第133話 アレリルの街へ

 アグート子爵家の屋敷から宿に戻った俺たちは、まずは昼食として王都での食べ歩きを堪能して、さらに夜には王都でしか食べられないような高級レストランへ足を運び、一日で王都を満喫した。


 そして次の日には服飾店など目当てのお店を端から巡り、買い物も済ませた。


「皆、もう王都観光は十分?」


 買い物から宿に戻って食堂で夕食を食べながら、これからの予定を話し合う。


「そうだな。俺は満足したぞ」

「私もたくさん服を買えたから良いかな。またいつでも来られるしね」

『僕も美味しいものをたくさん食べられたので満足です!』

「じゃあ、さっそく明日からアレリルの街を目指そうか」


 俺のその言葉に皆が一斉に頷いてくれて、明日からの予定は決まった。


「正直さ、そろそろダンジョンに挑みたくてうずうずしてたんだ。しばらく強い魔物と戦ってないしな」

「分かる。あんまり戦わない期間があると腕も鈍るよね」

『僕も走り回りたい気分になってきました!』

「俺も一緒。街中の観光も楽しいけど、魔物を倒すことでしか得られない楽しさがあることに気づいたよ」


 俺は別に戦い好きじゃなかったんだけど、いつの間にか変わっていたみたいだ。

 あの緊張感と皆との連携が決まった時の達成感、さらに強い敵に打ち勝った時の高揚感。全てが平和な街中では得られないことだ。


「アレリルの街までってどのぐらいかかるんだ?」

「そんなに王都から遠くなかったはず。確か獣車で二日ぐらい」

「おおっ、それは近いな」

「途中で泊まる街を決めておこうか」


 それからの俺たちは明日からの道中の予定を決めながら夕食を楽しんで、今夜は早めにベッドに潜った。



 そして次の日の朝。しっかりと朝食を食べてから、さっそく出発だ。


「そういえば、王都の冒険者ギルドは行かなかったな」

「確かに。今度戻ってくる時があったら行ってみようか。どういう依頼があるんだろ」

「街中の依頼が多そうじゃない? これだけ広い街だし、あんまり街の周辺に魔物がたくさん棲息してる場所がないから」

「確かにそうかも」


 そんな話をしながら王都の中を獣車で駆け抜け、街を出て街道を進んでいく。


「トーゴ、何かおやつをくれないか?」

「了解。串焼きでいい?」

「ああ、後はサンドウィッチも食べたいぞ」

「じゃあ……この辺かな。また欲しかったら言って」

「おうっ!」


 もはやお約束となっているウィリーとのやり取りをしつつ獣車を走らせること二日。特に問題はなくアレリルの街に辿り着いた。


 五大ダンジョンがあるというだけあって、かなり大きな街だ。王都と同じぐらい、もしかしたら単純な広さでいえばそれ以上かもしれない。


「アーネストとは比べ物にならないほど冒険者が多いな」

「やっぱり五大ダンジョンは憧れだからね。低層階ならそこまで実力がなくてもやっていけるらしいし、皆が集まるんだと思うよ」

「早く挑んでみたいな! このダンジョンの入り口も街の中だったか?」

「そうだよ。街の中心だったはず」


 外門の先にある大通りを進んでいくと、たくさんの屋台と宿、それから武器屋などを発見できる。ダンジョン産のアイテムを売っているお店も多くあるみたいだ。


「まずは宿に向かうのでいいんだよな?」

「うん。獣車を置いた方が動きやすいから」

「ウィリー、宿の場所分かる? 私が案内しようか?」

「いや、大丈夫だ。地図だけ貸してくれるか?」

「ちょっと待って。……はいこれ」


 それからしばらく獣車に揺られて着いたのは、あり得ないほどに大きくて豪華な宿だった。


「ここって、貴族様が泊まるようなとこじゃないのか?」

「そう……だと思う」

「凄いところを準備してもらっちゃったね……」


 宿の前に獣車を止めて呆然と見上げていると、宿の中から綺麗な格好をした従業員が姿を現した。その男性は俺たちの下に来ると、丁寧に頭を下げて挨拶をしてくれる。


「いらっしゃいませ。トーゴ様、ミレイア様、ウィリー様、そしてミル様でお間違えないでしょうか」

「は、はい。あの……なんで分かったのでしょうか」

「アグート子爵様より皆様のことは聞いておりますので」


 子爵様はちゃんと事前に伝達までしてくれたのか。またお会いすることができたら、改めてお礼を伝えたいな。


「そうだったのですね。出迎えありがとうございます。トーゴです。獣車はどうすれば良いでしょうか?」

「こちらで獣車置き場に運びますので、このままで構いません。一角獣も責任持って厩舎でお世話させていただきます」

「ありがとうございます。助かります」


 それから俺たちは獣車から降りて、リーちゃんとミールくんを宿の従業員に任せて豪華な宿に足を踏み入れた。


 宿のエントランスは……それはもう、貴族の屋敷と間違うほどに広くて豪華だった。

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