第34話 邪法の剣士

「くっ」

レイピアによる高速の突きに、葉月は対応しきれていなかった。

それは、相手の技量が葉月を越えていると言うこともあるが、何より圧倒的に速さで負けている。

幸いなのは、周囲の骸骨アンデッド達は何も仕掛けてこないことか。

「さぁさぁ、その調子ですよぉ?お嬢さん」

嗜虐的な笑みを浮かべながらも、その声色は紳士のそれ。

その相違に不気味さを感じずにはいられない。

「貴方はッ、何者ッだッ!」

服や肌を切り裂かれながらも、それら凶刃から致命打を受けぬように立ち回る葉月が叫ぶ。

「私ィですかァ?私は虐王、斬将ざんしょう。あのお方の忠実な僕にして──剣ッ!」

その時、身体を低く沈めた斬将が、次の瞬間加速する。

(速いッ!!)

回避では間に合わない。

そう判断した葉月は、左腕を犠牲にする決断を下す。

「ほぉう」

面白そうに笑みを浮かべる斬将。

「捕まえた!!」

しかし、葉月もタダでは済まさない。

左腕の筋肉に力を入れ、力業でレイピアを止めた。

「フッ」

刀を下から斬将目掛けて切り上げる。

斬将はそれを抵抗すること無く受け入れた。

しかし、

「ガッ!?」

次の瞬間、葉月の腹にとんでもない衝撃が加えられ、レイピアは引き抜かれ、葉月は吹き飛ばされた。

「うぅん?あまり痛く無いですねぇ…貴方、本気出してますぅ?」

斬将は自分の傷を指で拭い、舐めながらそう言った。

「……本気、だと?」

出しているに決まっている。

奴を相手に出し惜しみしている余裕など───

『なぁ、何でお前魔法剣使わないの?』

余裕、など───

(そうだ)

余裕など、無いだろう。

何を、出し惜しみしている。

言っただろう。

彼女メイベルに、命を掛けると。

誓っただろう。

晦日に。必ず助けると。

(一体、私は、何をしている!!)

自戒。

自らへの憤怒。

故に彼女はその剣を取る。

────例え、怒りの火が自らを焼こうとも。

「あぁ───すまない」

それは、誰へと向けた謝罪か。

分かるものは彼女だけ。

しかし、斬将にも分かることが一つ。

「やっと…本番ですかァ」

「待たせたな、斬将。続きを始めよう」

「良いですねぇ───バイブス上げてイきましょォ」

その剣の名は、魔法剣、恚怒いど

主人すらも焼き尽くす、最悪の魔剣だ。

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