第36話 天主外理、相対する
「次……!」
難敵を倒した感傷など無く、確殺を確信した次の瞬間、すでに意識はステラへと切り替わっていた。
そんな葉月が目にしたのは───
「あ、終わりましたか?私も今ちょうど終わったんですよ」
可憐な笑みを浮かべて此方に駆け寄るステラと、彼女がぶん殴ってぶっ飛んだ巨鬼が塵となって消え往く姿だった。
「…あ、え、はい。こっちは終わりました……後は負烙とその主だけですね」
「えぇ…あちらさんはもう準備出来てるようですが…」
ステラはそう言って上を見た。
完全に陣形が組まれ、包囲されている。
上には竜騎士、したには騎士と弓兵と魔術師。
先程とは比べ物にならない分厚い陣だ。
「個々の力も大幅に強化されている…」
勿論、負烙や斬将には及ばない。
けれど、雑兵と侮って良い相手ではない。
「あれを突破した後、負烙を倒してその主とも戦うとなると……はぁ、少し憂鬱です」
ステラが億劫そうに呟いた。
「確かに……ですが、その必要はないかも知れませんよ?」
ステラの張った
直後──
バキンッ
結界に、ヒビが入った。
「ハァ!?」
ステラが驚愕の声を上げて、それを見る。
結界に背を預けていた黒服の男も少し意外そうな顔でそれを見た。
「───すまん、遅くなった」
欠月の声がヒビから聞こえた。
バリィィン
一つのヒビから結界が完全に崩壊し、二人組が姿を表した。
欠月とレイラだ。
「ほう?中々やるではないか、少女よ」
黒服の男はやけに疲労感のあるレイラを見てそう言うと、次に欠月を見て、その顔を強ばらせる。
「この俺すらも縛ろうとする権能とは……少年貴様、何者だ?」
対して欠月はそれらを全スルーし、葉月達へと向かう。
が、
「其奴ヲ囲エ!我ガ兵ヨ!」
さすがにそれを許す
「───んだテメェ等?」
葉月達を囲うそれらを、自らに迫らんとするそれらをそしてそれを目の前に平然と立つ黒服の男を欠月は「敵」と判断する。
「そこ、退けよ」
そんな一言を呟き、欠月は多数の魔法を瞬時に展開、発動した。
雷鳴が鳴り響く。
それは騎士達を倒すとは言わずとも、少なくとも騎士達が足を止め、そして空を制する飛竜が落ちるのには十分な一撃だった。
「どうよレイラ。一応さっきの反省と気付き活かしたんだぜ?」
しかし、当の本人はまるで気にしていないように隣のレイラへと声をかける。
「雷と炎ね…成る程、見た目は悪くないわね。相性は兎も角として」
其だけではなく、一応欠月は火魔法のスキルレベルを上げていた。勿論、セコセコスキル上げする時間は無いので
「え?相性悪いの?」
おっかしいなぁ。アニメとか漫画とかだと合わせられてる印象あるけど、あれって全部インスタ映え的な奴なのかぁ?
「さぁ?」
どうでも良さそうに首を傾げるレイラ。
「さぁって……そこは知っとけよ雷使い」
「うっさいわよ。大体、私レベルともなると雷一筋の方が強いのよ」
「ったく、
「脳鳴って何よ」
「脳まで雷」
「それ生物?」
レイラがそんな疑問を口にしたところで、その日常会話かコントか分からないような会話は中断を余儀なくされた。
「おい、オレを無視するな人間ども」
欠月達の後ろからそんな声が聞こえた。
「おいおい、寂しがり屋かよ。葉月達助けた後で相手してやるから大人しく───」
後ろを向きながらそう言って、欠月はようやく黒服の男が自分の思った以上に切れている事をさとる。
「有である限り
「
欠月は、気が変わったとばかりに黒服に向き直る。
「レイラ、葉月達──」
隣のレイラに頼み事をしようとするが、それは当のレイラの承諾によって途中で止まる。
「はいはい、分かってるわよ。任せなさい」
「あぁ、頼んだ」
そう一言言うと、もはや心配するべくもないとばかりに黒服の男へと歩く。
「もう良いのか?少年」
「あぁ。片付いた。ところで、お前の名前は?」
「オレの名は
「欠月。死の理とやらに言うのもアレだが、冥土の土産だ。覚えとけ」
そう言って欠月は黎明の杖を構える。
────三つの理が渦巻く迷宮で、二つの理は相対した。
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