第74話 冒険者ギルドに報告

 うわぁ……やっぱりヤバい。とにかく暑苦しい。人は多いけど歩けないほどじゃないのに、なんでこんなに暑苦しいんだろう。皆から熱気が出てる気がする。


「ちょうど夕方で混んでる時間なんだな」

「タイミングが悪かったね。皆が荷物も持ってるから、より狭い気がするし」


 確かにそれもあるな……かなり大きな角や毛皮を持っている人もいて、それがよりギルド内を狭くしている。ただ見たことがない魔物素材が多くて、見ているだけで楽しいのも事実だ。


「トーゴ、あの人が持ってる白い毛皮綺麗じゃない?」

「本当だ。ホーンラビットより触り心地良さそう」

「だよね! あの毛皮で作った服とかあるかなぁ」


 ミレイアはもう服に意識が飛んだらしい。ミレイアは外に出られるようになっておしゃれに目覚めたらしく、自分で使えるお金は大部分を服に注ぎ込んでいるのだ。

 その服はほぼ全てが俺のアイテムボックスに入っているので、ミレイアには毎日のようにトーゴが特殊なアイテムボックスを使えて良かったと感謝されている。


「ミル、あのおじさんが持ってる肉、美味そうじゃねぇか?」

『本当ですね。ステーキにしたら絶対に美味しいです!』

「ステーキにしたら美味しそうだって」


 俺がミルの言葉を伝えると、ウィリーはその感想に嬉しそうな笑みを浮かべて、ミルの頭をガシガシと撫でた。


「やっぱり気が合うな! あのステーキでパンが十個はいけるぜ」

『僕もです!』


 そうして仕事受付の列に並びながら各々時間を潰していると、俺達の順番がやってきた。受付はいかにも仕事ができそうな美人の女性だ。


「仕事受付です。ご用件は何でしょうか?」

「本日ナルシーナの街から移動してきましたので、その報告に来ました」

「かしこまりました。ではそれぞれの冒険者ギルドカードとパーティーカードを提出していただけますか?」


 俺達がカードを手渡すと、女性は裏表をしっかりと確認してから、登録用紙らしき紙にパーティー名や名前を書き込んでいく。そして女性がペンを置くと、今度はその紙を手渡された。


「魔法属性や武器などを記入していただけるとありがたいです。任意ですが、アーネストの街にいる冒険者の力量を把握するために、ご協力いただけたらと思います」

「分かりました」


 どうするかな……四属性を記入したらかなり目立つだろうけど、隠すのも微妙な気がする。そもそも登録の時に四属性が使えるって書いたのだから、冒険者ギルドに対して隠したって今更だよな。


 俺はそう考えて、少し悩んだけど四属性と両手剣と書き込んだ。そしてミレイアが弓、ウィリーが斧と書いて受付の女性に紙を戻す。


「これでお願いします」

「かしこまりました。……ご協力、ありがとうございます」


 女性は俺の属性を見て目を見開き一瞬固まったけど、その後は何もなかったかのように対応を続けてくれた。この人はプロだな、ありがたい。


「依頼の受注記録も作成しておきますので、本日からさっそく依頼を受けていただけます。依頼作成日が早いものから受けていただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします」


 誰も受けない依頼を消化して欲しいってことか……俺達はお金を稼ぐというよりも強くなることを目標にしてるんだし、面倒くさい依頼を受けるのもありかもしれないな。冒険者ギルドからの印象が良ければ、レベルアップも早まるかもしれないし。


「他に何かご用件はございますか?」

「宿の情報を聞きたいのですが、従魔も一緒に泊まることができて、ご飯が美味しくて、できればお風呂がある宿が良いです。値段は多少高くても構いませんので、教えていただけないでしょうか?」

「立地はそこまで気にしません」


 俺が出した条件にミレイアが少し付け足して、受付の女性に要望を伝えた。すると女性は少しだけ悩んだ後に、三か所の宿を提示してくれる。


「ありがとうございます。順番に向かってみます」

「いえ、また何かありましたらお気軽にお尋ねください。ではこれからよろしくお願いいたします」


 報告を済ませて冒険者ギルドを出ると、外は薄暗くなっていた。早めに宿を決めないと今夜泊まる場所がなくなりそうだ。


「宿はどこにする?」

「俺は二つ目が良いと思うぜ。冒険者向けって言ってたしな。他の二つは商人向けっぽくなかったか?」

「私も聞いててそう思ったかな。二つ目のところは立地が路地を奥に入ったところだから人気がないって言ってたけど、私達なら治安は気にしなくて良いと思うし」


 二つ目か……確かに俺もそこが一番良さそうだと思ったんだけど、治安が悪いとミレイアが心配なんだよな。本人は大丈夫って言うんだろうけど。


「ミルも二つ目で良い?」

『はい! ミレイアさんが大丈夫ならですが……』

『やっぱりそこが心配か』

『ミレイアさんは可愛らしい容姿ですからね。強そうには見えませんし、狙われそうです』

『そうなんだよなぁ……まあでも、しばらく出かける時は俺達が一緒に行けば大丈夫かな』

『そうですね! とりあえず見に行ってみましょうか』


 俺とミルがそう結論づけたところで、ウィリーにミルの意見を聞かれた。


「ミルも二つ目で良いって。でもミレイアが心配だから、外を歩く時は一緒に行くって」

「ミルちゃん、私を心配してくれるの!? ありがと〜」


 ミレイアはミルにぎゅっと抱きついて頬擦りをしている。ミレイアが心配だっていうのは、俺が言うよりもミルが言った方が圧倒的に効果的なのだ。


「じゃあ早く行こうぜ。腹減ったから早く宿を決めたいからな」

「そうだね。じゃあ行こうか」

「確かまずは大通りに出て……」


 パン屋があるところの角を曲がるんだったはず。赤い大きな看板が目立つから、すぐに分かるって言われたんだけど……


「あっ、あれじゃない? 赤い看板のパン屋って」

「すげぇな、確かにあれは目立つ」

「ははっ、予想以上に目立ってる。じゃあその手前を左に入って」


 先頭を歩くウィリーに声を掛けると、ウィリーは楽しそうに片手を上げてパン屋まで駆けて行った。そして路地を覗き込んで、またこちらに視線を戻す。


「思ったよりも暗い路地じゃないみたいだぞ。いくつかお店もあるし」


 俺達も早足で路地に向かってみると、確かに雑貨屋など看板が掛かっている建物がある。これならミレイアだけでも大丈夫そうかも。


「この路地をまっすぐ行くんだよね?」

「うん。しばらくまっすぐ進んで、途中で一度だけ左に曲がるって言ってたよ」


 その曲がり角が分かりづらくて、ただの住宅しかないらしいのだ。一応窓の外に鉢植えに植えられた植物がいくつもある家って教えられたけど、それで分かるかどうかは微妙な気がする。さっきから鉢植えを置いてる家はいくつもあるのだ。


「なぁトーゴ、さっきの家じゃないのか?」

「多分違うと思う。まっすぐ五分は歩いてからって言ってたし。……あっ、あそこじゃない?」


 視線の先には今までにないほど鉢植えが所狭しと並べられ、さらに綺麗な花が咲いている住宅があった。


「綺麗だね……ここを左に行ってみようか。左に曲がって比較的すぐだって言ってたし、違ったら戻れば良いんだから」

「そうだな。じゃあ行こうぜ」


 そうして俺達は迷いそうになりながらも路地を進んでいき、なんとか目的の宿に辿り着けた。

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