第144話 六層へ
「これを押せばまた大きくなるんだと思う?」
四角柱を手のひらに乗せてそう呟くと、ミレイアとウィリーも俺の手の中を覗き込んだ。
「多分、そうだよね」
「でもここでボタンを押したら俺たちが潰されないか?」
「確かに……地面に置いてやってみようか。押してすぐに逃げてみる」
それからさっきと同じ場所に四角柱を設置し直して、皆に離れてもらってからボタンに手をかけた。緊張しつつ指先に力を入れると……ポチッと軽い音が聞こえる。
音が聞こえた瞬間にその場から飛び退いたけど、ベッドが広がって設置されたのは少し離れた場所だった。
「凄いな……とりあえず、人がいない場所に設置されるみたいだ」
「そうだね。潰される心配はいらないかも」
「それにしても、デカいベッドだな」
広がったベッドに近づいてもう一度触れてみると、他に仕掛けはなさそうだ。
マットレスは少し硬めで掛け布団は軽くてふわふわで、少し触るだけで寝心地が良さそうだと分かる。
「これは野営がよりいっそう快適になるね」
「そうだな。それに小さくなるならトーゴのアイテムボックスの容量を圧迫せず運べることになるし、周りに人がいる場所でも使えるんじゃないか?」
「確かにそうかも。まあ、周囲の目を気にしなければだけど」
このベッドを例えばこのダンジョンの上層で設置してたら、通る人全員にジロジロと視線を向けられるだろう。
「これは目立つよね……それに今のテントに入らないんじゃない? それだと周りに人がいない場所でも使いにくいよね」
「さすがに入らないな。せっかくだから下層では使いたいし……テントを新しくしようか。このベッドが入るサイズに」
ただここまで大きなベッドがすっぽりと収まるテントなんて、どこに売ってるんだろう。今まで見たことはないから、最終手段としてはどこかで特注のテントを注文するのが良いのかもしれない。
「そうだね。屋根がない野晒しのベッドは、さすがにベッドが快適でも落ち着かないよ」
「……うん、想像するだけで虫や魔物が気になりそう。街に戻ったら買いに行こうか」
俺とミレイアがテントを新調する方向で意見をまとめたところで、ウィリーがベッドをポンっと叩きながら首を傾げた。
「とりあえず、これは当たりってことでいいのか?」
「そうだな……良いと思うよ。俺たちはアイテムボックスがあるからありがたみが薄いけど、他の冒険者にとっては手のひらサイズに小さくなるベッドなんて、喉から手が出るほど欲しいだろうし」
「やっぱりそうだよな。ミル、当たりだってさ!」
ウィリーがミルに満面の笑みを向けると、ミルも嬉しそうに尻尾を振ってウィリーに飛び付いた。中型犬サイズの大きなミルにウィリーはびくともせず、そのままミルを抱き抱えている。
やっぱりこの二人、仲が良いな。
「ちょっ、ミル、くすぐったいって」
ミルは褒められて嬉しいのか、ウィリーの顔を舐めているようだ。その様子を見て俺とミレイアは苦笑を浮かべた。
「ミル、落ち着いて。宝箱の中身も確認したし、ちょっと六層を見てみようか」
「そうだね。六層から十層までは草原と森だっけ?」
「確かに見てみたいな! 本格的な探索はしないで地上に戻るのか?」
「今回はそうしよう。守護者を倒してダンジョンがどう変わるのか、守護者がいつ復活するのか、その辺の検証をしてみたいし、ギルドにも一応報告をしておきたいから」
この広場から出た時点で守護者が復活するのか、六層から五層に上る時には復活してるのか、まずはその辺を知りたい。
そのためにもまずは……六層だ。
俺たちは皆で顔を見合わせて、ゴーレムが守っていた階段に足を踏み入れた。いつもより少し長い階段を下っていくと……辿り着いたのは、予想通り森の中だ。
しかし予想以上に木々が鬱蒼と生い茂った森で、なんだか不気味な気配を感じる。
「かなり薄暗いね……」
そうだ、光がないから不気味に感じるんだ。木々が生い茂りすぎて、日の光があまり届かないのだろう。
「どういう魔物がいるんだろうな」
「マップにいくつも魔物が映ってるから、少し倒してみる? どんな魔物がいるのか知っておきたいし」
「確かにそうだね。慎重に、まずは一匹だけの魔物を見つけようか」
「了解」
すぐ近くにいる魔物は三匹が群れになっているからダメだ。少し迂回して、奥にいる一匹の魔物に向かおう。
「皆、こっち。近くに他の魔物もいるから静かにね」
「おう、分かったぜ」
草木が生い茂り歩きにくい森の中を進んでいくと、そこかしこに魔物の痕跡があるのが発見できた。争った形跡や森が燃えた跡、さらには凍っている部分など、魔物同士で頻繁に争っているのが分かる。
人が全く入らない環境で、魔物だけが増えて飽和状態なのかもしれないな。
「そろそろ見えてくるはず」
マップでは数メートル先に魔物がいるはずだ。森の中だからウルフ系かはたまたモンキーか、それともベアかカウか、そんなことを考えている俺の瞳に映ったのは――
――巨大な芋虫だった。
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