第7話 三人のお兄さん
そこまで話したところで一人の男性がミルの存在に気付いたようで、焦ったような表情を浮かべて剣に手をかけた。
「白狼だ! 坊主逃げろ! 何でこんなところに……」
そう言って男性は剣を抜き、ミルに剣先を向ける。
「ま、待って! ミルは友達なんだ!」
俺はミルが攻撃対象にされそうになり、慌ててミルにぎゅっと抱きついた。
「……これは驚いた。お前、魔物使いか?」
「魔物使いって?」
「魔物と意思疎通ができて、魔物と共に戦う者のことだ」
テイムのスキルを持ってる人は魔物使いって呼ばれてるのか。
「魔物使いはわからないけど、ミルは友達なんだ。小さな時からずっと一緒に育ってきて、今回も俺についてきてくれたんだ」
「そうなのか。剣を向けたりして悪かったな。それにしても白狼を従えてるなんて凄いぞ」
「白狼って強いの?」
「ここらの森じゃかなり上位の存在だ。冒険者ならDランクのパーティーでやっと一匹ってところだな」
「冒険者……?」
もしかして、この世界には冒険者がいるのだろうか。冒険者ギルドと冒険者って異世界の定番だったから、そんな組織ができたらいいなと思って色々設定したんだけど、まさか上手くいってるとは!
「そうか。坊主は村から初めて出たんなら知らないよな。これから俺達が色々と教えてやろう。そういえば坊主、名前はなんていうんだ?」
「トーゴだよ」
「トーゴか。俺はマテオだ」
「俺はパブロだ。よろしくな〜」
「俺はサージ」
マテオにパブロ、サージか。ちゃんと覚えておこう。三人とも二十代後半から三十代前半ぐらいの見た目だ。全員人が良くて優しそうだし、最初に会った人間としては最高だった気がする。
「マテオ、パブロ、サージだね。よろしく!」
「おう! じゃあとりあえず街に行くか」
そう言ってマテオはさっきまで進んでいた方向と逆に歩き出した。パブロとサージもそれに付いていく。
「え、街はそっちなの?」
「そうだぞ」
「でもさっき逆に向かってたんじゃ……」
「依頼を受けてたからな。でも一週間後までだから気にするな」
なんていい人たちなんだ……!
「あの、本当にありがとう」
「いいんだ気にするな。それより色々教えてやるよ。何か気になることあるか?」
「えっと、じゃあ一週間って……?」
さっき一週間って言ってたのでとりあえずそこから聞いてみた。この世界の暦がどうなってるのか知りたい。
「トーゴ知らないのか!? どんな田舎から来たんだよ」
「ほとんど何も知らないんだ……」
「マテオ、お前は街の生まれだから知らないだろうが、俺の村でも暦なんて知られていない」
「サージの村もなのか? お前はどこで学んだんだ?」
「冒険者ギルドだ。初心者講習があるだろう?」
「ああ、あれか。俺は受けてないんだよな」
この世界は街では普通に暦が使われてるけど、田舎の村とかではほとんど使われてないって感じかな。
「トーゴ、一日はわかるよな? 時間はわかるか?」
マテオに真剣な表情でそう聞かれる。
これわからないって言ったほうがいいのかもしれないけど、そしたらめちゃくちゃ説明が大変だろう。ちょっとは知ってることにしようかな。
「時間はわかるよ。村にたまに来てくれる行商人のおじさんが教えてくれたんだ」
「じゃあ時計もわかるか?」
「見たことはあるよ」
「それなら話は早い。あの時計が二周したら一日だ。そんで一日が七回来たら一週間、一週間が四回来たら一ヶ月、一ヶ月が十二回で一年だ。一年はわかるだろ? 一年で一つ歳をとるからな」
マテオはそう得意げに教えてくれてるけど、多分この話を聞いてもほとんどの人はわからないと思うな……。でも俺は確認できたからありがたい。
「そうなんだ。ありがと」
この国というかこの世界の暦は日本とほとんど同じになったみたいだ。色々設定頑張って良かった。
でも日本よりちょっと一年が短いな。一ヶ月が二十八日ってことは、一年は三百三十六日だ。
「他には聞きたいことあるか? お兄さんがなんでも答えてやんよ」
