第130話 宿決定

 獣車が数台は横に並べるほどの大通りを進んで行くと、大通り沿いにいくつもの大きな宿を見つけることができた。どの宿も綺麗で見た目にあまり差はないので、どこを選べば良いのか悩んでしまう。


「どこにする?」

「そうだな……こういうのは直感が大事だぜ。とりあえず、あそこに行ってみるか!」


 ウィリーが指差したのは、他の宿よりもおしゃれな雰囲気がある石造りの建物だった。宿の前やベランダのような場所には、たくさんの花が飾られている。


「雰囲気が良さそうだね」

「獣車を停められる場所は……横にあるみたいだ。とりあえずあそこにするか」


 現状では直感ぐらいしか頼れるものがないので、ウィリーを信じて獣車を停めた。


「いらっしゃいませ!」


 広いスペースには一角獣のための厩舎があり、専属の世話係が数人いるみたいだ。これからはこうして獣車の置き場所と、世話係はいなくても厩舎がある宿を選ばないといけない。


「すみません。この宿って従魔は泊まれますか?」


 俺たちにとって一番重要な質問を男性に投げかけると、男性は爽やかな笑顔で頷いてくれた。


「もちろんですよ〜。さっそく一角獣を預かってもいいですか?」

「はい。お願いします」


 ミルが入れるならこの宿を反対する理由もなく、男性にリーちゃんとミールくんを託して入り口に向かった。大きなドアを開いて中に入ると、かなり広くて綺麗な宿だ。


「新規のお客さんですか?」


 声を掛けてくれたのは比較的若い女性だった。ここまで大きな宿だと家族だけで経営するのは難しいだろうから、雇われている従業員かもしれない。


「はい。今からでも泊まれますか?」

「少々お待ちください。三部屋でよろしいですか?」

「はい。俺の部屋に従魔も泊まります」

「分かりました」


 宿の館内図が描かれているのだろうボードを取り出した女性は、部屋を確認してから俺たちにはそのボードではなく一枚の綺麗な紙を見せてくれた。そこにも館内図が描かれている。


「お部屋が少し離れてしまうのですが、こちらとこちら、それからこちらのお部屋で良ければ三部屋ご用意できます」

「離れても良い?」


 皆に聞くと全員がすぐに頷いたので、俺たちはこの宿に決めて部屋を借りた。とりあえず三泊で、後は前日までに告げれば延長ができるそうだ。

 値段はさすが王都で今までと比べたらかなり高かったけど、俺たちなら躊躇うほどの値段ではない。食事がついていなくて、今までの宿の倍ほどの宿泊料金だ。


「夕食は宿に併設の食堂で食べるか、各自で外に食べに行ってください。併設の食堂ならば部屋の鍵を見せれば、いくつかの一品料理が無料です」

「おおっ、無料は良いな」

「とても美味しいご飯がたくさんある食堂なので、一度は食べてみてください。朝食の時間もそちらの食堂は空いておりますので、ぜひご利用ください」


 軽い説明を受けてから部屋の鍵を受け取って、部屋を見てみる前にまずは食べ歩きに向かうことにした。


 宿を出るとテンションが上がっているウィリーとミルが、屋台を探してキョロキョロと辺りを見回す。


「あんまりこの辺には屋台ってないんだな」

「大通り沿いだから邪魔になるんじゃない? 最初の門前広場にはいくつかあったし、広場を目指すか少し細い道を通ったほうが良いかもね」

「確かにそうだな。じゃあ向こうに行ってみよう!」


 ウィリーが指差したのは、宿から大通りを挟んだ場所にちょうど見えている脇道だ。ただ脇道とは言っても、獣車が入っていけそうなほどの広さはある。


『良さそうですね!』

「ミルも賛成だって。あっち側にどうやって渡るんだろう……って、普通に渡って良いのか」


 信号みたいなものがあるのかと周囲を見回してみると、他の人たちは上手く獣車を避けて自由に横断していた。


「行こうぜ」

「ウィリー、気をつけてね」

「おうっ、獣車を壊しちゃったら大変だもんな」


 自分が轢かれるのじゃなくて獣車を壊す心配なのか……でも確かにあり得るかも。獣車が迫ってきてたら咄嗟に攻撃するかもしれないし、ウィリーの怪力でそれをやったら獣車に大穴が開く可能性は高い。


「……ちゃんと周囲を見て渡ろう」


 そんなことで多額の弁償なんて嫌だと思い、苦笑しつつそう告げた。


 それから道路を渡って路地に入り、少し進むと屋台がたくさん立ち並ぶ通りを見つけることができる。この辺に住む人たちが利用するらしく、出来合いのものだけではなくて食材もたくさん売っているようだ。

 賑わっているし、ちょっとした市場みたいだな。


「なんだか面白そうなものもあるな!」

「本当だね」


 王都の屋台は日本の屋台に近いかもしれない。麺料理や揚げ物、不思議な創作料理など多種多様な種類の料理が目に入る。ちょっと懐かしい気分になって、色々と買ってしまいそうだ。

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