第8話 ナルシーナの街
「トーゴ、見えてきたぞ。あそこがナルシーナの街だ」
そう言ってマテオが指差してくれた先には、城壁と大きな門のようなものが見える。
「街ってあんなに大きな壁で囲まれてるんだ」
「ああ、魔物に攻められないとも限らないからな。基本的には城壁に囲まれている。だが大きな街は城壁の外側にも街が広がっていることが多いらしいぞ。ここはそんなことはないけどな」
「そうなんだ」
そうして話をしつつ街道を進むと、すぐに門まで辿り着いた。
「トーゴ。魔物使いは魔物にわかりやすく印をつけなきゃならねぇんだ。今回は初めてだから俺達が説明するけどよ、次からは首輪とかが必要になるぞ」
「分かった。じゃあ早く稼いで首輪を買ってあげるよ」
「それがいいな。それまでは布でも巻いてたら大丈夫だ」
「じゃあいくぞ」
門番らしき人のところに近づいていくと、その人がこちらに気づき不思議そうな顔をする。
「夜の星じゃないか。さっき出て行ったばかりだろう? 忘れ物か?」
夜の星ってなんだろう……冒険者パーティー名とか?
「いや、そこの草原近くでこいつと会ってな。田舎の村から口減らしで出てきたって言うもんだから、街まで案内して来たんだ」
マテオがそう言うと、門番さんは俺の方を見て次にミルを見た。ミルを見た門番さんは少し驚いていたけれど、剣を抜くことはない。この国では魔物使いって結構浸透してるのかも。
「……魔物使いか?」
「この子はミルって言います。俺の友達なんです」
「そうか。白狼が友達か……」
「冒険者ギルドまで連れて行ってやろうと思ってな。魔物使いなら十分やっていけるだろ?」
「確かにそれが一番だな。坊主名前は」
「トーゴです」
「トーゴだな。入街税は一人当たり銅貨一枚だ。従魔も一人として数える。冒険者ギルドカードがあれば税は免除だからすぐに登録することを勧める」
「はい。すぐに登録します」
そうして門番さんと受け答えしていると、パブロに驚いなような声音で聞かれた。
「トーゴは敬語が喋れんのか?」
あっ……話さないように気をつけてたのに、つい喋っちゃった。
「……ちょっとだけ。村に教えてくれるおじいさんがいたんだ」
「そうなのか。それはめっちゃラッキーだな。敬語は喋れた方が有利だぞ。貴族の依頼も受けられるようになるし、商人なんかも礼儀がわかってるやつ限定の依頼を出したりすんだ」
へぇ〜そんな仕組みなんだ。じゃあ意外と敬語を話せる人もいるってことだよな。これからは敬語を話せる設定でいこうかな。
「じゃあもっと勉強することにするよ」
「偉いなぁ〜。俺は面倒くさくて結局ダメだ」
「じゃあトーゴと従魔の分で銅貨二枚だ。後は皆の冒険者ギルドカードも一応見せてくれ」
門番さんのその言葉に話は一度中断し、街に入る手続きをした。とはいってもカードは本当にチラッと見るだけだし、あとはお金を払うだけだけど。
パブロが払ってくれたお金を見ていると、銅貨は結構小さめで丸い形のお金だった。日本の十円玉に近いかもしれない。これからお金についての知識も得ないとだ。
「トーゴ、首輪を手に入れるまでこの布を巻いておけ。白狼は強いから怖がる奴もいる」
「そうなんだ。ありがとう」
門番さんはそう言ってオレンジ色の綺麗な布を渡してくれた。門番さんもいい人だな。
『ミル、布を首に巻いていい?』
『もちろんです! 綺麗な色の布ですね』
『気に入った? じゃあ首輪もオレンジにしようか』
『はい!』
そうしてミルと念話で話しながら首に布を巻いてあげた。うん、白いミルにオレンジが映えて可愛い。
「よしっ、じゃあ行くぞ。トーゴ、ナルシーナの街へようこそ」
マテオのその言葉に門を少し進んで街に入ると、そこには明らかに日本ではない、異国の街の風景が広がっていた。
なんか、なんか感動する。ここが俺が作った世界だなんて信じられない。
「トーゴの村よりは栄えてるだろ?」
「うん。凄いよ!」
門を入ったところには大通りがあって、その脇には所狭しとたくさんの建物が並んでいる。全体的に石造りの建物が多いみたいだ。ファンタジーな世界に迷い込んだみたい!
