第142話 ゴーレムに挑む

 トロールを倒してからすぐに五層へ下りることに成功し、そこから数時間が経過した。今の俺たちの前には……地獄の門ダンジョンの最初の守護者、ゴーレムがいる。


 ゴーレムがいるのは巨大な広場の奥で、広場に足を踏み入れると襲われるようになっているそうだ。ゴーレムの後ろには階段があり、その階段を守るようにしてずっしりと構えている。


「守護者を倒さないと階段は下りれないようになってるんだな」

「そうみたいだね。それにしても、広場はかなり広いね」

「それに入口が思ってたよりもずっと狭いな」


 守護者がいる広場は直径一キロほどはありそうな円形だけど、その入り口は人が二人通るのがやっとというほどの狭さなのだ。

 負けそうだから撤退ということになっても、大人数で戦っていたり、戦っている場所によってはすぐに広場から出るのは難しいだろう。


「どうする、このまま戦うか?」

「いや、ちゃんと休んでからにしよう。今日は近くで野営をして」

「そうだね。できる限り万全で挑もう」

『僕も賛成です!』


 もう夕方なので明日のために今日の探索は終わりとして、近くにあった行き止まりの脇道に野営の準備を済ませた。

 まだここには他の冒険者がやってくる可能性があるので、大きなテントは建てずに簡易的な野営だ。


「早く下に行って、快適な野営をしたいな」


 思わずそう呟くと、ミルが尻尾を振って同意を示してくれた。


『僕も早く皆さんと話したいです!』

『六層から下なら話して良いから、もうちょっとだよ』

『楽しみですね!』


 ミルとそんな話をしながら寝袋や布を準備して、夜ご飯をいくつも取り出した。今は周りに冒険者もいないので、明日のために温かい夜ご飯だ。


「おおっ、シチューなんて最高だな!」

「パンと米もたくさんあるから足りなかったら言って。後はステーキと串焼きと、スープも飲む?」

「凄く豪華だね」

「明日は大勝負だから」

「たくさん食べて、明日に備えないとだもんな!」


 ウィリーのその言葉に皆で苦笑を浮かべつつ、美味しそうなご飯に手を伸ばした。温かくて美味しい夕食を堪能して、見張りを交代しつつ快適な寝袋で眠りについた。



 そして次の日の朝。万全の体調で朝の準備を終えた俺たちは、少しだけ食休みのために近くの魔物と戦い、ついにゴーレムへと挑むことになった。


 広場への入り口で立ち止まり皆で顔を見合わせ、頷き合ってから広場の中に視線を戻す。


「じゃあ行こう」

「了解」

「おうっ」

「わんっ!」

 

 ゴーレムがいる広場の中に足を踏み入れると……先頭のウィリーが中に入った瞬間、ゴーレムの視線がこちらに向いたのが肌感覚で分かった。

 ゾワっと少しだけ鳥肌が立つ感覚は、魔物に相対して初めて感じたかもしれない。


「ゴーレムはとにかく硬いんだよな」

「うん。さらに動きも早くて、痛みを感じないらしい」

「痛みを感じないのは厄介だよね……血も出ないってことは、少しずつ攻撃を喰らわせてダメージの蓄積を狙うのも難しいし」

『どうやって倒すんですか? 大体ゴーレムみたいな魔物は核があるのでそれでしょうか?』


 ミルのその疑問に、俺は苦笑しつつ頷いた。


『確証は持てないけど、多分そうだと思う。でもゴーレムに関する情報は魔物図鑑にもなかったから、先入観を持たずに色々と試してみてかな』

『確かにそうですね』

「大体のやつは首を切るか頭を潰すか心臓を突くかだよな。とりあえず……首を切ってみるか」


 ウィリーはそう呟くと、ミルに合図をして二人で一緒にゴーレムへと駆けていった。素早い動きで左右から敵に近付かれたゴーレムは、両手を上げてゴウッという風が鳴る音を響かせながら拳を振り下ろす。


 ――ゴンッッッッ!!


 衝撃音と共に地面が大きく揺れ、硬い洞窟の床が細かい破片となって俺たちに吹き飛んできた。


「トルネード!」


 咄嗟に風魔法で破片を塞いだけど、そのあまりの威力に思わず苦笑を浮かべてしまう。だって、ダンジョンの地面が割れていたのだ。


 確かダンジョンは壁や床が壊されてもすぐに復活するらしいけど、普通の攻撃でここまで大きく床を割られるとなると、動き回れる範囲がどんどん狭まりそうだ。


「ロックウォール」


 応急処置として大きくひび割れた部分を土魔法で塞ぐと、そこを土台にしてウィリーとミルが思いっきり上に跳躍した。


「いっけえぇぇぇ!!」


 叫びながら全力で振られたウィリーの斧は、ゴーレムの首を正確に捉えたが――ガキンッという衝撃音と共に、弾かれてしまう。


「きゃうんっ」


 ミルの爪による攻撃も通らなかったらしく、ミルが痛そうな声を発した。


『ミル、大丈夫!?』

『……はい。少し爪が割れました』

『こっちに戻ってくれば魔法で治すよ』


 自慢の爪が割れたからか落ち込んだ様子で戻ってきたミルにヒールをかけると、爪が復活していくのを見ているミルの尻尾が分かりやすく上がっていった。

 その様子が可愛くて、思わず苦笑を浮かべてしまう。


『ありがとうございます! でも、このままだと攻撃が通りませんね』

『そうだよな……どこか弱い部分があるはずなんだけど』

「ミレイア、何かに気づいた?」


 さっきから弓も構えずにじっとゴーレムの動きを観察していたミレイアに視線を向けると、ミレイアは顎に手を当てて半信半疑な様子で口を開いた。

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