第99話 凶報は旅立の知らせ

「んぇ?」

「起きて下さい!欠月様!」

うっすらと目を開けるとそこには聖女様美少女のご尊顔がドアップで視界を独占する。

(……随分と豪華な目覚ましだな…)

呑気にそんな事を考えつつ、欠月は意識を覚醒させる。

「何かあったか?状況は?」

ステラの焦りようからして、只事ではないと判断し、状況を問う。

「私が説明しましょう」

横に控えていた朔夜が、説明を始めた。

「数時間程前にお祖父様の元へ皇都……天皇陛下からの使者が訪れ、欠月殿への手紙と、報奨を預けて行きました。レイラ殿に対する手紙もあったのですが……その内容が…」

ステラが差し出して来た俺宛の手紙を開封し、中身を見る。

「邪神が、復活したと」

ステラが引き継いだその内容を、欠月はしばらく吟味する。

「ステラ」

「!…はい」

「聖都へ帰る。レイラにもそう伝えてくれ。

あずまも見納めだ。を済ませろ。それと、先に外に出て待っていてくれ」

一瞬、顔を翳らせて、ステラは退室する。

「それと、朔夜」

「はい」

「お前は残れ」

「!?何故ですか!」

「保険だ」

天皇からの手紙の中には、彼女はしばらく動けない、とあった。

仮に、もし仮にであるが、今東を守る大結界が破壊されれば、それに対応出来る人材がいない。

「今、天皇は動けない。半神の領域に踏み込み、お前は神や神将相手でも充分特記戦力と言えるレベルになった。そんなお前が今、あずまを離れるのは些かよろしくない」

かつて俺が考察した東没落の理由だ。

それで確定だとは言えないが、可能性がある以上、対策しないわけにもいかない。

「──…分かりました」

納得したようだ。

「じゃあ、最後にこれやる」

そう言って、俺が渡したのは、聖装「晦日の満月」。

「こ、れは。聖装でしょう!?流石にもう受け取れませんよ!」

と、言われてもな。

これ、俺が持ってたも使えないし、第一あの八岐大蛇ボスから落ちた奴だから倒した朔夜が持つべきだし、レア度表記ないから多分ストーリー聖装だし。

「八岐大蛇を倒したご褒美ってことで。兎に角受け取れ。──あ、でも次あった時にそのお粗末な魔力操作だったら、スパルタで特訓させるからなぁ?」

「…やはり、気付かれていましたか」

「そらな」

会話をしながら、俺は、赫邪練哲を手に取り、ステラ達が待つ外へと向かう。

外へ出ると、予想外にも人混みがあった。

俺が出てきた事に連動するように、人混みが割れて道が出来る。

「やっと来たわね」

先に待っていたレイラが、こちらを一瞥し、早くしろと言わんばかりにそっぽを向いた。

「欠月様」

声をかけてきたステラの方を見る。

「…随分と大荷物になったな」

「はい、そうですね」

苦笑い気味にステラが微笑む。

「欠月様への物もありますよ?」

「そうかい」

近づきながら受け取る。

「それじゃ」

振り返り、朔夜達の方へと向き直る。

葉月玄月、葉月朔夜、葉月晦日。

それだけではなかった。

大戸港の大名に、若様。

共に戦った忍者達。

それに──あの、患者達の一部も。

「欠月殿」

彼らを代表するように、朔夜が口を開く。

「本当に……本当にありがとう御座いました。この大恩、我等一同、決して忘れません」

そう言い終えると、皆一様に頭を下げる。

「……」

『なんか言ったら?』

(うっせ)

「…まぁ。今生の別れって訳でも無い……いつか、またどっかで会えたら、その時は、よろしく」

少しだけ、悲しくなって。

うまく、言いたい事がまとまらない。

ダメだな、これは。

「朔夜」

「!はい」

「晦日」

「はい」

「なんだ、その。元気でな」

あまり、彼女らの顔を見ていると、少し泣きそうになってくる。

思えば、これはこの世界で初めて経験する、ちゃんとした分かれなのかも知れない。

「それじゃ、いつか、また」

そう言って振り返り、レイラ達の方を向く。

『「夜の清算者」葉月朔夜が、貴方のパーティから脱退しました』

感慨深いな、なんとなく。

『「聖都─教皇の事務室」へ転移しますか?』

yes。

俺の感慨を覆うように、光が俺達を包む。

まぁ、結局俺はそう遠くない未来で、彼女らの力を借りる事になるのだが、それはまだ先の話だ。









聖装「晦日の満月」

本来、出現することのない、惜しみ無き称賛。

仮想の神すらも把握しえない未知数。

万象を、運命を逸脱した奇跡。予定外の、

可能性世界線。

───その奇跡は既に名前が着いている。

そう、

特異点シンギュラリティ

と。

名前 「晦日の満月」

レア度 ──

聖装特性「星月夜」

夜天は星が満たし、月は未だ姿を見せない。

聖装特性「月世視」

月下、逃れられる者なし。

聖装特性「日月星辰」

長い長い夜は終わり、彼女は日すらもその身に纏う。

聖装特性「■■■■」

???



次回 第四章・上 開始。

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