第5話 業

「え?」

目の前の少年の言っている意味が分からなかった。

葉月朔夜の格が落ちる?何故?と言うか、何故それで怒っているのだろう?

「良いか!俺程度へこへこ頭下げるんじゃねぇよ!」

そう言って私の胸倉を掴んで自身の方へと引き寄せる。

「へ?」

自然と困惑の声が口から漏れた。

「解釈違いだ。自分の目で人柄を見て惚れ込んだ相手でもねぇ相手にホイホイと刀を捧げるお前尻軽なんぞ、俺の憧れた葉月朔夜じゃねぇ」

ただならぬ怒気を孕み、彼の双眸は私を見つめる。

「しかし、今の私にはこの身しか払えるような対価が……」

「あるっ!」

先程の私に迫る程の大声で叫んだ。

「葉月妹生存の新ルート!それもキャラデザ、声優も未公開の!それを開拓出来るとか、ゲーマーにとってとんでもない価値がある!」

その言葉の意味はよく分からなかったが、妹の為を思っているのは伝わってくる。

何故、会って数時間のこの男が、私の妹の事をここまで思ってくれているのかはわからない。

しかし、その激情に嘘は無いのだと、私の直感が告げている。

「いいか!もう一度俺の要求を言うぞ。ダンジョン攻略を手伝ってくれ。そして、お前の妹を俺に、救わせろ」

「……何か、要求が増えた気がしますね」

「答えはノーか?」

「いいや、勿論、いや、此方からもお願いしたい。妹を助けるのを、

彼は、それで良いとばかりにニヤリと笑った。


◆◆◆


モブ程度に頭を垂れて蹲う彼女は解釈違いだと、思わず感情に流されてしまった。

悪い癖だ。

まぁ、後悔は無いが。

さて、今はそんな事より葉月妹生存の攻略チャートを組み上げなければ。

とは言ったものの、現状で葉月妹に関する情報はその名前、容姿、能力含めてほぼ不明だ。設定集とかにも載って無かった。

分かっている事と言えば彼女がゲームでは全ルートで魔漏症と言う病気で死んでいる事だけだ。……が、俺はその病気に心当たりがある。しかし、それを説明するには、このゲームのメイン、サブ関係なく全ヒロインに共通するある法則を話さなければならない。

それは、全てのヒロインが、「邪神」関係で人生をめちゃくちゃにされているという事だ。

メインヒロイン達に限っては邪神からの呪いを直接その身に刻まれている。

が、しかし、葉月朔夜というヒロインは、それが明かされていない。

しえて言うならば、邪神復活の影響により、聖女が大陸中央から身動きが取れなくなり、彼女の妹が治療出来ずに死んでしまう、くらいか。

しかし、それは、特段「邪神」だから、と言うより、大規模な戦争とたまたま時期が重なったとも考えられる。ならば、妹の病気、つまり、葉月朔夜があらゆる手を尽くして、最後の希望として聖女の神聖魔法を求めて旅に出た原因、それこそが邪神関係なのでは、と言う話だ。

もっと言えば、魔漏症と似たような呪いを持つキャラ──本人は祝福と言っていた──を知っている。

それと同じような状態であるなら、確実に神聖魔法でしか解決出来ない……は言い過ぎだとしても、この世界にその状態を快復させられる手段は聖なる神などの神関連しかないだろう。

が、しかし、ここで問題がある。(弱)だ。

あのダンジョンに潜る理由が増えたな。

(さて、どう動くか)

そう思いながらマップを操作した時、俺は二つの事に気がついた。

一つは、マップの転移機能が課金式で解放可能な事。

もう一つは、最強キャラの一角、葉月朔夜が俺のパーティーに仮加入状態になっていた事だ。

……こう言うのに通知くるような便利機能は……このゲームに期待するだけ無駄か。

まぁ、言うて仮加入だしなぁ。聖装いじれる訳でも、武器変えられる訳でもないし、ただステータスが分かるようになっただけなんだが。

どれどれ?


名前 葉月朔夜

役職 探し人

レベル23

クラス 侍

クラス特性 一騎討ち

ステータス

生命 13800(600)

魔力 18400(800)

筋力 27600(1200)

耐久 13800(600)

瞬発 13800(600)

総合能力 87400

合計成長値3800

固有スキル

月纒

スキル

直感レベル3

刀術レベル3

魔法剣レベル1

火魔法(弱)レベル1

水魔法レベル2

派生スキル

構えレベル4

抜刀レベル4

居合いレベル3


うへー。強いなぁ。まだゲームでの登場より時期が前だからか、俺か知ってる初登場時より少しレベルが低いが。と言うか、何で魔法剣のレベル1?あれ連発出来るからくそ程上がり易かったと思うんだが。現実になったことによる仕様変更か?

まぁ、後々俺が手に入れたら検証してみるか。

「さて、そんな事より課金しますか」

え?ほぼヒモ状態のお前にそんな金あるのかって?問題無い。移動費を突っ込む。

そう、これは世界各地の転移門を解放するための正当な課金なのだ!と言うわけで、全額ポチ~ー!

さぁて、転移門解放するかぁ。

ビビィ

そんな音が鳴り、こんな文が目と鼻の先に写し出された。

『転移門は一度訪れるか、一度訪れた事のある人物をパーティーに加入させない限り解放出来ません』

さすがにそこまで甘く無かった…。

いや待て、朔夜の仮加入はどういう扱いになるんだ?

そう思い少し画面に触れて位置を移動し、出てきた島国の転移門の一つをタップする。

『10000聖石消費します。よろしいですか?

はい

いいえ』

もちのろん

「はい!」

あずまの国 大戸港の転移門が解放されました』

くぅ、これで残りは150000聖石ちょい。10連1500聖石だから……って、何計算しようとしてるんだ、俺!これは移動用!そう!移動用なの!

「でもちょっとだけなら…」

やめろぉぉぉぉ!!

それで何度地獄を見たか忘れたか!!

抑えろ!抑えるんだ!俺ェ!

「え?押せって?」

違っ

ポチッ!

あっ

「こい!虹!こい!」

虹色の確定演出が出たところで、今の彼には特に何の利益も無いのだが、やはりガチャというのは業が深い。

「ノォォォォォォ」

なお、結果は全て被りだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る