第128話 王都へ

 朝起きて朝食を食べた俺達は、予定の時間よりも少し早めに宿を出ることにした。


「改めて、イレーネさんとソフィアさん、今までありがとう。またこの街に来たら宿を使わせてもらうよ」

「おうっ、また絶対に来いよな」

「その時は美味しいご飯を作るわ」

「ソフィアさんのご飯、マジで美味しかった! ありがとな!」

「とても快適な部屋で寛げたよ。ありがとう」

「わん、わうんっ!」


 皆でイレーネさんとソフィアさんに挨拶をして、笑顔で宿を後にする。そして昨日決めた獣車の受け取り場所に向かうと……そこにはすでに、立派な獣車が鎮座していた。


「光の桜華の皆様ですね。お待ちしておりました」

「お待たせしてすみません。この獣車をもらって良いのですか……?」

「もちろんでございます。中の様子などを確認していただければと思います」


 一角獣はとても大きくて立派な二頭立てで、車部分はかなり大きい。昨日乗った男爵家の獣車みたいにキラキラはしてないんだけど、とにかくしっかりとした作りだった。


 ドアを開いて中に乗ってみると……椅子部分はソファーのように背もたれまでふかふかで、床にも絨毯が敷かれている。


「すげぇな」

「長旅でも快適に過ごせるね……」


 移動の快適さを考えたら凄くありがたい贈り物だな。これって土足厳禁にしたらこの床がベッドになりそうだ。いや、でも万が一襲われた時のために靴は履いてた方が良いか。


「あの、この絨毯って取り外せますか?」

「もちろんでございます」

「それは便利ですね」


 それならベッドとして使いたい時だけ、違う絨毯に変えるのもありかも。今度ベッド用の絨毯を注文しようかな。


「問題なければこちらの受領書にサインをいただければと思います」

「分かりました。この一角獣達って、普通のご飯で良いんですよね?」

「はい。しかしこちらの子は野菜が、こちらの子は果物を好みます。ご参考までに」

「ありがとうございます」


 それから俺達は受領書にサインをして、正式に獣車を手に入れた。そしたらまずやることは、一角獣の名付けだ。


「実際に会ってみて、名前で何かピンと来たやつある?」

「俺一つ思いついたぞ! こっちの茶色い方はカレーが良くないか?」

「……それってもしかして、色から連想して?」

「おうっ!」


 ――ダメだ。ウィリーも俺と同レベルの、いやそれ以下のネーミングセンスだ。ここはミレイアに任せた方が良いな。


「ミレイアはどんな名前が良い?」

「昨日から考えてたんだけど、光の桜華ってパーティーに入ってくれる一角獣でしょ? だから花とか植物の名前とかが良いんじゃないかと思って。たとえばこっちの茶色の子はリーリット、こっちの白い色の子はミスネールとかどう?」

「おおっ、なんかめちゃくちゃおしゃれ! もうそれにしよう!」


 全然どんな花なのか分からないけど、多分この世界で独自に進化した花なんだろう。ミレイアが選ぶんだから可愛くて綺麗なはずだ。


「でもちょっと呼びにくくない? だから愛称も決めた方が良いんじゃないかなと思うんだけど」

「確かに」

『では、リーちゃんとミールくんにしましょう!』


 ミルが可愛い笑顔で告げたその言葉を二人に伝えると、二人はそれにしようかと頷いてくれた。茶色の方が女の子で白い方が男の子らしいので、それをちゃんと名前にも反映したみたいだ。


「お前はリーちゃん、お前はミールくん。それで良い?」


 俺が一角獣の首元に恐る恐る触れながらそう声をかけてみると、二匹は顔を擦り付けてくれたので気に入ってくれた……のかもしれない。とりあえず、嫌じゃなさそうだからこれで決まりで良いか。


「決まりだな! リーとミール、よろしくな!」

「ちょっとウィリー、ちゃんとくんは?」

「ない方が短くて良くないか?」

「もうっ、あった方が可愛いのに。リーちゃんもミールくんもこっちの方が良いよね?」


 ミレイアのその言葉に二頭の一角獣は理解してるのかしてないのか、ヒヒンッと軽く嘶き嬉しそうだ。仲間ができたことが嬉しいのかな。


「じゃあさっそく出発しよう。御者はリーちゃんとミールくんが賢いから誰にでもできるって言われたけど……誰が最初にやってみる?」

「俺がやるぞ! 村で何回かやったことあるからな」

「おおっ、そうなんだ。それめっちゃ頼もしい」

「へへっ、任せとけ」


 そうして俺達はウィリーが御者席に、そして俺とミレイアとミルが後ろに座った。御者席とつながる小窓を開けてウィリーとも会話をできるようにしたら、出発準備は完了だ。


「じゃあ行くぞ!」


 ウィリーのその声の数秒後にゆっくりと獣車が動き始め――俺達は、新しい街に向かって出発した。


 この国で一番栄えているだろう王都に、ついに挑戦できる五大ダンジョン。なんだかわくわくしてきたな。王都に着くのが楽しみだ!




〜あとがき〜


第二章、中級冒険者編はこれにて完結となります。次は第三章、王都騒動編です。少しお休みをいただいてから第三章の投稿は開始させていただきますので、お待ちいただけたら幸いです。


こちらは書籍の一巻が好評発売中でして、二巻の刊行も決定しておりますので、ぜひこの機会にまだ書籍をお手に取っておられない方がいましたら、読んでみてください。

web版とはかなり異なる展開があり、書き下ろし部分も多いので楽しんでいただけると思います!

(もちろん書き下ろし番外編も収録されています)


ミルのイラストがめちゃくちゃ可愛いので、そちらも堪能していただければと思います! 

本当に、本当に可愛いです。皆様も悶えてください笑


では皆様、また三章の投稿を開始したときにはよろしくお願いいたします。それまでは書籍や他の連載作品などを楽しんでいただけたら嬉しいです!


蒼井美紗

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