第74話 二作目

剣とは何か。

それはある種、哲学的な問いだろう。

少なくとも、彼女葉月にとってはそうだった。

しかし彼は言う。

「無論、それは俺の主義に過ぎない。だから、真に受けなくても良い。だが、俺に教わると言った以上、受け入れろとは言わないが理解しろ」

剣に哲学も何もない。

人を殺す武器。

戦争の歴史の敗者。

少なくとも、彼の世界ではそうだった。

ガチの戦場で刀だのを持ち出す馬鹿オールドタイプはいないし、仮にいたとしても生き残れない。

「武器に哲学なんぞ無い」

剣であれ、銃であれ、変わらずそれらは、

「一様に道具に過ぎない。それに「哲」なんぞ無い」

そう、道具に道具以上の意味は無い。

それが、彼が至った最高効率正解だ。

そして、道具に意味を見いだす事を、以前の彼は非効率間違いだと言った。

それは、

「剣に意味を求める時点で、それはなのか?剣に振られているのではなく?」

道具は使っても使

その言葉の、彼なりの解釈の一つ。

だが、

「俺は、使われる事その物が間違いだとは思わない」

「と、言いますと?」

葉月が聞いてきた。

「剣を振るうにせよ、魔法を使うにせよ、それは目的への手段の一つに過ぎない。本質的にはつまり目的それを果たす為に使われる事が最高効率だと言うのなら、別にそれで構わない」

ただ、と欠月は言葉を続ける。

「今回、お前は非効率だそうじゃないと思ったから俺の所に来たんだろう?」

「はい」

断言。

流石に欠月もちょっと引く。

自らの今のスタイルを間違いだと否定するようなものだ。その否定が今までの全てにではなくとも、多少は堪えそうなものだが。

「教えて下さい、効率的貴方の剣術を」


◆◆◆


技術には一つ一つ意味がある。

それは人の体の都合であったり、次の技への布石であったり。

様々だが、結局のところ、剣術と言う物が生まれた理由とは何なのか。

欠月の前世は、それを力なき者が抗う為だと定義づける。

より効率的に力を伝え、より効率的に力を受け流す。

自分を最大限利用し、時には自分以外も最大限利用する。

そうすることで、人の技術は発達してきた。

そして、効率を求めるなら、当然理論値頂点は存在する。

ならば、それは何か?

どんな体勢からでも100%以上の力を伝え、どんな体勢でも全ての力を受け流す。

極論、それが出来たら最強最巧だ。

少なくとも前世過去の彼はそう考え、そう在った。

「欠っ…月っ殿っ。これっ…はっ!いっ…たいっ…なんっ…でしょうか!?」

前世の彼が考案したストレッチをする葉月が言う。

「ストレッチと言う奴だ。俺が使う剣術は、まず体からだ」

より柔軟に。

出来れば360度動かせるようになるのが理想だが、そんな器用な真似を常人求めた所で返ってくる結果は良い物ではない。

骨を外す、と言うのも良くない。

前世の彼のような特異点おおよそ人とは呼べない類いの才能マンであったなら兎も角、普通の身体ならば骨を外すのが癖になり、マイナスになってしまう。

だから、今から教えるのは、

「極限まで葉月朔夜の為だけに作り直した剣術だ。その為にお前の身体能力を詳しく知っておく必要がある」

別に、決してセクハラしている訳ではない。

「まぁ、大体分かった。もう良いぞ」

柔らかいか柔らかく無いかで言えば、そこそこ柔らかい。

胸部装甲おっぱい分厚いデカイせいで一部の関節が著しく固いが。

サラシを巻いてもこれと言うのは、流石二次元と言えよう。

話を戻そう。

人間には、各々別の条件精神的、身体的特徴があり、最適解はそれぞれ違う。

勿論、先程上げた「どんな体勢からでも100%以上の力を伝え、どんな体勢でも全ての力を受け流す」と言うのが出来れば、それが少なくとも剣術における最適解ではあると、彼は思うが、今はそんな夢物語フィクションを彼女に求めていない。

