第92話 予期せぬ邂逅
『私の手を取りなさい、葉月朔夜』
貴方は、一体何者だ。
疑問はあった。
けれど信じてしまう力が、その声にはあった。
「危険です。方法を考えるので、時間を下さい」
別の選択肢も、あった筈だ。
けど、
『そんな余裕は無いわ。どっちなの、朔夜。貴女の意思を聞かせなさい』
信じて、しまった。
「この、戦いは…私と……私と、晦日の戦いだ。だから、私は」
もし、死ぬことになったとしても
「一緒に戦いたい」
震える声で紡がれた言葉に、ソレは答えた。
『良いわ、貴女には私を握る資格がある。……空刀・叢雲、アナタに新たな銘を与えましょう。【望月】……仮ではあるわ。私はアナタの製作者じゃないから。だけど、一先ずアナタの主人のサポート位は、出来るでしょう?』
刀の色が変わっていく。
「こ、これは……?」
『今は問答をしている時間は無いわ。握りなさい。招待して上げる』
「…!…ステラ殿、すみません、後を頼みました」
◆◆◆
万感。
まさしくこの一言に尽きる。
晦日が動いていて、刀を振るっている。
なんと、嬉しい事か。
そして、目の前には最愛を奪おうとした仇敵。
「姉上、私が合わせます」
横に、晦日が並ぶ。
「──いえ」
だが、その言葉はいただけない。
「ここは精神世界。ならば、貴女のイメージ通りに身体が動く筈です」
そして、そうならば
「私が合わせます。……少しは姉面をさせてください」
苦笑しつつ、そんなことを言う朔夜。
「いいえ。いいえ、姉上。貴女は、どう在ろうとも私の姉だ」
晦日は後半部分に込められた朔夜の罪悪感を否定する。
その上で、
「振り落とされ無いで下さいね、
「私の前を行ってみろ、
形は違えど才在りし姉妹が神殺しに挑む。
◆◆◆
「……勝手な事をしてくれましたね」
もう遅いと分かっていても、ステラはその恨み言を言わずにはいられない。
『まぁ、生き残るでしょう。あの子達、強そうだし』
そんな適当な事を、唆した張本人が言った。
「貴方ッ」
『事実、あれしか方法は無かったでしょう?』
今は兎に角時間がない。
きっと、優しい
『むしろ、貴女が今考えるべきは彼女らが勝利した後でしょう』
「……分かっています」
【原典】の言葉に、ステラは不承不承と頷いた。
仮に、姉妹が八岐大蛇に勝利したとて、晦日の病状が一気に好転するわけではない。
悪化することはないだろうが最悪の場合は衰弱死もあり得る。
「貴方が何者かは分かりません」
チラリとステラは欠月より預かった刀を見た。
「ですが、今は私のすべき事をする」
共に寝ている晦日と朔夜に両手を当てて、ステラは魔法を使う。
「……終わったら、色々と聞きますからね、欠月様」
◆◆◆
「─────誰だ」
結界の維持に神経を集中させる欠月が、おもむろに呟いた。
その部屋には、誰もいない。
先程までいた大名やその家臣も怪物と化した八岐大蛇討伐や民衆の避難の為急いで軍を出しているはずだ。
いや、城にくるまでに見た限り軍の編成は済んでいたので今はもう戦っているのかも知れない。
「私です」
玄月の声が響く。
「貴方か───」
(違う)
先程感じた気配は、玄月のモノではない。
「まだ、いるな」
欠月のその言葉に、空間が浮いた。
「────ンャ、バレるとは思わなんだ」
和の装いをし、腰に刀を差した男が、何も無い空間から現れた。
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