第9話 波紋
そこは、とある教会の大聖堂だった。
まだ早朝であり、そこを利用しているのは女性一人しかいない。
「……今のは」
祈るような姿勢を解き、大聖堂の窓を見る。
「あれは……」
ちょうど、巨大な光の柱が地上へと落ちてくるところだった。
「彼処へ向かへ、という神の啓示でしょうか?」
彼女が抱えるとある問題を解決してくれるかも知れない。
「行動しなければ全ては始まらない、ですか」
運命、神の加護とは、原動力を利用して突き動くモノであって、自らを操り人形とする為のモノではない。
なればこそ、全ては最初の
彼の聖書にて、聖なる女神はそう人に説いた。
ならば、女神の使徒とも言える彼女はどうするのか?
それは勿論……
「置き手紙を書かなくては。枢機卿達も心配するでしょうし…旅支度は…あぁ、前回のがまだありますね」
頭の中でそう計算して、彼女は微笑み、彼の地を見る。
「楽しみ…楽しみですね。今度はどんなコトが、ヒトが、待っているのでしょう?」
◆◆◆
それは、とある山奥だ。
「……今のは……いやでも、これほどの力、今のこの世界の神にはないはず…」
それでも確かに、世界を別つ程の封印が解除されたのを彼女は関知した。
それも、神の力によって。
「何か、いるわね。この世界に」
自分のような異物が。
少女は気を引き締める。
警戒すべきは女神と邪神だけ。それも力をほぼ失った二柱だけだと思っていたが、どうやらそう言うわけでも無いらしい。
仮に、力を隠していた神がこの世界にいるなら、かなりの実力者だ。
……父上のように他世界の神格で自分のように何者かを送り込んできたと言うならば、それは超越存在とコネを持つ超位の神格存在だ。
……本物の『神』、もしくはそれ以上が関わっている可能性すらも……。
そこまで考えて彼女は首を横にふる。
そんな訳がない。
本物の『神』とは、その存在そのものが理である。
─────いや、自意識を持つ理に『神』と別称を着けたのかも知れないが。
どちらにしろ、アレ等はそうそう他者に関わる事はない。
だとすれば、恐らく、父上のような
どちらにせよ、いずれ相対する可能性があるのなら、確かめに行く他ないだろう。
「……あまり、気乗りしないけど」
◆◆◆
そこは、何もない空間だ。
「っ!?今、のは?」
金髪碧眼。とてもこの世のモノとは思えぬ美貌を備えた女性が、その顔に大きく動揺をはしらせた。
「…いえ、あり得ない。ですが、今のは確かに私の力…」
そして、その力は創世記以前、彼女史上今のところの全盛期に施した封印を解除した。
「深淵の門が、開きましたか」
まずい。
最悪、邪神以上の災厄が飛び出す。
何せ、アレは、廃棄されし偉大なる神の神殿なのだから。
◆◆◆
「……封印が解かれたか」
何処かも分からぬ淵の底、巨大な何かが蠢いた。
「久方ぶりよのォ。彼の門が開かれるのは」
実に創世記ぶり。遥か昔、彼の簒奪者達が彼らの世界と此の世界を繋ぐ門を封じて以来か。
「クックックッ…どんな大うつけが来るのか。それ以前、我の元に至るのか……見守らせて貰うとしようかのォ。貴様が挑戦者足り得るのか」
遥かに上の、それでも確かに『彼』を見据えて、今は、その
◆◆◆
帝国にて───
「おいおい、なんだ?ありゃ」
「知らねぇ。俺に聞くなよ」
「神の啓示か何かぁ?」
「まじ?商売繁盛しますように!」
「あ!ずりぃぞお前!えーっと、美人で気立ての良くて料理のうまい嫁さんが出来ますように」
「はっお前じゃ無理だわ。まず自分磨きな!」
◆◆◆
───帝国、王城にて。
「おい!あの光はなんだ?枢機卿を呼び出せ!」
「将軍!そ、それが今は聖女様が旅に出たのでそれどころではないと!」
「何ィ!?日頃から首輪位つけておけと言っているだろう!?」
「それに関しては前回打診し、「女神の使徒たる御方にそんな不敬な真似は出来ない」と却ってきております!」
「えぇい!全く!どいつもこいつも!」
「まぁ、そう慌てるな。グリズリス将軍」
「あ、貴女様はっ!」
「あぁ、膝をつくな。今は非公式の訪問だからな」
「はっ。しかし、なぜ我等が帝国の第二皇女殿下が、如何なる用でこんな所へ?」
「君達も先程話していた枢機卿、聖女関連さ」
「と、言いますと?」
「約二週間後、大陸全域に魔物が現れる。なんでもその時に表に立ってお前達を指揮するのがこの私らしくてな。挨拶に来た」
「なるほど、聖女様が予言を賜ったと言うことでしょうか?」
「あぁ、そうらしい。最も、今回は『ブレ』があるらしい。それが何でも、あの光の柱へ行けば治る。らしい」
「教会の聖女もついに焼きが回りましたか」
「おいおい将軍。それはどちらにたいしても失礼と言うものだよ」
「失礼しました。そのような意図は」
「別にいいさ」
神聖魔法は予知、予言の類いはありません。聖女の奇跡の一つとしてはあります。さくしゃ
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