第10話 冒険者ギルド

「トーゴ、ここが冒険者ギルドだ。あっちが教会だな」


 マテオがそうして指差した先には、俺が作り出した見覚えのある教会が建っていた。教会の建物と中にある神像は劣化しないようにしたからか綺麗なままだ。

 でも冒険者ギルドの方が圧倒的に横に大きくて立派だな。教会の方が高さは少しだけ勝ってるけど……ちょっと複雑な気分。

 

 そんな馬鹿なことを考えているうちに、マテオが扉を開けて三人が冒険者ギルドに入っていったので、俺も慌てて後を追いかけた。


 冒険者ギルドの中はかなり広々とした空間が広がっていて、右側の壁には一面たくさんの紙が貼られている。そしてドアを入ってまっすぐ進んだところにはカウンターがあるようだ。カウンターは依頼受付、仕事受付、買取受付と三種類に分かれているのが分かる。

 そして左側を見るとそちらには食堂のようなものがあるらしく、今も何人かの冒険者が食事をしている。二階への階段もあるけど、そこには部外者立ち入り禁止の紙が貼ってある。


「トーゴ、こっちだ」


 マテオが向かったのは仕事受付のカウンターだった。中には二十代前半ぐらいの綺麗な女性がいる。


「夜の星の皆さん、お仕事はどうされたんですか?」

「それが途中でこいつと会ったから仕事は中断して帰ってきたんだ。名前はトーゴ。成人して村から追い出されたらしい。それからこっちがミルでトーゴの従魔だ」


 マテオがそう言って俺とミルを紹介すると、受付の女性は驚きの表情でミルを凝視した。


「白狼、ですか?」

「そうです。ミルと言います。大人しくていい子なので心配しないでください」

『ミル、座って軽く尻尾を振ろうか。愛嬌良くしておいたら今後怖がられなくなるよ』

『はい!』


 俺が念話でそう言うと、ミルは可愛らしくちょこんとその場にお座りをしてパタパタと尻尾を振った。うん、可愛い。とにかく可愛い。可愛すぎてやばい。


「か、かっ、可愛い……」


 受付の女性の心もガシッと掴めたようだ。さっきまでは少し怖がっていたのに、今では撫でたくて仕方がないって様子になった。


「リタ、話を進めてもいいか?」


 マテオが苦笑しつつ受付の女性にそう言った。この人はリタさんって言うのか。覚えておこう。


「あ、は、はい。もちろん。取り乱してしまい申し訳ございません」

「大丈夫です。後で撫でてもいいですよ」

「本当ですか!」


 リタさんは勢いよく立ち上がってかなり大きな声でそう叫んだ。ギルド中の人が何事だとこちらを見るくらいの声量だ。


「あ、すみません取り乱して。まずは仕事をしないとですね。それでトーゴさんは冒険者登録をすると言うことでよろしいですか?」

「はい」

「ではこちらの用紙に記入をお願いします。文字は書けますか?」

「書けます」

「ではお願いします」


 俺はリタさんから紙とペンを受け取った。ペンはインクをつけて書くタイプのようだ。


「トーゴ、敬語だけじゃなくて字まで書けたのか……」


 あっ、もしかして字を書けるのダメだったりするのかな。深く考えてなかった。


「簡単なものなら書けるし読めるよ。皆は書けないの?」

「いや、俺は書ける。しかしパブロとサージは自分の名前ぐらいしか書けないな」

「だってよ。文字って難しすぎねぇ?」

「文字を学んでいる暇があれば剣を振っていた方がいい」

「二人はこんな感じだからダメなんだ。基本的に読み書きは俺の仕事だな」


 結構書けない人もいるってことか。でもここを隠すと不便だし読み書きはできるってことでいこう。俺の出身の村には、都会に住んでたけど余生を田舎で過ごしたかったおじいさんがいたんだ。うん、その設定でいこう。


