二章 中級冒険者編

第73話 ダンジョン都市

 ナルシーナの街を出発して一時間ほど。新たな冒険に心躍る気持ちもさすがに収まってきて、俺達は馬車に乗ってる時間で今後の予定を立てることにした。


「アーネストの街に着くのは今日の夕方だよね?」

「予定ではそのぐらいだって。まず街に着いたら冒険者ギルドに行こうか」

「とりあえず行っておいた方が良いよね。アーネストの街に滞在してるって登録しないとだし、宿の情報も欲しいから」

「もう一回登録するのか?」


 ミレイアと俺の話を聞いて、ウィリーが不思議そうに首を傾げる。


「冒険者ギルドのこと? もう一回登録というか、滞在地を移動したら移動先に報告しないといけないんだよ。そうじゃないと依頼の受注記録とか付けてもらえないから」

「……そういえばそんな仕組みだったな」

「うん。だから忘れないうちに冒険者ギルドには一声かけておこうよ。ついでに宿の情報も聞きたいし」

「そうだな」


 宿はずっと滞在する場所だからかなり重要だ。お金はあるし、少し高くても快適な宿にしたい。ご飯が美味しいこととミルに優しいこと、この二つの条件は絶対に外せないかな。さらに魔道具がある宿ならなお良い。


「じゃあアーネストの街に着いたらまずは冒険者ギルドに向かって、その後で宿を取るって流れで良い?」

「おう! それで明日からは早速ダンジョンか?」

「うーん、まずは情報収集からじゃない? 冒険者ギルドでダンジョンについての情報を聞いて、準備を整えてからじゃないと危ないよ」


 ダンジョン独自のルールとかも知っておかないとダメだろうし、知識があれば防げる危険は沢山あるからまずは情報だ。


「そうだよ、ウィリー。むやみやたらと突っ込んでいくのは、勇気じゃなくてただの考えなしだからね」


 ミレイアがウィリーを諭している。なんだかんだこの二人は姉と弟って感じで上手くいっているのだ。見た目は完全に妹と兄だけど。


「分かってるぜ。ちゃんと調べてからだな」


 

 そうしてこれからの予定を話しつつ馬車に揺られ、途中でお昼休憩を挟み、時間通りアーネストの街に着いた。

 アーネストの街は巨大な城郭都市のようで、街に入る門にはたくさんの人が並んでいる。獣車もいくつもあるようだ。


「デカいな……」

「ナルシーナの街とは比べ物にならないね」


 ナルシーナの街も城郭都市ではあったけど、少し離れれば壁の端まで見渡せるほどの規模だった。でもこの街はナルシーナの街よりも高くて威圧感のある城壁が、端が見えないほど続いている。


「そういえばダンジョンってどこにあるんだ? 近くの森の中か?」

「ううん。この街のダンジョンは街の中にあるんだって。地中型のダンジョンで入り口は小さな洞窟の入り口。ダンジョンの難易度がそこまで高くないのに手に入るものは良いってことで、その周りに冒険者が寝泊まりする小屋を立て始めたのがこの街の起源らしいよ」

「……それって危なくないのか? 街の中に魔物が現れるよな?」

「それを防ぐために入り口は頑丈な壁で囲まれてて、魔物が出てきたとしても常駐の冒険者や兵士がすぐに倒すんだってよ」


 ただいくら壁で防がれてるとは言っても、他の街より危険なことに変わりはないだろうし、この街に住んでる人は凄いと思う。商魂たくましいというかなんというか……


「そろそろ順番が来るから降りてくれ。乗合獣車は街に入る時、一人一人手続きするのが決まりなんだ。今回は利用してくれてありがとな」


 御者のおっちゃんの言葉で獣車の乗客はぞろぞろと降りた。俺達も他の乗客に続いて降りる。そして門番に冒険者ギルドカードを提示して街中に入ると……


「うわぁ、凄い人だ」

「熱気がすげぇな。屋台があんなに沢山あるぜ!」

「なんか強そうな人ばっかりだね……」


 そこにはナルシーナの街とは比べ物にならないほどの人の波と、密集した背の高い建物があった。そして武器や防具を身に付けた冒険者が多く存在するからか、暑苦しいような熱気も感じる。

