第9話 初めてのご飯と魔法について

 注文してから数分ですぐに料理は運ばれて来た。さっきからずっと良い匂いがしてるんだけど、多分これってあの匂いだと思うんだ。絶対そうだと思う。

 俺の中でかなり期待が高まって出て来たものは……


「はいよ! カレーだよ」


 やっぱりそうだ!! カレーだよ。この匂いは完全にカレーだ。籠にたくさん盛られたパンと、お皿にたっぷりとよそられたカレーが運ばれて来た。


「カレーは食べたことあるか?」

「ううん。ないよ」

「そうだろ? こいつは近くの森の奥にあるカレーの実を数時間煮込むと出来上がるものなんだけどよ、最近流行り始めたんだぜ。俺たちはもうすっかりハマっちまってよ」

「俺はこれがあれば生きていける」

「サージはそう言ってずっとカレー食べてんだよな」


 カレーの実、作ったよ。ちゃんと食べられるって気づいてくれたのか。ありがとうこの世界の人達!

 カレーの実は確かココナッツぐらいのサイズの実で、俺のイメージでは中の種を取り除いて皮を剥いてからカラカラに干して、それをすりつぶしてカレー粉にする予定だったんだ。でも確かにただ煮込むだけでも美味しいエキスは全部出るよな。うん、想定と違っても美味しければ良いんだ。


「じゃあ早速食べようぜ。神に祝福を、糧に感謝を」

「神に祝福を、糧に感謝を」


 全員が当たり前のようにその言葉を口にして食事を始めた。この世界食前のお祈りなんてあるんだ……

 俺もそれに倣ってお祈りを口にする。そして早速食事だ。まずはスプーンでカレーだけを掬って一口食べる。


 うぅ〜ん、なにこれ! 美味しすぎる!


「美味しい!」

「だろ? こいつは癖になるんだ」


 パブロが口いっぱいにカレーとパンを頬張りながらそう言った。

 カレーの実を粉にしないで煮込んで味を出してるからスープカレーみたいな感じだけど、それでもめちゃくちゃ美味しい。


『ミル、美味しいね』

『すっごく美味しいです! これは神界でトーゴ様が作り出してくださったカレーとは少し違うのですね』

『本当はカレーの実を乾燥させてすり潰して煮込めばあれと同じになるんだけど、ちょっと調理工程が違うみたい。でもこっちも美味しい』

『はい!』

「おっ、こいつ名前はミルだったか? 美味そうに食ってるな」

「ミルも美味しいって」

「そりゃあ良かった」


 俺はとりあえずカレーを堪能して、満足したところでパンに手を伸ばす。パンはまだほのかに温かい。それに結構ふわふわしてる。

 両手でパンをちぎるようにしてみると、もっちりとした感触が手に伝わって来る。このパン、硬くて口の中を怪我するとか、パサパサで水で流し込まないといけないとか、そんなこと一切ない! ほのかに甘みがあって美味しいパンになっている。

 この世界の食文化は結構期待できるかもしれないな。食事も楽しみだ!


 でも当たり前のようにパンが出てきたけど、米ってないのかな?


「ねぇ、米ってないの?」

「米? トーゴ珍しいものを知ってるな」

「……村ではたまに食べたんだ」

「そうなのか? まあ、たまに商人が運んでるからな。米はもう少し北の国でよく作られてる。この辺にはたまに売ってるぐらいだな」


 そうなのか。でも確かに全国的に作れるわけじゃないからね。色々と設定してる時に全世界どこでも稲作ができるようにできないかと思ったんだけど、結構難しかったのでそこそこのところで諦めたんだ。

 米がある国に行く楽しみができたと思っておこう。


「じゃあお金が貯まって強くなったら北の方に行ってみようかな」

「それもいいかもな。あとは外国のものをよく売ってる店があるから、そこを頻繁に覗いてればたまにあると思うぞ」

「そうなんだ。じゃあ行ってみるよ」

「おう」


 そうして三人と話しつつカレーを堪能し、お腹いっぱい幸せな気分でお店を後にした。



「じゃあ次は冒険者ギルドだな。そういえばトーゴにはまだ聞いてなかったが、冒険者になるんでいいのか? もし他の仕事がしたいんだったら伝手はないが探してやるぞ?」


 ……マテオ、見知らぬ人にそこまでやってあげるの優しすぎるよ! もうここまで来ると騙されないか心配になって来る。


「ううん、冒険者がいい。俺も強くなりたいし!」

「そっか。じゃあ冒険者ギルドだな。トーゴは戦いの経験あるのか?」

「ないんだ。村では農業しかやってなかったから……」

「じゃあまずは自分に合った武器を見つけるところからだ。冒険者ギルドでは初心者講習をやってるから参加するといい。あとは魔法だな。魔法が使えるか試したことはあるか?」