大通りには多くの人が行き交っていて、屋台のようなものも散見される。それに何かの魔物が引いている車もある。あの魔物なんだっけ……そうだ、確か一角獣だ。
「あのでかい魔物って一角獣?」
「そうだ。トーゴの村では一角獣が引く車はなかったのか?」
「なかったかな」
「確かに田舎にはそもそも車がないよな。一角獣は草食だし温厚な性格だから手懐けるのが簡単でな、ああして車っていう乗り物を引いてもらって移動するんだ。歩くよりもよほど早く移動できるぞ。急がせればかなりのスピードが出る。ただその時は頑丈な車にしないとだけどな」
この世界にも馬車みたいなものがあるんだな。この世界に動物を作らず魔物だけにすると決めた時に、何体か馬の代わりになりそうな魔物を作っておいたけど、この辺では一角獣が選ばれたみたいだ。
確かに一角獣は魔法も使えないし安全なのかも。
この世界の魔物は全て魔力を持っているし、人間も全て魔力を持っている。でも一定以上の魔力がないと魔法は使えないようになっていて、魔物では全体の半数程度、人間は三割程度しか魔法を使えないはずだ。
この世界の魔法は人間ならば魔力を練り上げてキーワードを口にすれば使える。魔物は魔力を練り上げて特定の鳴き声を発したり、特定の仕草をすると使えるようにしてある。
この世界で魔法がどんな扱いなのかも知りたいな。それに魔物の心臓部分にある魔石を使って魔道具も作れるようにしたんだけど、それもどこまで発展しているのか楽しみだ。
「じゃあトーゴ、早速冒険者ギルドにって言いたいところだが腹へらねぇか? もう昼だし先に食堂行こうぜ」
「うん! あっ、でもお金……」
「だからいいって。気にせず子供は奢られとけ」
「……ありがと。でも子供じゃないよ。もう十五歳だから」
「俺達から比べたらまだまだだな〜」
「そういえば皆は何歳なの?」
「俺は二十九だぜ」
パブロは二十九歳なのか。
「俺は三十だな」
「俺は二十七」
マテオが三十でサージが二十七。だいたい思った通りの年齢だけど、サージが予想以上に若い。なんだか達観してるような雰囲気があるから一番年上だと思ってたよ……
「皆はこの街で知り合ったの?」
「そうだ。最初は俺がソロでやってるところにパブロがパーティーを組もうって来て、それから二年ぐらいは二人でやってその後サージも加わった」
「ふーん、皆結婚とかはしてるの?」
俺が何気なくそう聞くと、三人のテンションが一気に下がった。それはもう目に見えて下がった。
「トーゴ、それは冒険者の間では禁句だ……」
「えっと、冒険者って、結婚できないとか?」
「……もちろんしてる奴もいるがかなり少ない。まず冒険者には女が少なくて出会いがない。それに安定しない職業だし怪我をする可能性もあるし急に働けなくなる可能性も……」
おぅ……冒険者も大変なんだな。
「な、なんかごめん」
「……気にするな」
そうして色々と話しながら大通りを進んでいくと、マテオは一軒のお店の前で立ち止まった。
「ここはおすすめの食堂だ。かなり美味いから期待していいぞ」
「本当!? 楽しみ! あっ、ミルも一緒に入れるかな」
「基本的に従魔はどこにでも入れる。そいつは何を食べるんだ?」
そういえばミルって何食べるんだろ。神界では俺と同じものを食べてたけど。
『ミルって何食べられるの?』
『下界でもトーゴ様と同じものを食べられます! 基本的にはなんでも』
『じゃあ俺と同じ食事でいい?』
『はい!』
「ミルは俺と同じものをいつも食べてるよ」
「それなら良かった。じゃあお前の分も頼んでやるからな」
マテオはそう言ってミルの背中を撫でる。皆も大人しいミルに慣れて来たみたいだ。
それにしても、美味い料理って言われたら一気にお腹が空いて来た。早く食べたい。この世界の料理には色々こだわったから美味しいものがあるはずだ。
「いらっしゃい。あれ、あんたたち仕事はどうしたんだい?」
店内に入ると恰幅の良いおばちゃんが出迎えてくれた。三人とは知り合いみたいだ。
「実は口減らしで村から出て来たトーゴと街道で会って、街まで案内して来たんだ。美味しい飯食わしてやろうと思ってな」
「そういうことかい。それなら任せときな! いつもので良いかい?」
「ああ、よろしく」
「はいよ!」
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