第105話 白痴の神話

「久方ぶりよな、黒の」

ダイナミック登場をかました白龍は、黒龍に笑いかける。

白龍……それはかつての神話において邪神の友となり、また配下として女神と敵対した存在だ。

ゲームの作中ではラスボス級に強いラスボス手前のボスであり、五柱目の四眷神将と呼ばれた災厄と同程度の存在である。

今の外見は人間体──少女のような姿に所々鱗や尻尾、翼など龍の要素が見受けられる──だが、本来の姿は大空を覆い尽くす程の巨龍だ。

「何をしに来た、が半身?」

黒龍は、殺気を迸らせながら問う。

対する白龍は、それと同等以上の殺気──と言うか、かなり魔力が漏れている──を迸らせ、周囲に暴虐を撒き散らす。

「何も──ただ、懐かしい気配がして見に来てみたら、面白そうな小僧がいるからな」

威圧──だけではない。物理的な圧力が、欠月を圧し潰さんと迫る。

「ッ……大人げねぇ、な……老龍ロートルゥ…!!」

たった今黒龍とやり合ったばかりだ。

流石に身体にボロが来ている。

(なんて、言うとでも……思ったかよ)

ウィンドウから回復アイテムを選択し、連打。

疲労は消えないが、身体的な損傷ならこれで治る。

(なんとか、戦える、が)

重圧これをどうにかしないと。

「フゥー…白龍よォ……そんなに恐いか──

嘲笑、そして……怒気。

「面白い冗談だ。この我が、地を這う劣種に恐れをなすと?お前は、道化の才能があるな」

道化……か。

「じゃあ、道化の掌の上でしか飛べないお前は──一体なんだ?」

シーン───……

それまでの圧力が嘘のように消え、静寂に包まれる

「フハッ」

笑いが起きた。

「ハッハッハッ!」

白龍は、大口を開けて笑う。

「面白い冗談だ、試してみようではないか、道化」

伝説の白龍が、開戦の火蓋を切った。

直後、欠月の前に黒龍が立ち塞がり、そして消えた。

「───…見えたか?」

【原典】へ問う。

『見えたけど、伝達の間に合う速度じゃないわね』

それは───

(つまり、電気信号よりも)

「速いって事かよッ」

欠月が立っていた地面が裏返る。

少し遠くを見ると──

「地面に平手打ちして裏返らせたァ!?」

あ、まずい、拳構えてる。

(対抗するには…仕方ない、切り札をここで使うのは憚られるが)

「【原典】、権能領域を!」

鞘が解かれ、もう一本の刀を形成する。

それと同時に、周囲をあの道場と似たような、けれど、さらに強い気配が包んだ。

手動式マニュアル魔法剣、起動!」

その剣の名を、稲妻アルゲス

山間を焼き払う稲妻の力を宿した破壊の魔剣。

「もう一丁!」

その剣の名を、光輪。

神の使徒たる証明にして、その身を護る光の魔剣。

玄月の時と似たような組み合わせ──だが、前回と違うのは

(破壊が、数段上を行くッ)

欠月の身を焼く雷は、真に神雷と言えるクラスのモノ。

短期決戦型、と言った所か。

「背水──背雷の陣だ。伝説さんよぉ、地を這う覚悟は出来てるか?俺は出来てる」

迫る白龍は、笑っていた。

「飛べぬ龍なぞ、いないだろうよ」

倍増。

拳から感じる魔力が、更に大きくなった。

(────存在格スケールが違ぇ)

「どうかな?土竜モグラとも言うし」

格の違いそれを分かって、尚煽る。

「ふっ」

視界から、白い躯体が消えた。

「言いおるわ、人風情が」

違う──真ん前ッ!!

「くっ」

白龍の拳が頬を掠め、

「フッ」

二本の刀が白龍の肩に食い込む。

「フンッ!」

白龍が全方位に魔力を放った。

「──ッ」

欠月はそれに逆らわず、飛ばされるように下がる。

「──良い刀だ、人間」

右肩から腹にかけてバッサリと入った傷を指先で撫でつつ、白龍が言う。

(【原典】の事は、バレてるか)

対する欠月は、妙に乾く口で言葉を紡ぐ。

「だろう?神話の怪物おまえに傷が入るんだ、相当な代物さ」

白龍は、少し驚いたような表情を浮かべる。

「──痛みに強いのか、或いは気付いていないのか。だがどちらにしろ、その状態でまだ口が効けるとは、大したものだ。評価を改めよう、お前は確かに、神話に能うに相応しい」

ゾクリ

白龍の殺気とは別種の悪寒が、両者を襲う。

「白の、貴様──吾のモノを盗ろうと云うのか?」

それは、先程欠月を庇い、吹き飛ばされた黒龍の言葉だ。

「お前のモノになった覚えないんだが……?」

そんなツッコミは、二人の龍に届かない。

しばしの沈黙の末、どうやら龍の間で決着が着いたようだ。

「──人間、しばし勝負を預けよう。そうさな、三ヶ月後だ」

白龍が欠月に向き直り言った。

それは、宣戦布告だ。

「しかと伝える良い。最後の時間を楽しめよ、人類」

そう言って、白龍は飛び立つ。

「───チッ」

黒龍は舌打ちをして、欠月を見る。

「吾との約定、決して違えるで無いぞ!」

そう言って、白龍とは別の方向に飛び立った。

「────三ヶ月後」

レイラの言葉を思い出す。

────今の状況なら少なくとも二ヶ月は満足に力を振るえるまでは掛かる───

「アイツの予測は、かなり正確だった訳だ」

稲妻を解除し、鞘を形成し直す。

「【原典】どう思う」

『…先ず、それ治しなさい』

「口……?」

自身の口を触る。

───無い。

右の頬が、無い。

「痛ってェ……」

白龍め、やってくれる。

「口が乾くのは、これが原因か」

神聖魔法を使い応急措置をする。

『貴方冷静過ぎでしょう。キモイわ』

「酷いな。お前も大概こんなもんなんじゃ無いのか?」

『身体に傷がついた試しがないもの。分からないわね』

そらな。

お前を害せる奴がいたら驚きだ。

「一先ず、戻るぞ。人類俺らの余命宣告をされたんだ、存分に巻き込んでやろうじゃないか」

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ガチモブ転生~名前も能力も設定も特に無いシルエットが使い回されるタイプのモブに転生した~ あじたま @1ajn

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