第33話 時、既に───

ケ」

その一言で、廊下全体が揺れた。

「前は私に任せて下さい。後ろを頼みます」

葉月はそれだけ言って、所狭しとこちらへと向かってくる元十層ボスの群れへと走る。

「はい、お任せを」

ステラがそう返答し、鬼の間から見える後方火力達へと向けて魔法を射出する。

だが……

(やはり、効き目が薄い)

いや、正確に言えば十分に効いている……しかし、相対的に効果が下がっている。勿論相手が強くなっているのもあるが、それを計算にいれても少し異常な程だ。

(それに、私が知らないアンデッドも見かけます……なるほど、天主外理とはそう言う……?ならばあれの眷属もやはりこの世界には属しませんか)

……不味い。

最悪を振りきっている。

今のところ、あの巨鬼のアンデッドには神聖魔法が従来の威力を発揮出来ているが、その他の魔物達には効いていない。

それに、負烙クラスの眷属が一体のみと言うことはないだろう。

恐らく、あと数体はいる。

それに、先程の黒服の男の発言的に負烙や男はまだ完全ではない。そして、「まだ万全ではない」と言う表現をした以上、何らかの要因であちらの力が万全になる可能性が大いにある。

────もし、それが時間経過ならば───

「最悪、いえ、それ以上…ですか」

余所見をしていた。

集中力を欠いていた。

表現は何でも良いが、後から客観的に考えてステラと葉月が分断されたのはそれが要因だ。

「メイベル!!!」

怒号ともとれるような大きな声が鼓膜を叩き、やっとメイベルは自分と葉月の付かず離れずだった距離が、大きく離れていたことに気付く。

「っ───」

気付いた時には既に遅い。

最後に刀を持つ少女が細剣を持つ細身の青年と刃を交えたのを見て、ステラの視界は巨鬼のアンデッド達に塞がれた。

「……そこを、退いてもらいます」

致命的な失態だ。

戦闘に慣れてない。

そんなものは言い訳にもならない。

私は聖女だ。

常に完璧であらねばならない。

私は聖女人類の希望だ。

常に最前でなければならい。

もし、この失態で葉月彼女が死ぬのなら。

私は聖女で在れない。

世界の為に、歪んだ聖女の双肩には、人類の重みが載っている。

もし、死して尚死ぬような鬼達がいるのなら、きっとそう、それらは「重み」が足りなかった。


◆◆◆


「っチ!分断されましたかっ!」

葉月は舌打ちをしながら、目の前の男を観察する。

細剣レイピアを構えた白いスーツの男。

仮に欠月が相対したなら、「スカしてんじゃねーよ英国紳士風サディストが。迸る情欲隠せてねぇぞファッキン野郎」とでも煽っていただろう。

まぁ、そんな明らかに戦いに向く格好の男ではないが───そもそも戦いに向く格好の者と言ったら骸骨騎士その他名無しの眷属位しかいないが───その技量は並みの戦士以上、と言うか、強い。

何より、速いのだ。

「っ!」

レイピアを刀で反す。

少し遅れて、頬を血が伝った。

「イィ…反応ですねェ」

非常にネットリとした声音で恍惚の表情の青年が呟く。

「変態っ!?」

鳴り響く警鐘の強さに、思わずそう叫んで大きく後ろに飛んだ。

「おやおや…露骨に顔をしかめるものではありませんよ、お嬢さん?」

今度は紳士のような顔付きになり、優しい声音でそう言う。

落差が、落差があまりにも酷すぎる。

「……」

これには葉月も思わず絶句。

そして葉月はこう思う。

(ヤバい人だ……)

と。




欠月「いや、落差がDV彼氏のそれで草」

ステラ「うわぁ(ガチ引き)」

レイラ「ヤバァ(ドン引き)」

黒龍「変態だ……関わらんとこ」

葉月「何でちょっと面白そうにしてるんですか欠月殿……」

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