「体の柔らかさは良い。これならちょっとはやれそうだ」

暫定神との戦いまで目算で一週間ちょっと。

それまでの間に出来ることは少ない。

なので、攻撃面は全て捨て、防御面の技術を強化する。

理由は簡単、火力に関しては今の彼女でも問題ないからだ。

魔法剣スキルによる能力の底上げがあるからな。

あれは非常に有用なスキルだ。

ステータスをこれでもかと言う程上げて、しかも持続性もあり、さらにはデメリットも少ない。

一部はスリップダメージがあったりするが、それもステラがいる現状では無いも同然だ。

まぁ、正直防御面に関しても必要なのかと言う疑問は残る。

その理由は月纒にある。

月纒、葉月朔夜の固有スキルは、それはもうチート級の強さを誇る……のだが、彼女の攻撃性能が高すぎてたまに影が薄いと言う扱いを受ける。

あと、使った後は筋肉痛で三日動けなくなると言うギャグみたいなデメリットがある。

まぁ正直、テキスト読んだ限りじゃ、これで三日寝れば治るの?と疑問を抱かざる終えなかった。

そして、そのテキストの最初の一文はこうである。

『そのの通り』

と。

そう、則ち、『月』を『まとう』。

その能力は五分間、月を纏うと言うもの。

そして、ほぼ無限のに溜め込まれた魔力を使用出来る、と言う耳と運営の正気を疑いたくなるぶっ壊れ性能。

簡単に言おう、五分間の無敵&無限魔力。

詳しく言えば無敵ではなく、月に相当する防御力なのだが、まぁ、ほぼ無敵と言って相違ない。

この防御を貫通してくんのラスボス邪神の攻撃か、レイラが世界を滅ぼすルートの雷神トールを発動した上での灼火の神鎚ミョルニルくらいだ。

なお、レイラの方はプレイアブルの方の人間ボディではなく、本気マジモードの神様ボディなので、俺に打たれたアレとは全くもって火力が違う。

なので、まぁ、防御力についても、いらないと思うんだけど……一つ、問題がある。

それは、そもそも葉月が月纒を使えない可能性がある。

いや、知らないと言うべきか。

ゲーム中、大体の固有スキルはメインストーリーかサブストーリーか、いずれにせよ、その源泉について触れており、そして実際の使用シーンもある。

しかし、葉月朔夜だけはストーリー中に固有スキル『月纒』の使用シーンがない。

勿論、ゲームの戦闘場面では問題なく使える。

だが、ストーリー上においては、その存在への言及すらないのだ。

明らかに一発逆転の鬼札ジョーカーとして機能する異能スキルにも関わらず、だ。

そんな大層な手札、語られない方がおかしいだろう?

そんな訳で俺は、ある仮説を立てた。

本来、この東の国は、『二作目』として開発されていたのでは無いのか、と。

三部作的な奴で、一作目の『聖なる神と希望の王』と一緒に、作られていたのでは、と。

聖なる神天皇陛下と、民を食らうしき神。

そして、幼気な少女葉月晦日を巡る、物語だったのでは無いか、と。

そして、開発途中で会社が倒産寸前になったから、二作目を頓挫せざる終えなかったのでは無いか?

その上で二作目の要素を無理矢理一作目に登場させたのが葉月朔夜であり、一作目の東の国二作目主人公不在の末路ではないか?

勿論、これらは全て憶測に過ぎない。

だが、それらを裏付けるような要素が東の国に点在している。

例えば、葉月玄月との試合である。

ゲームでは玄月に勝つ事で解放される要素が二つある。

玄月といつでも戦えると言うサンドバッグ要素に加え、葉月邸の地下マップだ。

そして、その地下にあった物は刀だった。

一作目の主人公では抜く事が出来ない、幾千年を経ても尚、純白を保つ刀。

それは、二作目主人公用に用意された武器だったのでは、と。

もし、そうだったなら。

背中に嫌な汗が伝う。

この国の悲劇が、主人公不在によるものだったなら。

敵たる存在ものは、そもそも俺達が殺せるような神なのか。

少なくとも、一作目における邪神は、聖なる神がその身を捧げて諸とも滅するトゥルーエンドのみでしか本当の意味で滅する事は出来なかった。力どうこうではなく性質の問題で。

あぁ、ダメだな。

考える時間があると、どうしてもダメ最悪な方に考えが行く。

少しは体を動かすか。

「葉月、その辺で良いぞ。実践だ」

ヨガまがいの柔軟体操をしている葉月に、声をかけて道場の外に出る。

本来は、葉月玄月辺りが対戦相手として望ましいが、老人は夜も朝も早い。

わざわざ起こす訳にもいかんし、俺が相手するしかない。

「来い、葉月」

黎明の杖を構えて、目の前の少女にそう言った。






ダラダラ書いてたらいつもの2倍位の文量になってた。




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