「トーゴはどこで習ったんだ? 村に字を書けるものがいたのか? 確かに村長ぐらいは書けるだろうが……」

「村長の他にも都会から引っ越してきたおじいさんがいたんだ。余生は田舎で暮らしたかったんだって。それでその人が教えてくれたんだよ」

「ほう、それは幸運だな。多分その爺さんはいいとこで働いてたんだろうな」


 そうして話をして俺は登録用紙に向き直る。登録用紙はそこまで詳細を書く欄はなくて簡単なことだけだ。

 名前と年齢、出身地、使える魔法、得意な武器、主な戦い方、希望の仕事、その他の特技、書くのはこれだけみたいだ。

 名前と年齢はいいとして、出身地はどうしよう。


「リタさん、出身地がわからないんですけど、どうすればいいでしょうか? 村には名前がなくて」

「その場合は名前のない村とお書きください。そしてその隣に登録地ナルシーナと」

「分かりました。ありがとうございます」


 名前のない村、登録地はナルシーナっと。そして魔法は水と氷、光、闇。武器はわからないから空欄にしておこう。戦い方は、とりあえず従魔と魔法。希望の仕事はなんだろう?


「希望の仕事とはなんでしょうか?」

「はい。冒険者ギルドには様々な種類の仕事がありまして、一番数が多いのは魔物の討伐や様々な部位の納品。それから次に多いのは薬草や調味料、果物などの採取。そして少ないのが掃除や店番など街中のお手伝い系のお仕事。これらの仕事の中でどれをやりたいのか書いていただければと思います。複数書いていただいても構いませんし、参考程度ですので」

「分かりました」


 やっぱり魔物の討伐はやりたい。あとは植物系の採取だな。街中の仕事は……とりあえず書いておけばいいか。


 そうして俺は全てを書き終えて、用紙をリタさんに渡した。


「トーゴさん魔物使いの上に四つも魔法が使えるなんて……素晴らしい人材です。確実に引く手数多ですよ。あれ? 特技の欄に敬語は書かれないのですか?」

「ありがとうございます。敬語とは特技になるのでしょうか?」

「はい。敬語が使える人材を求める依頼もあるので特技になります。その他にも計算や読み書きなども特技となります」


 そんなのが特技になるんだ。じゃあ読み書き計算と敬語って書いておこう。これで完璧かな。


「ではこれでお願いします」

「かしこまりました。お預かりいたします。登録しますので少しお待ちください」

「分かりました」


 それから数分待っていると、リタさんはさっきマテオ達が持っていた冒険者カードを持ってきてくれた。木で作られたカードでそこに文字が刻まれている。というよりも文字が焼き付けられてる感じだ。


「こちらが冒険者カードです。お名前とランクが書かれています。ランクが上がるごとに新しいものになり、途中から鉄製、最後は金製になります」

「ありがとうございます」


 受け取ったカードはただの木の板のように見える。そこに名前と年齢、出身地にランクが書かれているだけ。これっていくらでも偽造できるんじゃないのかな。


「あの、これって偽造し放題では? それで簡単に街とかに出入りできてしまうと思うのですが……」

「確かに偽造は比較的簡単にできてしまいます。しかし偽造がバレたら犯罪奴隷に落ちることになっているので、実行しようと思う人はいないです。登録に必要な銀貨一枚をケチって犯罪奴隷に落ちる危険性を犯す人なんていませんから」


 確かにそう言われればそうだな。偽造する旨味がないのか。でももっと上のランクなら旨味があるんじゃないのかな……? というかランク分けの話とかまだ聞いてなかった。


「先ほどランクと仰られていましたが、ランクが上のカードを偽造する人もいないのでしょうか?」

「ランクが上になると偽造防止に紋章が入るようになります。さらに素材も手に入りにくいものになりますし、高ランクは数が少ないので、全冒険者ギルド支部で情報が共有されます」


 その辺はちゃんと考えられてるんだな。


「そうなのですね。教えてくださってありがとうございます」

「いえ、疑問があればなんでも聞いてください。では冒険者ギルドの説明をしていきます。まず先ほど話に出ましたがランクについてです。冒険者はFランクから始まり、E、D、C、B、A、Sとランクが上がっていきます。ランクは依頼の達成数や達成率、本人の人柄などを総合的に判断して各冒険者ギルドのギルド長が決定します。しかしAランク以上に上げられるのは、各国の中心都市にある冒険者ギルドのみになります」


