第25話 ブッ殺

■■■■■ピーッピーッ

 思わず自主規制を入れるレベルの罵倒と軽々と人が死ぬクラスの殺傷能力を持つ魔法が戦場となったダンジョンの廊下を飛び交う。

「チッいい加減倒れろとけよ!放電早漏女ァ!!」

「貴様が死ねェ!クソザコワンコォ!」

既に魔法の応酬が始まってから三十分が経過したが、それでもなお、両者の勢いは止まらない。

しかし、明確に違うところが一つ。

(くっ魔力がッ)

以外にも、レイラの魔力は底を見せはじめていた。

捕捉しておくて、レイラの魔力量は多い。それこそ欠月の十倍以上あるかも知れない。しかし、それとは別に決定的な違いがあった。

魔力回復手段の有無である。

欠月はゲーム画面からアイテムを消費し、現実でのアクションを何ら起こすこと無く魔力の回復が可能であった。

その結果、レイラからしてみれば自分より圧倒的に小さいはずの魔力量で自分と同等かそれ以上の魔法戦を繰り広げる目の前の相手に、恐れプレッシャーを感じていた。

(悔しいけど、このままじゃこっちの魔力が先に尽きるッ)

「貴方程度にこれを使うのはしゃくだけど……負けるよりは億倍マシね」

その小さな呟きは、幸か不幸か、欠月の耳には届かなかった。しかし、届いていたとて、最早回避、防御ともに不可能だっただろう。

はそう言う魔法だから。


◆◆◆


(魔法が止まった?)

好機。

一抹の不安を覚えるも、欠月の頭脳はノータイムでその結論を弾き出す。

仮に相手が何かを画策していようと、火力速度共に優れる雷魔法ならば相手が準備する一瞬でケリをつける事が出来る。

この戦闘中に会得した無詠唱と並列発動を存分に使いながら、散雷と槍雷(小雷を槍型にして放つもの)を複数個レイラを囲むようにして放つ。

確殺の確信を得ると比例して、際ほどの一抹の不安が膨大化する。

万一に備え、後退を開始しようとしたその直後────

バアアアァァァァァァァアアン

欠月の身体はその大砲を受けたような衝撃で容易く吹き飛ばされた。

(今のは…)

雷神トールか。

神の方では無く、レイラの使う魔法の名である。

「かっ……くはっ」

ゴロゴロと廊下を転がりながら、しかし彼は状況の分析を続ける。

(マップ確認……黒の天外は健在、葉月は…大丈夫、生きてる。聖女の方も大丈夫だろう。となると、一番ヤバイのは俺か)

出来れば、レイラが雷神トールを使う決断をする前に無力化したかったんだが、それはもう無理っぽい。

雷神トール

ストーリー上でのみ使える彼女固有の魔法……と言うより、第二の固有スキルだ。

発動時、自身へと向けて極大の雷撃を落とし、それと共に周囲へ軽スタンを伴う衝撃波を放つ。

────しかし、これらは前振りに過ぎない。

雷神トールの本質は、強化である。

彼女がそれを使ってからの十分間、その身体能力は雷神トールに及ぶ。

更に、常に雷を纏った状態となり、彼女に触れられただけで軽スタン状態に防御力低下のデバフがかけられる。

しかも彼女の使う魔法の威力が増加すると言う運営からの寵愛ぶり。

断言しよう。

まごうことなき、最強の魔法であると。

そんな覆しがたい実力差を前に、欠月は一種の興奮状態であった。

(にしても、俺が雷神トールを引き出したって…現実か?)

え?勝算があるのかって?

あるかもね。

知らねぇよ、そんなもん。

今は、ただただ──

「ハッ、ハハハハハハ」

──楽しい。

「あら?狂った?」

砂塵がいかずちに吹き飛ばされ、灼熱のように爛々と輝く黄金が、太陽のように山吹色に染まった紅蓮が、雷神レイラがその姿を現した。

「ハッ!狂えるかよ、まだテメェをぶっ飛ばしてねぇのに」

───狂笑が響き、雷神最強モブ最弱の戦いは真の始まりを告げた。




黒の天外「生存報告」

作者「え?黒の天外君出番無し?あんだけ強い感出してたのに??何で??」


いや、ホントに何で?

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