていたステラが、ゆっくりと欠月の腕のなかで目を開ける。

「ステラ、起きて早々悪いんだが仕事を頼みたい」

寝起きの彼女をこき使う事に罪悪感を感じるが、八岐大蛇がいつ動き出すか分からないのでそんな事を言っている場合ではないのだ。

「はい……勿論、貴方の頼みですから」

即座に立ち上がり、此方を見るステラ。

「お前に頼みたい事は八岐大蛇の弱体化と見方への強化だ」

「承知しています。ですが一つ問題が。私は大人数への強化は出来ません。人数を絞る必要があります」

この言葉には、少々語弊が存在する。

正しくは、大人数への強化は使、だ。

あれは、人類全てを英雄へと引き上げる切り札だが無論ここでは使わない。

「レイラと朔夜、それと晦日に対して強化を。それと、赫邪練哲これを持っていけ。お守り位にはなる」

刀を受け取ったステラが侍達に護衛され戦場に向かったのを見て、俺は先程の光の柱が在った場所に座った。

「……何を?」

大名らしきおっさんが聞いてくる。

「大結界はまだ崩壊しきってない。少しでも長く保つから、その間に住人を避難させてくれ」

ここからは、大怪獣バトルが始まるからな。

「君の護衛は?」

「必要ない。この結界の格になるからな、この結界ぶち抜けるレベルの攻撃じゃねぇと俺に危害は加えられなくなる」

「わかった、君の言う通りにしよう」

会話を終えた俺は、精神を集中させる。

(深く…もっと、深く……これか)

崩壊しかけている結界の術式を見つける。

(なるほど……この地の神性を使ったからか、多少持続時間が上がってる。流石だな、ステラ)

ステラを称賛しつつ、俺は結界の修復に勤しむ。

(……ちょっくら、天皇陛下)

結界のあらかたを把握し掌握した欠月は、真下に巡る更なる大結界と大戸港を守る結界を繋げる。

(安定性が増した……そして何より神性が定まった)

この国の神……正確には、天皇が代行している彼の神と、ステラのとこの主神である聖なる神は、共にシンボルが太陽であり、その点において神性が一致した。

(既に穴が空いたとこは……でっけぇ方から引っ張ってきて……修復終了。後は、保つだけ)

静かな長期戦の始まりだ。


◆◆◆


荒ぶりし怪物は、雷光と踊る。

「派手にやってますね……皆さん、巻き込まれないように迂回しましょう」

侍達が乗る馬に護られて、自身も馬を駆るステラは戦場の様子を見て迂回を提案する。

(欠月様……せめてもうちょっと近くに届けて欲しかったです…)

欠月が「置いてきた」と言った晦日の場所を思いだしつつ、馬を駆る。

「……あれは」

先頭を行く侍が声を上げた。

「止まれッ!」

その声と同時に、木々の中から朔夜が飛び出す。

「朔夜さん!」

見慣れた黒髪の剣士は、此方に駆け寄ってくる。

「ステラ殿を借りますっ!」

周囲の侍達にそう言って、馬上のステラを担ぐ。

「え?あ、あのっ」

「レイラ殿から晦日まで行くのなら大所帯で護衛するより単身で行った方が早い…そうでしょう?」

確かに、晦日まで行くのには戦場を横断するのが最も速い。道中、レイラに強化をかけて八岐大蛇を弱体化することを考えればそれが最速だ。

「分かりました、行ってください。侍の皆さん、ここまでありがとうございました」

朔夜に強化を施すと、朔夜は再び走り出す。

「晦日さんの場所は?」

「お祖父様から聞いています。……くッ、レイラ殿、少し派手にやりすぎでは?」

飛来した雷を回避しながら、朔夜は目の前の大怪獣バトルをそう評した。

「もうすぐ支援圏内です。あと30…10…入りました!」

ややレイラ優勢であった怪獣バトルは、完全にレイラの方へと傾く。

「なっ!」

しかし、その程度で終わる程その怪物は容易では無かった。

(あれは、身体強化?いえ、あれは……)

恐らく、小型化による身体の最適化。

八つ首の怪物は、稲妻に焼き払われた四本半分の再生を放棄し、残る四本に能力を集中させた。

「右ですっ!!レイラ殿!」

怪物の口各々から放たれた水流は、先程までと違い指向性を帯びていた。

「チッ!」

神から魔物へと堕とされ、更には聖女による弱体化を受けて尚、その攻撃は致死と言える威力を持つ。

(だけじゃない)

レイラは冷静に相手の分析をする。

(単純な威力ならさっきまでのが数段上。だけど、小手先の──)

「技をッ!」

足元の地面を割って、水流がレイラを呑まんと迫る。

(これは…蛇っ!?)