 ナルシーナの街がどこか長閑な雰囲気だとしたら、この街はとにかく活気に満ち溢れていた。


「テンション上がるな! ミル、あっちに美味そうな串焼きがあるぞ!」

『良い匂いですね! お腹が空きますね!』

 

 ミルの尻尾はぶんぶんと振られていて、今にもウィリーと共に屋台に突撃していきそうだ。


「二人とも待って、まずは冒険者ギルドだから。屋台は宿を決めてから巡ろうよ。それに明日からいくらでも食べられるから」

「そうだったな。じゃあ早く冒険者ギルドに行こう!」


 俺とミレイアは二人の様子に苦笑いだ。ウィリーとミルってちょっと似てるところがあるんだよな。主に美味しい食べ物に対する反応が。


「まずはどこにあるのか聞かないと」


 マップを見れば場所は分かるんだけど、知らない街のマップから目的地を探し出すのは意外と難しいし、何よりもなんでもマップで調べてしまったら面白くないので、こういう時はあまり使わないようにしている。


「私聞いてくるよ。ちょっと待っててね」


 ミレイアはそう言うと、また門に戻っていき門番さんに声をかけた。門番さんは忙しい時に声をかけられても全く嫌な顔をせず、優しく丁寧に場所を教えてくれているらしい。

 最近のミレイアは自分の容姿を最大限に活用しているのだ。凄く頼もしい。


「聞いてきたよー! この大通りをまっすぐ進んで広場を右に曲がって、またしばらく進むとあるんだって。かなり大きな建物だからすぐに分かるって」

「ありがとう。じゃあ行こうか」


 大通りを進んでいくと、通りの両脇にはたくさんの店が立ち並んでいる。たまにある広場にはいくつもの屋台が出店しているし、興味を引くものばかりだ。


「ダンジョン産の薬草で作った魔力回復薬だよ〜普通のやつよりも効果が高いよ〜」


 小さな屋台からはそんな声が聞こえて来る。魔力回復薬はシャルム草から作られるものだけど、ナルシーナの街周辺では魔力がなくなるようなこともなく、使ったことはなかった。

 でもダンジョンに入るなら、何本かは持っておいた方が良いのかもしれない。いや、せっかくアイテムボックスがあるんだし、できる限り多く貯めておいた方が良いのかな。魔法使いにとって魔力は生命線だから。


「ダンジョンの五層に出るレッドカウの肉が入荷したよー!」


 今度は肉屋からそんな声が聞こえて来る。レッドカウは確か火魔法を使うカウだったはず。カウの肉よりも赤身が多くて味が濃くて美味しいらしいんだよな。後で絶対に食べよう。


 そうしていろんなお店や屋台に目移りしつつも歩き続けることしばらく、やっと冒険者ギルドの前に着いた。


「トーゴ、もう俺腹減ったぜ〜」

「美味しそうなお店がたくさんあったもんね」


 ウィリーの訴えに、ミレイアも苦笑しつつ同意している。そして皆で屋台の料理に後ろ髪引かれながら冒険者ギルドの扉を開けると……そこはむさ苦しい筋肉の巣窟だった。思わず扉を一度閉めた。

 これはやばい、ナルシーナの街なんて穏やかだったと思うほどこのギルドはやばそうだ。やっぱりダンジョンがあるとむさ苦しくて、さらに血の気が多い人が集まるのかな……


「皆、覚悟は良い?」

「おうっ!」

「……なんとか頑張るよ」

『大丈夫です!』


 俺は皆の返事を聞いてから一度深呼吸をして、意を決して冒険者ギルドの扉をもう一度開けた。




〜あとがき〜

改めまして、こちらの小説の書籍化が決定いたしました!

皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

レーベルは双葉社のMノベルス様で、11月末に発売予定です。web版から大幅に加筆修正されてとっても面白くなっていますので、楽しみにしていただけたら幸いです。イラストは成瀬ちさと先生が素敵に描いてくださっています。早く皆様にも見ていただきたいです!


書籍化に伴って、web版の更新も本日から再開いたします。一週間は毎日更新、その後も頻繁に更新していく予定ですので、こちらも楽しんでいただけたらと思います。


いつも私の小説を読んでくださっている皆様、さらにコメントや評価をしてくださる皆様、本当に本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。


蒼井美紗

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