そう聞いてくれたのはパブロだ。さっきまで俺と話してたのはマテオで、マテオは黒髪短髪に茶色の瞳で爽やかな好青年って感じの人。村出身だっていうサージは赤髪短髪に金の瞳で真面目で堅物な雰囲気の人。
そして今話しかけてくれたパブロはロングの茶髪を後ろで縛って瞳も茶色、雰囲気は少しチャラい感じの人だ。でも人懐っこい笑みを浮かべているので話しやすい。
「じゃあ今から行く街のことと、冒険者だっけ、それについて知りたいかな」
「よしっ、任せとけ! まずこれから行く街はナルシーナの街っていうんだ。ここはエレハルデ男爵領なんだけどよ、その中にある田舎の小さな街だな。だけどトーゴの村よりは確実に大きいぞ!」
男爵領ってことは、この国は王様がいて貴族がそれぞれの領地を治めてるのか。
「ここはなんていう国?」
「それも知らないのか。ここはロシプール王国だぞ」
「へぇ。初めて聞いた」
「トーゴの村はよっぽどの田舎なんだな……」
王国ってことは王様もいるってことだよな。なんとなくこの国の体制がわかってきた。
「街に着くのが楽しみだよ!」
「そうだな。で、あとは冒険者ギルドだったか?」
「うん。冒険者ギルドって何?」
「冒険者ギルドは教会に必ず併設されてる建物のことだぜ。ギルドには十歳から登録できて、登録すると依頼を受けられて成功すれば報酬がもらえるんだ。街の中でできる仕事から危ない仕事まで色々ある。仕事を探すツテがねぇ奴や腕に自信がある奴は基本的に冒険者になるな。俺たちもそうだ」
おおっ、俺が考えていた通りの冒険者ギルドになってるかも! しかも教会併設ってことは俺の頑張りが評価されたのかな。
実は世界中至る所に神力で教会を設置して、その教会に強く祈っている人がいたらそれを叶えたり、たまに神託をしてみたりしてこの世界の神への信仰心を高めておいたのだ。世界の根源にも神力を増やすには下界からの供物だって言われたから、かなり力を入れて頑張った。
冒険者ギルドって国を跨いだ巨大な組織なことが多いけど、それが実現できるとなったら教会しかないかなと思ったんだよね。国を跨いで力を持つ組織って言ったら教会しか思いつかなかった。
「なんで教会に併設なの?」
「それは教会が運営してるからに決まってんだろ。冒険者ギルドは教会の下部組織だったっけか? そんな話を聞いたことがあるな」
「パブロ違うぞ。確か教会の内部組織じゃなかったか?」
マテオがそう訂正してくれた。どっちにしても教会がやってる組織ってことだよな。
「冒険者ギルドってどの街にでもある?」
「あるんじゃねぇか? 教会があるところには必ずあるけど、教会がないところなんてないだろうし」
「他の国にも?」
「行ったことねぇから知らないけどよ、冒険者はどの国にも自由に出入りできるからあるんじゃねぇのか?」
どの国にでもある組織になってるなら大成功だ! これから機会があれば詳細は確かめていこう。でも俺の一番の目的はこの世界を楽しむことだから、難しいことはあまり考えずにまずは楽しみたい。
「そうなんだ。便利そう」
「おう! 冒険者は夢のある職業だぜ」
「トーゴも街に着いたら登録するといい。身分証にもなるからな」
「そうするよ。あっ、登録にお金とかかかる?」
「かかるな。冒険者ギルドへの登録だけじゃなく街に入るのにもかかる」
マジか……俺お金持ってないよ。この世界のお金なんて知らないし。
「俺お金持ってない……」
「心配すんな。俺が貸してやんよ」
「パブロ、いいの?」
「街に入るのはトーゴと白狼で銅貨一枚ずつだし、冒険者登録も銀貨一枚だから大丈夫だぞ。そのぐらいはぜんぜん問題ないって、兄ちゃんに任せろ!」
パブロはそう言って俺の背中をバシンっと叩いた。
「本当にありがとう」
本当にいい人たちに出会えたな。この恩は後で絶対に返そう。
「気にすんな!」
「絶対に後でちゃんと返すから」
「おう、待ってるぜ」
まずは冒険者登録してみて、冒険者として依頼をしてみようかな。なんだかわくわくしてきた。新しいゲームを始める時みたいだ!
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