再生能力の応用か、その水流には多数の蛇が紛れていた。

(けど)

「そもそも、相性最悪最高なのよね、私達っ!」

雷神が纒し雷が、水を通って数多の蛇を殺す。

「雑魚じゃ小手調べにもならないわよ」

それは奴も分かってる。

(だから)

「まぁ、そうよね」

不自然に生まれた陰に釣られて、レイラは上を見た。

(視線誘導の為の目眩まし…そっちが本命よね……でも、そこは彼女らのよ)

「───退け!」

一刀両断。

朔夜の刀が怪物の首を裂く。

「行きなさいっ!朔夜ァ!」

ついでとばかりに朔夜へかけた雷速は、彼女に路なき路を踏破させる。

ゴゴッ

地面が揺れた。

大蛇の首が、地面よりレイラを囲む。

「はっ?まぁ、じ?」

朔夜が斬ったあれすらも、まさか再生能力の応用だったと?

違う。そんな訳がない。

そんな再生能力があれば焼かれた四本を再生する。

それに、よくよく見れば今放とうとしているブレスからは先程のような脅威を感じない。

だとすればこれは

(召喚?あるいは、生成)

どちらにしろ、これは本体ではない。

なら、本体は何処に?

考えるまでもない。

晦日の下だ。

晦日は、精神世界から攻めてくると推察していたがそれだけではない。

単純に喰えるのなら、それはそれで問題無いのだ。

考え事のその最中、ブレスが四方より放たれる。

「──雑魚共が」

私を殺そうと言うのなら、もっとマシなヤツを持ってこい。

「天の裁断」

四つの雷が怪物を焼き、四体の大蛇は崩れ落ちる。

「……さて、どうしましょうか?」

本体は恐らく晦日の下へ行ったのだろうが、姿は見えない。

空……はない。

だとしたら、地中か、海か。

「前にも、あったわね」

あの迷宮の中。

この世界初めての敗北を最強レイラに刻んだ奴との邂逅で。

「これは、次にアイツと戦った時の為の対策だったけど。まぁ、いいわ」

試すには、もってこいの相手だ。

「───侵雷しんらい

未だ、開発段階ではあるが。

問題なくその魔法は発動された。

それは、稲妻アルゲス雷鳴ブロテンス、まして雷神トール神鎚ミョルニルのような派手さはない。

けれど、精密に、精巧に。

術者の腕が顕著に出る。

原理は単純。

生物に流れる電気信号を察知する。

ただそれだけ。

「見っけ」

地中までも掌握せし雷神は、

限定解放リミット・オン

再び世界に足跡を刻む。

灼火の神鎚ミョルニル

灼雷は大地を貫き───

「掴んだ」

「「「「Guiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!?」」」」

大蛇の本体を、貫いた。


◆◆◆


「ステラ殿っ、晦日は、大丈夫なのですか?」

晦日の下へたどり着いた二人は、グッタリと寝ている彼女を囲む。

「……脈はあります。まだ大丈夫、まだ、助かる。……けど」

分かっている。

分かってしまった。

精神こころが、侵されている。

折れてはいない。

まだ助かる。

けれど、誰かが行かなければ。

晦日彼女だけでは、助からない。

でも、それは精神世界であの怪物と対峙するのと同義だ。

たかが人が、何百、あるいは何千の時を生きた元神にその世界で勝てるのか。

『それに勝てなきゃ、人は革命者足りえないでしょうに』

第三者誰かの声が、聞こえた。

「何者ですかっ!」

朔夜が即座に腰に差した刀を握る。

『私が何者か、それは今関係ないわ。重要なのは、そこの子を救う事でしょう?』

「……貴方になら、救えるのか?」

『いいえ、。私の手を取りなさい、葉月朔夜』








90話終盤に繋がります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る