第94話 禊を祓う

───月を纏う】」

彼女の身体を、魔力が満たす。

固有スキル【月纏】。

最早、仮想ゲームの域を逸脱し、神性すら帯びた彼女は、自身の拘束を容易く振りほどいた。

「蛇よ───覚悟は、良いか」

【望月】を手に取り、溢れる力に任せて一刀を振るう。

「……少し、見通しが良くなったか」

血肉より出でた怪物達が一掃された。

「まだ抗うか、人間ッ」

喰っている暇は無いと判断した大蛇は朔夜の排除にかかる。

「白では味気ない。場所景色を変えよう」

朔夜がそう言うと、彼女を中心に世界が塗り替えられる。

「なっ……貴様ッまさかッ!」

その行為により、初めて大蛇は彼女が帯びた神性に気がついた。

「ふざけるなッ!何故それをたかが人間が帯びているッ!そこは、我の場所ものだぞッ」

「──黙れ、凡愚」

一刀両断。

大蛇の身体が、左右に別れる。

それと同時に、晦日の身体を拘束していた物が斬り飛ばされた。

「姉上、ありがとうございます」

信じていたと言わんばかりの晦日の笑みに、朔夜は背中で答える。

「いいえ。……先程は油断しました。申し訳ない」

今度は、油断無く左右に別れた大蛇を見つめる。

ボゴッ

肉が蠢く。

(これは……)

ボゴ、ボゴッ

肉が段々と膨張し、元の形を失っていく。

(暴走か?)

やがて膨張は臨界に達して、再び爆発。

「……【泡の海】」

そう呟いて、朔夜は刀を振るった。

それを、晦日は見ていた。

真横で、見ていたにも関わらず。

(──見えない)

現在の観測者である彼女の眼をもってして、その業は捉えられない。

「…月を汚すか」

朔夜達の周囲に限り、不自然な程綺麗ではあるが、朔夜が塗り替えた白き世界は、再び屍山血河によって醜く染まる。

ユラユラと、血肉から再び怪物が出でた。

「動けますか?」

「無論です」


◆◆◆


「最後にめんどくさい悪足掻きしてくれたわね」

地下に潜り、身を隠したあの大蛇は、レイラの雷鎚に貫かれると、一瞬にしてあり得ない程膨張し、飛散した。

そして、その血肉から新たな魔物が湧き出たのである。

今は忍者や街の兵士達が応戦しているので、レイラの出る幕は無くなった。

だから、大戸港に戻りウィンクしてきた馬鹿の顔でも見に行こうと思ったのだ。

「ったく、アイツ、いきなり……っと、前見て歩きなさいよ」

ぶつかる直前で前から歩いてきていた男に気付き、ギリギリで避ける。

刀を腰に差していたのでこれから戦場にでもいくのだろう。

まぁ、精々後処理を頑張って欲しいものだ。

「アイツは、彼処あそこね」

天守閣に欠月の気配を察知したレイラは、人目に着かないようにそれを外から登る。

「よっと。来たわよ、欠月」

窓を蹴破り入ってきたレイラに、一瞬玄月が身構えた。

「たく、俺の客は物騒なのしかいないのか?」

不満げにそう呟く彼からは、先程のような消耗具合は感じない。

「あら?この美少女わたしが直々に訪ねて上げたのよ?咽び泣くのが道理でしょ」

「その自己至上主義ナルシズムどっから拾ってきた。ペッしなさいペッ」

そんな軽口の押収の後は、ゆっくりと欠月が立ち上がる。

「ぐっ」

「ちょっと、大丈夫?」

ふらついた欠月をレイラが支えて、共に立ち上がる。

「…余裕。…朔夜達は?」

「勝つでしょ」

「……そうか」

「えぇ、そうよ」

「アイツらの、とこに行く。悪いが」

「運んで上げるわよ、お荷物君?」

「ありがとうよ、お嬢様……玄月さん、道案内を頼めるか」

「了解した」


◆◆◆


「容態が、安定している……?」

二人の体調を見ているステラは、二人の体調が異様に安定しているのを、疑問に思った。

いや、例え彼女らが怪物相手に善戦していたとしても、病原体と戦っているようなものなのでのだ。

『私がただあの子を精神世界に招くために来たと思う?守ってるのよ、刀を通してね』

「貴方、やはり高位存在ですか」

『どうかしらね?』


◆◆◆


二人の少女と数多の怪物による月面の戦いは、より激しさを増していた。

「晦日、息が上がっています。がって下さい」

そして、戦いの中で少女二人の差が顕著に現れる。

「です、が」

朔夜の言葉通り息が乱れている晦日は、それでも食い下がる。

「はっきり言いましょう。足手まといです」

如何に晦日が天才と言えど、動きっぱなしでは疲労も早い。

それに、病み上がり……正確にはまだ病に犯されていると言える彼女だ。

ここまで出来れば上出来を通り越して最高の出来と言えよう。

「ここは、私に任せて、

そう言って、晦日を守るように朔夜は立った。

「それに、貴女のお陰です」

目の前に広がる魔物の大軍を見やる。

「丁度、良い位置だ」

【望月】が鞘へと戻ったそのコンマ後、

「【白道】」

【望月】が、抜き放たれた。

亜音速は優に越えるであろうその一太刀は、朔夜の剣に乗せられた魔法を拡散する。

創られた道を魔法が通り、軌跡の上にある魔物達を焼き尽くす。

───そんな様子を、最早ただの蛇と成り果てた大蛇が見ていた。

(確かに、力は強い。が、制御が甘い。あれでは精々三流。甘く見積もって二流にも届かん)

言動が神性の方に引っ張られている。

それに、完全な神ではなくあくまで半神。

聖女と同じような状態だ。

(勝機はある──ククッやはり、人間か)

何処まで行こうとも、彼らは愚かだ。

──先刻、怒りに飲まれ半身を犠牲にした蛇が言うのは、あまりにもブーメランだが。

「こんにちは」

後ろから、声がかかる。

「……ほう」

後ろを向く。

「我に気付きかれずにここまで来るとは…フン喰らいがいのある獲物よ」

そこには、布津御魂を構えた晦日が立っていた。

「……終わりにしましょう」

そこに天秤の采配は無く。

「随分と傲ったな、人間」

ただ対等な両者が立つ。

勝負は一瞬。

晦日は抜刀術の構えを取る。

対する蛇は伊吹ブレスの溜めに入った。

両者が、大きく息を吸った。

「……ッ【白ッ】」

晦日の一歩が月面を抉る。

「【花ッ】!!」

まるで、花が舞い散るように。

刀の軌跡が煌めいた。

その後を焔が色付ける。

「──我が喰われようとはな」

幾千年を生きた怪物は、今、少女の手により消滅した。





白花びゃっか

【白道】を見た晦日が即興で作った技。

近距離範囲攻撃。





Qなんかやけにこの八岐大蛇落ち着いてね? 

A長生きなんで、生き死にの覚悟はある程度あったんですよ。元々は。

最近は俺TUEEEE状態だったんで、忘れてたけども。

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