 うんうん、俺が知ってる冒険者ギルドとあまり変わりはないかな。この説明聞いてるとテンション上がる。


「しかし一つ注意していただきたいのは、依頼の達成率などを記録しているのは一年間、さらに依頼を受注された冒険者ギルドでのみとなります。要するに、トーゴさんがここナルシーナの街でランクアップまであと少しというところまで依頼を達成したとします。しかしその段階で別の街に移ってしまうと、またそちらの街では一からランクアップまでを積み上げていただくことになります。AとSランクの方々の依頼達成記録は全ギルド共有となりますが、それ以外の方々はその時点で活動拠点としている冒険者ギルドのみですのでお気をつけください。そして最後に依頼を達成してから一年間一度も依頼を達成されないと、記録は破棄となりますのでそこもお気をつけください」


 おおっ、この辺は妙にリアルだな。でも確かに全ギルドでの情報共有なんて難しいだろう。街を移動するときはランクアップを済ませてからって覚えておこう。


「また高ランクになりますと護衛依頼などがあるのですが、護衛依頼が片道の場合、達成報告は護衛先のギルドでしていただき、そちらのギルドで依頼達成証明を貰ってきていただくことになります。その辺りはまた護衛依頼を受注されるときに聞いていただければご説明いたします」


 要するに、片道の護衛をして向こうの冒険者ギルドに報告しても、ランクアップの積み重ねにはならないよってことだな。


「わかりました。その時には気をつけます。一つ質問なのですが、ランクが上がることによるメリットはなんでしょうか?」

「はい。一つは高ランクの依頼が受けられることです。依頼にもランク分けがされていまして、自分と同じランクか一つ上のランクまでしか受けることができません。高ランクの依頼ほど難しいですが報酬も高く、高ランクを目指す方は多いです。しかし依頼に失敗しますと違約金が課せられますのでお気をつけください」


 依頼失敗はお金を払わないといけないってことか。それは気をつけないとだ。


「また高ランクとなればさまざまな場所で優遇されます。AランクやSランクは王族や貴族の方々と縁を結ぶことも可能です」


 それは……あまり惹かれない。俺の勝手なイメージだけど権力者って面倒くさそう。


「では高ランクを目指して頑張ろうと思います」

「はい。無理せずに頑張ってください。トーゴさんはマテオさん達のパーティーに加入するのですか?」

「いえ、とりあえず一人でやってみようと思っています」

「かしこまりました。ではパーティーの説明は必要ないかもしれませんが、一応お伝えさせていただきます。パーティーとは二人以上で作ることができます。パーティー単位で依頼を受けることができますので、より安全に依頼を達成できます。しかし報酬は等分となりますのでお気をつけください。パーティーの場合もランクは個人で上がっていきます。そのパーティーで一番ランクが高い人に準じて受けられる依頼は決まりますので、ご了承ください」


 パーティー単位でのランクとかはないってことか。それだとパーティーは安全を重視したいって理由で組む人が一番多いのかな。


「それから依頼を受ける際ですが、こちらの仕事受付の方で承ります。あちらに貼ってある依頼の紙を受付までお持ちください。依頼を達成した後も仕事受付までお願いいたします。依頼受付は何か依頼を出したい方の受付です。買取受付は、依頼の途中で採取したものなどを買い取る受付です。例えばカウの肉の納品依頼を受けたとして、肉の部分はこちらの仕事受付で納品いただきます。しかし皮やツノなどそれ以外の部分も持ち帰られたならば、そちらは買取窓口までお願いいたします」


 そういう仕組みなんだ。うん、なんとなく仕組みはわかってきた。


「説明は以上となりますが、何か質問はございますか?」

「いえ、今のところ大丈夫です。また何かありましたら質問させていただきます」

「かしこまりました。ではこれからよろしくお願いいたします。――では、ミルちゃんを触ってもいいでしょうか!」


 リタさんさっきまで仕事モードでかっこよかったのに、急に休日モードに切り替わったみたいだ。うん、切り替えは重要だと思うよ。

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