第131話 王都で屋台巡り
いろんな屋台に目移りしつつ道を先に進んでいくと、ウィリーが興味を示したのは不思議な創作料理の屋台だった。
「おっちゃん、これはなんだ?」
「パスタ串だ。結構美味いんだぜ。それに面白いだろ?」
巨大なピーマンみたいな野菜の中身をくり抜いてお皿のように串に刺し、その中にトマト味のパスタが入ってるみたいだ。
野菜もじっくりと加熱されていて、パスタと一緒に食べると美味しいってことだけど……あんまり美味しそうには見えない。
「美味そうな匂いだもんな! 皆は食べるか?」
「……私はやめておくよ」
「俺も良いや」
『僕は一本食べてみます!』
「ミルには一本買ってあげて」
「おうっ、じゃあ全部で二本だな」
二人が注文すると、おじさんは大きなフライパンからパスタを巨大ピーマンに詰めていき、最後に少し火で炙って塩をかけてからウィリーに渡した。
「まいどあり」
「ありがとな!」
二本の串を受け取ったウィリーは、屋台の前から離れて人波の邪魔にならないところに向かうと、さっそくミルと一緒にパスタ串を口に運んだ。
「……美味しいの?」
ミレイアが微妙な表情で問いかけると、二人はもぐもぐと口いっぱいのパスタを咀嚼しつつ首を傾げる。
「美味くないことは、ない。ただこの野菜がちょっと苦くて、パスタも伸びてるな」
『……微妙です』
やっぱりそうなのか。明らかに作られてから時間が経っていて、伸び切ったパスタだったもんな。でもこの野菜に詰めるには、汁気がなくてその方が良いのだろうし、パスタ串を美味しく改良するのは難しそうだ。
『次に行きましょう。美味しいものが食べたいです!』
「ミルが次は美味しいやつだって」
「分かったぜ。じゃあ次は……あそこにしよう!」
次の屋台は揚げ物屋みたいだ。あれなら美味しそうだから俺も食べよう。
「何種類もありそうだね」
「野菜も揚げてるのかも。選ぶのが楽しそうだ」
「いらっしゃい!」
俺たちが興味を示したのが分かったのか、店主のおじさんがこちらに向けて大きく手を上げてくれた。屋台の前に向かうと、さっそく売り物の紹介をしてくれる。
「一つから買えるから好きに選んでな。こっちが肉でこっちが野菜、こっちはパンだ。ソースもあるぞ」
「美味そうだな! ソースも選べるのか?」
「ああ、ソースはこの容器に入れて付けて食べる形になってる。一つ銅貨一枚だ」
どれも美味しそうだな。やっぱり肉は外せないけど、野菜もいくつかは食べたいし、パンも揚げパンのようで美味しそうに見える。これは悩むな……。
「俺は全種類一つずつ食べるぞ。いや、やっぱり肉は二つずつにする!」
『僕は肉とパンを全種類でいきます!』
「ミルには肉とパンを全種類で、俺は……パンはこれで肉はこれ、野菜はこの二つにしようかな」
「私は野菜を全種類とパンにするよ」
俺たちがそれぞれ好きなものを注文すると、店主のおじさんは混乱することなく頼んだものを揚げ始めてくれた。このお店は注文してから揚げてくれるみたいだ。
「ちょっと待っててくれよな。すぐ揚げるぜ」
「おうっ、その間にソースを選んでるな」
「ソースは全部自家製だからどれも美味いぜ。特に野菜に付けると絶品なのが一番左の白いやつ、肉に合うのはその隣の茶色いやつだ。赤いのは辛いから注意してな」
「どれも美味しそうだね……全部買っちゃう?」
ミレイアのその言葉に反対意見は出ず、俺たちは全種類のソースを三つずつ購入することにした。
それから出来立ての揚げ物を全て受け取って、少し歩いた先にあるベンチに皆で腰掛けた。
「うわっ、めっちゃ美味いぞ!」
さっそく揚げ物にかぶりついたウィリーが、瞳を輝かせて声を発した。
「何を食べたの?」
「これはカウだな。ちょっと硬めの肉だけど味がしっかり付いてて美味い」
『うぅ〜ん、本当ですね!』
二人の絶賛の声を聞いて俺も買っていたカウの揚げ物を食べてみると、肉についている下味がとても好みの味で、衣もさくさくで油はしつこくなくて、凄く美味しかった。
「ソースも付けてみるか」
肉に合うと言われた茶色のソースにディップして口に運ぶと、濃厚な美味しさが口の中に広がり思わず頬が緩む。
これはなんだろう、デミグラスソースにいろんな香辛料を加えて複雑な味にした感じだ。でも余計なものを感じることはなく、全てが絶妙にマッチしている。
「皆、野菜も美味しいよ。この白いソースが最高に合う」
「パンも美味いぜ!」
それから俺たちは買ってきた揚げ物を綺麗に食べ切り、次の屋台を目指してベンチを後にした。とは言っても俺とミレイアはもう十分なので、ここから先はウィリーとミルの食べ歩きだ。
二人は新たな料理がたくさんある王都に大興奮しているらしく、目についた珍しい屋台を端から制覇している。
『トーゴ様! お米料理の屋台まであります!』
「え……本当だ」
さすが王都だ、普通に米料理が浸透してるなんて。米料理の屋台があるってことは、米料理の食堂もあるってことだよな。それは行ってみたい。絶対に行きたい。
『チャーハンみたいなものを売ってるみたいですね。トーゴ様も食べますか?』
「……うん。ウィリー、俺にも一つ」
「分かったぜ。おっちゃん、三つ頼む」
「はいよ!」
お腹はちょうどよく満たされていたけど、米料理の誘惑に抗えず購入してしまった。
肉や野菜がごろっと入ったチャーハンは、塩胡椒のシンプルな味付けだけど、いろんな旨みが米に染み出していてとても美味しい。
「王都にある米料理を端から買い込もうかな」
思わずポツリと呟くと、その言葉が聞こえていたらしいミレイアが隣で苦笑を浮かべた。
「ほどほどにね」
「了解」
それからも屋台巡りを楽しんで俺たちは、大満足で宿に戻った。
〜あとがき〜
本日、『神に転生した少年がもふもふと異世界を旅します』書籍2巻が発売となりました!!
書籍2巻はweb版からかなりパワーアップしていますので、ぜひ皆さんに読んでいただきたいです。
webにはない強大な敵との戦いや冒険者仲間との観光など、書き下ろし部分が盛りだくさんです。
さらに書き下ろし番外編も二つ収録されていまして、ナルシーナの街で別れた三人組の様子も見ることができます。
ぜひお手に取ってみてください!
1巻をまだ読んでないという方がいらっしゃいましたら、この機会にぜひ2巻合わせてお楽しみください。
よろしくお願いいたします。
蒼井美紗
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