第29話 雷鳴なりやまぬ中、死に出ずる

「私に策、と言える程のものでもありませんが、対抗手段があります」

ステラが葉月にそう切り出した。

「聞きましょう」

ユラユラと揺れる死神を警戒しつつ、ステラの言葉に耳を傾ける。

「私の魔法を、アレに直接叩き込みます」

効果はあるのだろう。直感的にそう確信する。

おそらく、対アンデッド向きではないであろう命光先程の魔法でさえも、あの死神に対してそれなりの効果が見られた。

神聖魔法……聖女の対アンデッド魔法ならば、消滅までもっていける可能性は高い。

「私は何をすれば?」

このまま自分を主体に戦うよりも遥かにマシで希望の見える戦いだった。

「魔法発動の為、私は十秒程動けません。なので、私をあの死神の前までエスコートして下さい」

「分かりました」

生憎、自分はアンデッドとの戦闘経験はあまり無い。ここはプロフェッショナルの言葉に従おう。

「では、失礼」

そう言い、左手でステラを抱き上げる葉月。

「誰かをエスコートする経験があまり無いので安全性は保証しかねます。なので、しっかり掴まっていて下さい」

「はい!ありがとうございます!」

さりげなくバフを葉月にかけなおし、その返事を言うとほぼ同時、葉月が地を蹴った。

(わっ───)

身体の軸が一瞬ぶれた。

少なくもステラはそのように感じた。

自分の位置を見失うほど、葉月の速度は速かった。

「──」

不愉快な笑い声が響き、黒紫の玉が死神の影から射出される。

効果は分からないが、どう考えてもいい結果は生み出さないだろう。

しかし、

(どうする?)

と、葉月は思考する。

本体に物理攻撃が効かない以上、アレも物理攻撃が効かない可能性が高いだとすれば、回避が安牌か。

「そのまま叩ききって下さい!」

その考えを見透かしたようにステラの声が聞こえた。

「ふっ!」

大剣を伸ばし、黒紫の玉に叩ききつける。

パァァン

まるで平手を打ったような音が鳴り、黒紫の玉が消滅した。

「武器に聖域を付与しました。これである程度応戦可能な筈です!」

「感謝しますっ!」

応戦手段を得た葉月はその事に背中を押され、死神に向けて更に加速する。

「───■★〇━◆」

死神が、何事か

(っ!?)

ドロリ

死神の影から、何かが生えた。

「手?」

幾つもの腕。

それが黒□天■に絡み付く。

□■天■が嗤った。

その、あまりにも異常な光景に、葉月は足を止め、ステラは思考が止まった。

■■■■、いや■■■■■は、それを見逃す程甘くない。

グォォォォ

死の力を纏う咆哮がダンジョン内に響き、ステラが張り直した聖域にヒビが入る。

「なっ」

ステラと葉月は、その危機感によって再び動きだした。

───しかし、遅すぎた。

影から伸びた腕は■■■■■を完全に包み込み、変異は明らかに終了間近だ。

「────我ハ、死泥王シデイオウ負烙フラク

腕が徐々に消えて行く。

未だかつて誰も見たことの無い死の王が、その全貌をあらわにする。

カツン、

死泥王が、自らの杖で床を叩いた。

「出デヨ、我ガ眷属」

無数のアンデッドが、死泥王の影から姿を顕す。

「蹂躙ヲ、始メヨウ」

死の軍靴は、雷鳴にも負けない音で響く。

死者達の蹂躙報復が始まった

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