第16話 それは歯車のように

黒の天外。

特定のダンジョン内でエネミーの短期的な殺害数が一定に達する事で現れるダンジョンの死神。

物理魔法共に-80%。

半径30メートル以内に入れば即死。

短距離転移持ち。

HPは殺害されたエネミー全ての合算。

そこらのボスよりも圧倒的に強い。

いや、もう攻略を前提にされてないかのようなクソ性能。

唯一、聖女の使う神聖魔法が有効打になる。

だが、それだって聖女専用の武器、聖装、そこに彼女自身の固有スキルが合わさっての話だ。

今の俺では全く相手にならない。

しかも、今の葉月の反応からして、恐らくかなり近くに出現した。

クソっ、死亡フラグがふって湧いてきやがった!

「葉月!一旦戻るぞ!」

「私もそれを提案しようと思っていました!」

そう言いながら階段方面へと走り出す葉月。

そんなところで、

ヌルゥ

と、そんな効果音が付きそうな感じで、死神っぽい死神が、というか死神が角からぬるっと出てきた。

ギャァァァァァ!!!

「葉月ぃぃ!アイツの30メートル内によるなぁぁぁ!!」

「はいっ!」

途端に方向を変更し、前へと走る。

「クッソ!誰だあんなもん設計した奴!ふざけんな出てこい運営!」

今文句言ってもどうしようもない。

しかし、チラッと見えたが、黒の天外のレベルが69だった。

黒の天外のレベルは出現したダンジョン内のプレイヤーのレベルの平均だ。

この三日で葉月と俺のレベルは多少なりともあがっている。

葉月が52、俺が88だ。

俺達の平均レベルは70だ。

しかし、そうなると1少ない。

誰かがこのダンジョンに入ったのか?

……まぁ、そうだろうな。俺、ちゃんと計算してコロコロしてたし。

となればその闖入者にこいつを押し付けれないものか。

……無理そうだなぁ。確実に俺らより下の階たろうし……。ん?いや、待てよ?ダンジョン内転移ってこっちでも出来るのか?

出来るなら結構簡単に撒けるのでは?

そう思い、開きっぱなしのゲーム画面を操作し、マップを開く。

Oh……転移可能だぁ。

どうやら、ゲームと同じく十層ごとに転移スポットがあるようだ。あと、例外的にクリア後モンスターハウスとかさっきの泉とかもそうだ。ここら辺はゲームと変わらんのか。

……いいのだろうか。このまま逃げて。

その、メタ的に。

だって、ここで放置プレーかましたらどうせ後から何かの時に乱入してきそうだし…。

てか、真面目に倒そうとして倒せるのかって話だよな。……無理そう。

仕方ない。ここは逃げよう。

「おい葉月!転移するから浮遊感に備えろよ!」

「転移!?わ、分かりました!」


◆◆◆


これは、欠月達が十層を去る少し前の話。

「ここが、海洋国家ルティアの港町、バルザックですか!」

旅立ちを決めた教会の少女は、教会の馬小屋から自身の愛馬を引っ張りだし、神…水魔法の回復魔法を多用して一日とちょっとでここまで来たのだった。

まぁ、それは彼女の回復魔法だけでなく、彼女の愛馬が「王」の名を冠する神獣の子孫にあたる立派な聖獣と言うのもあるが。

「あら?いい馬ね」

不意にそんな声が聞こえた。

「えぇ、私の愛馬なんです」

そう言いながら後ろを振り向くと、金髪に赤目の貴族令嬢のような美しさとどこか気高さを感じさせる少女が立っていた。

「へぇ?そんな良い馬…霊馬とか聖獣の類いでしょう?凄いわね。もしかして貴女も例の光の柱を見て来た口かしら?」

「はい。貴女もですか?」

「えぇ、私はスルーズ。良かったら一緒に行かない?」

「良いですよ。私も話し相手が欲しかったので。私はメイベル。諸事情で偽名ですがお許しください。よろしくお願いします」

「偽名って……わざわざ言うなんて、貴女面白い人ね。…なら、私も言おうかしら。私のも偽名よ」

「そうなんですね!お揃いです」

「ふふっ、そうね」

そうして会偶は果たされた。

まるでそれは、歯車運命が世界を突き動かすかのように。


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