第48話 自分よりキレてる人を見ると冷静になるアレ

「まじでクソね。勝手に貴女の理想を押し付けないで貰える?吐き気がするわ」

憤怒と冷酷さを同居させた表情を浮かべたレイラが吐き捨てる。

「そもそも、貴女は誰なのですか。教皇様に対して、不敬が過ぎますよ」

眉間に皺の寄った女の枢機卿が見下すように言う。

「……私が…誰か、ですって?」

バチン

稲妻が弾けた。

(まずい…!)

雷光が二つ、空間を走った。

「────っぶねぇ…」

恐らく、彼女に攻撃の意図は無かったのだろう。もし攻撃の意図があったのなら、中途半端な自己強化で雷光の前に出た俺は、抗う余地無く焼ききれている。

「……それは……!」

教皇や枢機卿達が驚愕し、アイリスや騎士達は臨戦態勢に入る。

それに応じるようにレイラが立ち上がり、完全に一触即発の空気感だ。

いやもう一触はしてるんですけどね。

「……欠月、そこ退きなさい」

「ちょい待て。この段階で暴力は早計だ」

「暴力?何言ってんのよ。そいつらが弱すぎるのよ」

「お前にとっちゃな。だが、お前も言ったろう?、レイラ」

「…………。分かったわよ」

息を吐きながら、体をソファーに身を投げるように座った。

「申し訳ありません聖人様っ!!とんだご無礼をっ!!」

(うを、スライディング土下座始めて見た)

レイラとの会話が終わったのを見計らい、教皇がスライディング土下座をかました。

「いや、別に良いけど……」

土下座とか凄く止めて欲しい。

「教皇聖下!?何をなさっているのですか!?顔を上げてください!」

さっきまでレイラと喧嘩してた枢機卿の一人が慌てて教皇に駆け寄る。

「馬鹿者!目の前のお方が何者か、まだ気付けぬか!このお方は聖女殿と同じく、女神様の使徒なのだぞ!」

物凄い剣幕で怒鳴る教皇。めちゃめちゃブチギレるじゃん。

「なっ!?ま、まさか、そんなわけ……」

「お前は何を見ていたのだ!今お前を守ったそのお方が使った身体強化は、紛れもなく神聖魔法によるものだった!」

神聖魔法、それはこの世界において、女神の使徒たる証明だ。

「で、では、まさか本当に?」

別の枢機卿の一人が狼狽えながら教皇に問う。

「本当だ!私が保証しよう!」

この世界に同時に女神の使徒が二人いる。

それは、少なくとも教会の歴史では確認されていない事態だ。

邪神復活の事を含めて、多きな時代のうねりと言える。


◆◆◆


「あぁ、疲れた……」

いかにも高そうな2~3人用のソファーに寝転び、体を伸ばす欠月。

教皇から聖人認定を受けてから枢機卿や騎士達から土下座されたりして色々大変だった。

ちなみに、今は教皇が宿をとってくれると言ったのでそれに甘えた。

「しょうがないですよ。聖人、聖女とはそう言うものです。しかも、人類初の聖人ですから、対応も特別になります」

恐らく聖女になった時の体験談だろう。

ステラが笑いながら欠月のむかいの椅子に座る。

「それに、までしてしまいましたからね」

ステラは笑いを堪えるように言った。

「いや、だって、お前の抜ける穴埋めはしとかなきゃまずいでしょ」

「だからと言って、聖装を出せるのは貴方くらいのものですよ」

欠月は、ステラの穴埋めとしてアイリスに聖装を渡していた。

教会を通して他の奴にも渡したし、今頃聖装が俺が渡した奴にむけて届けられていることだろう。

「……まぁ、聖人の特殊能力って事で」

「ふふっ。そう言うことにしておきます。では、私は部屋に戻るので」

そう言ってステラは椅子から立ち上がり、扉に手を掛けた。

「あぁ、そうでした」

そこで、思い出したかのように止まり、欠月の方を向く。

。貴方が居てくれて、本当に良かった」

「…………おう、そうかい」

それは、聖女として培われた笑みではなく、少女の儚い笑みだった。







なお葉月さん、一言も喋ってない模様。

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