第4話 欠けたることも

「ダンジョン?何処のです?」

この辺りにダンジョンは、例のクリア後入れるようになる奴を覗けば無い。

だからだろう、訝しげに此方を見ている。

「未発見で特大のヤツさ」

「……信用出来ないですね」

「……分かった、なら、嫌でも俺の要求を飲ませるだけだ」

そう言いながらテーブルの上にあるナイフの手にして……

「なっ!何をしている!」

葉月がみを乗りだし驚愕した。俺が自分の手のひらを切ったからだ。

「まぁまぁ落ち着け」

そう言いながら、神聖魔法を発動させ、その傷を治した。

「……それ…は…」

この世界の水魔法以外の回復魔法は、神聖魔法のみだ。

下を向く葉月

「て事でぇ、もっかい俺の要求いうね?ダンジョン攻略手伝───」

邪悪な笑みを浮かべて再度要求を言おうとしたところで、それは葉月の大声にかき消された。

「大っっっ変失礼しました!!今までの無礼!許して欲しいとは言いませんっっ!どうか!そのお力を病床に伏す我が妹の為に貸して頂けないでしょうかっ!その為ならばこの身この刀、御身に捧げる所存ですっっ!!!」

そんな大声がカフェ内に響き渡る。

一瞬にして店員や客の視線は、おそらく自らのモノであろう刀を捧げるようにして少年へと平伏する少女と、その平伏対象の少年に集中した。

「……はっ!分かった!いくらでもお力添えするから、取り敢えずここ離れよ?ね?」

目の前ので大声を出され、しばらくの間呆けていた少年が再起動し、少女に退室を促す。

「ま、真ですか!?」

「か、会計ー!嘘吐く理由無いだろ」


◆◆◆


再び場所が変わり、今度は宿屋だ。

因みに、俺は金持ってなかったので、葉月に奢って貰った。

情けない?ヒモ?

なんとでも言うが良いさ!美女のヒモなら勝ち組だ!

……言ってて悲しくなるくらいにはまだ日本の倫理観が俺にもあるらしいな。

まぁ、それはそれとして今は目の前の葉月朔夜との会話に集中しよう。

「あの…何とお呼びすればよろしいでしょうか…?」

葉月は過去の己の言動を省みているのか物凄く居心地が悪そうだ。

そう言えば、こっちに転生してから、この体の名前とか知らなかったな。モブA程度の認識しか無かったし、興味も無かった。

しかし、前世の名前と言うのも味気ない。もういっそ新しく考えるか。

そうだな……葉月……月……望月もちづき……うんそうだな。

「……欠月かくつき、とでも呼んでくれ」

しばらく俺が黙っていたためか、不安そうにしていた顔が一気に明るくなった。

「欠月!了解しました!」

……可愛いな。こいつ。

ゲームの方だと、妹のこともあって主人公と恋仲になった後も大体クールでシリアスなお姉さんキャラだったし、ゲームだと妹ちゃん救済ルート無かったからなぁ。

「さて、葉月の目的を確認したいんだが、神聖魔法で妹さんの病気を治す、で良いのか?」

「はい、相違ありません」

「じぁあ次は俺か。俺はダンジョン攻略を手伝ってくれるだけで良いんだが……」

「それでは私の気がすみません。どうか、この身を御身の剣とさせて下さい」

いらねぇ。いや、人員としては超が着く優良物件だけどさぁ、コイツ、多分俺の事聖者聖女の男版か何かと勘違いしてるし。ただのモブなんですけど。

それに、何て言えば良いのかなぁ?

確かに、妹のためにその身を犠牲にするのも、知ってそうな奴を脅すのも、良いんだよ。

だけど、なんて言うかねぇ?

例えば、いまここにいたのがかの聖女ならば、こんな感情は抱かなかっただろう。

例えば、ここにいたのが主人公ならば、さして疑問は無かっただろう。

────あぁそうか、分かった。

解釈違いなんだ。どうにも。

葉月朔夜という前世と今世を合わせても届きようも無い、途方も無く俺にとってデッカイ存在なんだ。

「頭を上げろ」

だから、こんなモブ木っ端に頭を下げて欲しく無いんだ。

「葉月朔夜の格が下がるだろうが」




主人公、超厄介オタク

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