「簡単な魔法なら使えるよ」


 人口の三割が魔法を使えるのなら村で誰も使ってなかったなんていうのはおかしいから、魔法は使ったことがあることにする。いくつか決めた呪文は覚えてるし大丈夫だろう。後で魔法の呪文一覧みたいな本が欲しいな。


「トーゴは魔法使えんのか! そりゃあラッキーだな」

「皆は使えないの?」

「俺たちは運悪く誰も使えないんだ。冒険者は魔法を使えると便利だぞ。トーゴはどのぐらい魔力があるんだ?」


 俺は魔力量最大にしたからこの世界で一番魔力量が多いんだけど、それは流石に隠しておこう。あまりにも目立つと動きにくくなるし。


「簡単な魔法を一日に何回か使えるぐらいかな」

「一日に何回も使えんなら結構凄いじゃねぇか! どの属性に適性があるんだ?」


 パブロが興奮してそう聞いて来る。この世界の魔法は全部で八つの属性に分かれていて、その中でどれが使えるのかは生まれつき決まっているんだ。基本的には一人一つか多くて二つだけど、稀にもっとたくさんの属性に適性を持つ人もいる。

 俺は神様特権で全部使えるんだけど、とりあえず三つぐらいにしとこうかな。火、水、風、土、雷、氷、光、闇の八つなんだけど、とりあえず水は便利だから外せない。あとは回復魔法がある光も重要だ。

 それからアイテムボックスがある闇も絶対だ。この世界のアイテムボックスは闇の中に仕舞えるという設定にしてあるので闇属性なのだ。アイテムボックスが使えないなんて不便すぎる。

 あとは時間停止を誤魔化すために氷も欲しいな……。四つになっちゃうけど、いいかな……?


「俺は水と氷、光、闇が使えるんだ」

「……トーゴ、俺達のパーティーに入らねぇか」


 俺が属性を告げると、パブロが急に真剣な表情になりそう言った。


「トーゴ、凄いな」

「どのパーティーも欲しがること間違いなしだ」


 マテオとサージもそう言って驚いている。やっぱり四つは多かったかな……


「そんなにかな? でもウォーターとアイス、ヒールにアイテムボックスしか使えないけど……。全部一つずつだけだよ」


 ウォーターは水魔法の一番初級で魔力量の消費も少ない魔法だ。ただ水を生み出すだけ。アイスは同じく氷を生み出すだけ。ヒールは軽い怪我ならなんとか治る程度の効果しかない。アイテムボックスは俺のは規格外だけど、一般的には一部屋分ぐらいの容量で時間停止もない。


「それだけでも十分すげぇよ。それに他の魔法は知らないんだろ? 呪文を知れば使えるかもしれねぇ!」

「そうだな。まずウォーターが使えるというのはかなり助かる。冒険者が一番困るのは飲み水だからな。アイスも肉を持ち帰るのに重宝する。ヒールはかなりありがたい。軽い怪我が原因で死ぬ奴もいるんだ」

「それにアイテムボックスがあれば一度にたくさんのものが持ち帰れる。何倍も稼げるようになる」


 うん、やっぱりちょっとやりすぎたかな。でも便利なものはできる限り使いたい。それに割合は低いけど他にもいるはずなんだし。

 数百年に一人の割合で全ての魔法に適性がある人も生まれるようにしたから、もしかしたら今この世界中のどこかにいるかもしれない。


「とにかくまずは冒険者登録だな。それで、俺たちのパーティーに入るか?」


 マテオが再度そう聞いて来る。皆は凄くいい人達だし一緒に冒険するのも楽しそうなんだけど……、俺は神界にも戻るし一人の方が気楽でいいんだ。


「とりあえず一人で頑張ってみるよ。でももし後から入りたいって思ったらまた声をかけてもいい?」

「そうだよな、まだパーティーのこともよくわかってないんだよな。分かった、また入りたくなったら声掛けてくれ」

「ありがとう」

「いいってことよ」


 そうして話しながら歩いていること十分程、俺たちは石造のかなり大きな建物に辿り着いた。ここが冒険者ギルドみたいだ。

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