三章 地獄の門編
第129話 王都到着
アーネストの街を出発して二時間。俺達は順調に獣車での旅を楽しんでいた。
「王都までって何日ぐらいかかるんだっけ?」
「急げば一週間。ゆっくりなら十日ぐらいだって」
「意外と遠いなぁ。今日ってどこかの街に泊まれるのか?」
「うん。途中にある小さな街に泊まれると思う。急げばもう一つ先の大きな街まで行けるかも」
リーちゃんとミールくんの走りは快調だし、日が暮れる前には大きな街まで着けるかもしれないな。
いや、でも別にそこまで急ぐ必要はないか。時間に追われてるわけじゃないんだから。
「今日は小さな街までにしておこうか」
二頭のことも考えてそう提案すると、ミレイアとウィリーはすぐに頷いてくれた。
「そうだね。初日からあんまり頑張りすぎない方が良いと思う。のんびり楽しんでいこうよ」
「そうだな。じゃあ……そろそろ止まっておやつにしないか?」
お腹が空いたのか腹をさすりながらそう言ったウィリーに、俺とミレイアは苦笑いだ。しかしミルだけは瞳を輝かせて、同意するように尻尾を振った。
「食べましょう!」
獣車の中は俺たちだけなのでミルも普通に話していて、二人とすぐに意思疎通を取れることが嬉しそうだ。
「ミル、やっぱり分かってるな! じゃあその辺の開けたところに獣車を停めるか」
それから穏やかな草原に降り立った俺たちは、周囲に誰もいない状況の中でのびのびとおやつを楽しんだ。俺とミレイアはいくつかの果物だけど、ウィリーとミルは串焼きやサンドウィッチなど、おやつとは言えないものを嬉しそうに食べている。
リーちゃんとミールくんは野菜や果物だ。リーちゃんは果物の方が好きで、ミールくんは苦い野菜が好きらしい。
「王都に着いたら、エレハルデ男爵様の美食仲間のところに行くんだよな?」
「そうだよ。紹介状をもらったからね。確かアグート子爵だったから覚えておいてよ?」
「分かったぜ! それでそのアグート子爵? のところに行った後はどうするんだ? そのまま五大ダンジョンに行くか?」
「うーん、行くのでも良いけど、王都観光はどうする?」
少しは王都を見て回りたいなと思って皆に聞いてみると、ウィリーとミルは迷うことなく頷き、ミレイアも少し遅れて頷いた。
「美味い料理の食べ歩きをしたいぞ! 王都には絶対に美味しいものがあるよな!」
「僕もです! 高級店にも行ってみたいです!」
「私も買い物をしたいかな。王都にはたくさんの服屋がありそうだから」
俺よりも乗り気な皆の様子に、思わず苦笑が浮かんでしまう。
「じゃあ王都を少し観光してから五大ダンジョンに向かおうか」
「そうしましょう! すっごく楽しみです。王都中の美味しい料理を食べ尽くすには、どれほどの時間がかかるでしょうか」
「いや、ミル。さすがに食べ尽くすことはしないよ?」
思わず突っ込んだけど、ミルは食べ尽くす気満々らしい。ウィリーもそんなミルに同意している。
とりあえず二人が満足するまで買い込んで、アイテムボックスに仕舞って五大ダンジョンに行けば良いか。食べ尽くすってことになったら、少し観光どころじゃなくなってしまう。
「よしっ、そうと決まったらさっそく行くか」
「そうだね。リーちゃん、ミールくん、よろしくね」
それからの俺たちは途中で休憩を挟みつつも、寄り道せずにひたすら王都に向かって獣車を動かした。
そしてアーネストの街を出て七日後のお昼頃。やっと王都に到着だ。
リーちゃんとミールくんの足が思っていたよりも速く、多めの休憩を入れながらも一週間で到着した。
「うわぁ、これが王都なんだね。凄く大きい」
「信じられねぇな……」
『凄い人ですね……』
王都の外門を通った先にある門前広場の一角で、俺たちは獣車から降りて王都の街並みをぼーっと見つめていた。
その大きさにも驚くけど、何もよりも人の多さに驚く。今までの街は田舎だったんだな……。
「王都って、街中にも壁があるんだよな?」
「そうみたいだね」
「どんどん街を拡張していったから、壁が何重にもなってるらしいよ」
「すげぇなぁ」
その壁を通るたびに、街の雰囲気が上流のものへと変わっていくらしい。一番の中心地は貴族街なんだそうだ。
「今日はこれからどうする?」
ミレイアのその言葉に、皆は俺に視線を向けた。
まだお昼頃だからこれから紹介状を持って貴族街に行くのもありだけど……さすがに少し休みたいよな。
「今日はどこかの宿に泊まる? これから貴族街に行くのはさすがに大変だと思う」
「確かにそうだね。じゃあ今日は王都を観光してしっかり休もうか」
「おうっ、そうするか!」
とりあえず今日の方針を決めた俺たちは、また獣車に乗り込んで門前広場を後にした。
〜あとがき〜
本日から三章を投稿していきます。
週に二、三回の投稿になると思いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
そして本日はお知らせがあります。
「神に転生した少年がもふもふと異世界を旅します」
コミカライズが決定しました!!
凄く嬉しいです!ありがとうございます!
詳細が分かり次第、告知させていただきますので、楽しみにしていただけたらと思います。
私は凄く楽しみです……!
近況ノートにもコミカライズについて書いていますので、ぜひ覗いてみて下さい。
そしてもう一つお知らせですか、小説の書籍2巻が5/30に発売です!
web版とは違ったオリジナルストーリーがたくさんあり、書き下ろし番外編は二つも収録されています。
楽しんでいただけると思いますので、ぜひお手に取ってみて下さい。
よろしくお願いいたします!
蒼井美紗
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