第59話 剣に生きる者
「じゃ、行くか」
迅速に荷物(殆ど無い)をまとめ、患者や若君に別れを告げて、欠月一向は葉月の実家へと向かっている。
「そう言えば、葉月さんのご実家ってどのくらいでつくのでしょう?」
ステラが思い出したかのように尋ねる。
「ここから三時間ほど歩いた森の中です」
意気揚々と葉月が答える。
久方ぶりの帰省と言うのもあるが、おそらくそれだけではなく、欠月やステラと言う
「……アルキ、ツライ」
この面子の中で最も
「あれ?鍛えてませんでした?」
葉月が不思議そうに聞いた。
「あー…見てたのか。まぁ、確かに迷宮で暇な時に筋トレしてたが、そう簡単に体力がつくもんでも無い」
「あ、いえそうではなく、元々それなりにやる方では?」
葉月は武を修める者だ。
故に、程度はあれど動きの癖などが分かる。
欠月に
そして、意識的に動いている時は自らの力を抑制しているような節があった。
「……良く分かるな、そんなこと」
武芸者の観察眼に大分引きつつ、欠月は自分の荷物の一つを葉月へと渡す。
「これでも剣で生きていますから。…にしても不思議ですね。私が見たのは迷宮内の短時間とは言え、あれだけ鍛えていたのですから、もう少しぐらいは体力があっても良いと思うんですが」
それについては、おそらくステータスのデメリットだろう。
レイラを見れば分かるように、ステータスの値を超越した者にはデバフがかかる。
それは、彼をも例外としない。
いやむしろ、その発生源とも言える彼が最も強くステータスに拘束されている。
「ちょっと前からこう言う体質でね。鍛えても成果が出ないんだ」
「ふん。良く言うわ」
何と無く事情を察したレイラが口を挟んだ。
「そういう体質、ですって?そう創られているんでしょうに」
レイラがそう言って、欠月から荷物を取る。
「お、サンキュー」
「もうかなり歩きましたし、そろそろ休憩します?」
ステラが主に欠月の疲労具合に気を遣い、休息を提案した。
「そう、ですね。そろそろ休憩しますか?」
葉月は少し考える素振りを見せて、その提案に肯定的な姿勢を示した。
「────ほう、ならばここで休息を共にするか?」
道の端、そこにあった小さな茶屋から、静かな、しかし良く通る老人の声が聞こえた。
その姿を見て、欠月は目を見張った。
「───お祖父様!?」
葉月玄月。
葉月朔夜、そして、葉月晦日の祖父だ。
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