第32話 天主外理

「きゃっ!」

負烙が光の粒となって消滅し、突如体重を預けていたものがいなくなったステラは空中に投げ出された。

「っと、危ない」

静止したスケルトン達の間を俊敏に潜り抜けた葉月がすんでのところでキャッチする。

お姫様抱っこ的な体勢になりながら、一様の警戒でアンデッド達から距離を取ってステラを地面に降ろした。

「ありがとうございます」

ステラが礼を述べ、会釈をした。

「いや、むしろ此方こそ礼を言うべきでしょう。有り難う御座いました……その、何と御呼びすれば良いでしょうか?」

目の前の少女が聖女であることはほぼ確定だが、だとしてもそのまま聖女様、ないしステラ様と呼ぶのもどうなのだろうか。

「そうですね……もうほぼ意味ないと思いますが、メイベルと……偽名です」

「分かりました私の事は葉月でも朔夜でも好きに呼んでください」

「はい。分かり───っ!?」

何故、自分の言葉が途切れたのか、ステラは分からなかった。

「──クッ」

その悲鳴が葉月の口から漏れた時、ステラはようやく自分が葉月の腕のなかに収まっている事に気付いた。

「終わったとでも思ったか?残念だな。おかわりだ」

負烙よりも、余程しっかりとした肉声だ。

それはまるで、人のような。

「貴様っ…何者だっ!?」

葉月が左腕の骨で受け止めた骸骨騎士の刃を力業で押し返しながら黒いタキシードを着た人間(?)に叫ぶ。

「オレは天主外理……聖神と邪神この世界の理の、外から招かれた存在さ」

それは、彼の個人名を告げる回答ものではなく、この世界での立場を明らかにする返答だった。

「まさか、我が眷属の一柱たる負烙を打ち破るとはな……称賛に値する」

黒いタキシード見慣れぬ服を着た男は、「嗚呼…」と残念そうに首を振る。

「しかし残念でならない。先程の少年と少女。あれは少し厄介だ。決着を着けて、どちらが君達と合流する前に君達を消して置かなければならない……だから、君達と語らっている時間は無いんだ…」

「「元より、此方は語らうつもりなど毛頭無い」」

ステラと葉月の声が重なり、葉月の傷はいつの間にか消えていた。

「ほう、ならばちょうど良かった。彼等を始末したまえ、我が眷属」

男の影が伸びた。

そして、その中から先程とは比較にならない数の骸骨騎士と魔術師が───いや、違う。

下に、何かいる。

「竜……?」

ステラが呟く。

竜騎士。

いや、それだけではない。

「ほう?この場所には死が漂っているな」

そう、男が言って、影が更に伸びる。

「これは……」

百にも届く巨躯の鬼は、その全てが死んでいた。

「う、そ…」

「ふむ。こう言うのはどうだ?」

男は無造作に片手のひらを地面へと向けた。

でよ、負烙」

先程倒した強敵が、いとも容易く、再生される。

「申シ訳アリマセン、アルジ

「良い。お前の力もまだ万全では無いからな」

「寛大ナ御心、感謝致シマス。コノ失態、挽回ノ機会ヲイタダケナイデショウカ」

「ああ、良いぞ。ついでに、コイツらの統率権もお前にやろう」

「有リ難キ幸セ」

会話を終えた男は、まるで観戦するように巻き込まれない後ろへと下がり、ステラが張った結界にもたれかかる。

「───ユルサンゾ、人間」

葉月とステラを見る負烙の目には、侮りと嘲りはとうに消え失せていた。

「お前の赦しなど…」

葉月が海豹黒刀を抜き放ち、

「…求めていないのでお帰りを」

ステラが再び魔法の準備を始める。

─────そろそろ、宵の頃合いだ。



ちなみに、欠月君とレイラの方では今ちょうどレイラが雷神ガチモードに入った位です。

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