第146話 討伐報告

 何もない広場に足を踏み入れたけど、その瞬間にゴーレムが復活することもなく、広場は静まり返っている。


「なんか、何もないことが逆に不気味だな」

「分かる……突然魔物が現れても良いように警戒しよう」

「じゃあ皆でまとまって広場から出ようか」


 それから緊張しつつ早足で広場の出口に向かうと、特に何も起こらず五層に戻ることができた。


「ふぅ……何も起きなかったな」

『ゴーレムも復活してませんね』


 ミルの言う通り、俺たちが五層に戻ったからとすぐに復活することはないようだ。それならまた広場に足を踏み入れたらどうだろう。

 そう思って広場の中に戻ってみるけど、特に何も起こらなかった。


「守護者は復活しないのか?」

「その可能性もありそうだね。あとはもっと時間が掛かるのか、それとも何かしら復活には条件があるのか」

「なんにせよ、今ここで試せることはもうないかな」

「そうだね。検証するにしても、一度戻ってからにしようか」


 俺たちは最後に何もない広場をぐるりと見回してから、地上に戻るため足を進めた。



 それから二日後。特になんの問題もなく地上へと生還した俺たちは、守護者討伐の報告をするために冒険者ギルドへとやってきていた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付の女性に声をかけられたところで、アイテムボックスからゴーレムのかけらを取り出して見せる。


「これ、五層の守護者であるゴーレムのかけらです。数日前にゴーレムへと挑み、討伐に成功しました」


 俺のその報告を聞いて、女性はぽかんと固まってしまった。そして信じていないのか、困惑の表情でカケラを見つめる。


「……守護者を討伐されたということですか?」

「そうです」

「それをすぐに信じるということは難しく……その、大変申し訳ないのですが……」


 全く信じてもらえてないな……多分だけど、ただのレンガを持ち込んでゴーレムを討伐したと言い張ってる輩だと思われてそうだ。


 ゴーレムを全て取り出せば信じてもらえるだろうけど、ここじゃさすがに場所が狭すぎる。


「パーティー名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「光の桜華です」

「それって………かしこまりました。ではギルドマスターを呼んで参りますので、少々お待ちください」


 女性はパーティー名を耳にすると、微妙な表情を浮かべて椅子から立ち上がった。


「どういうことだ?」

「パーティー名を聞いて対応してくれる気になったってことは、アグート子爵様かな」

「そうかもね……もしかしてギルドにも便宜を図って欲しいって通達してくれたのかも」

「でもそれにしては嫌そうというか、あんまり歓迎されてるふうじゃなかったな」


 もしかしたら俺たちのことは、金持ちの道楽で冒険者をやってるやつらぐらいに思われてるのかもしれないな。

 あんな宿に毎日泊まって、子爵様の口添えありでここに来ていたらその勘違いは大いにありそうだ。


 俺たちはランクだけならまだCランクで、そこまで強いとは思われないだろうし。


『ここでゴーレムを見てもらって、僕たちの実力を把握してもらった方が良いかもしれませんね』


 ミルも俺と同じようなことを考えたのか、そんな言葉をポツリと呟いた。


『そうかも。足だけならここにも出せるし、倉庫に移動してもらえなかったらここに取り出しちゃうよ』

『そうしましょう』


 そんなことを話していると、二階からさっきの女性と共に細身な男性が降りてくるのが見えた。珍しく武闘派じゃないギルドマスターなのかもしれない。


「光の桜華の皆様、お呼びでしょうか? 私はアレリルの街でギルドマスターをしております、ティトーと申します」

「初めまして。光の桜華のリーダーでトーゴです」

「私はミレイアです」

「俺はウィリーだ。こっちはトーゴの従魔でミルな」


 俺たちのその挨拶に、ティトーさんは綺麗な礼をしてくれた。

 これは本格的に貴族に縁がある者とでも思われてそうだ。もしかしたら、貴族家の子息子女が遊びでやってきたとまで思われてるかもしれない。


 アグート子爵様……その辺の説明もお願いしたかったです。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「守護者であるゴーレムを倒したので、その報告に来たんです」

「……ほう、ゴーレムを。ではそのお話について詳しくお聞かせください。執務室にお茶を用意させますね」


 うん、これは絶対に信じてないやつだ。適当に話を聞けば良いだろって思ってる。執務室の方がここより狭くてゴーレムの部品を出すのは難しいだろうし……もうここに足を出しちゃえば良いかな。


 俺は信じてもらえないことがだんだんと面倒になり、部品を取り出すことに決めた。


「その前に、これを見てもらえますか? 執務室では取り出せないと思うので。皆さんすみません! 少し避けてください」


 時間的に冒険者の数は少なかったけど危険がないように避けてもらい、何が起こるのか分からず僅かに眉間に皺を寄せているティトーさんの目の前で、ゴーレムの片足を取り出した。

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