第141話 対トロール戦

 五層の守護者であるゴーレム討伐を目標にダンジョンに潜ること数日、俺たちは四層の奥までやってきていた。

 今の時間は早朝で、上手くいけば今日の午後にはゴーレムの姿を視界に捉えることができるだろう。


 ちなみにここまではまだ苦戦するような敵には出会っていない。皆で連携するまでもなく、個人で倒せるレベルの魔物ばかりだ。


「今日もどんどん先に進むぞー!」

「ウィリーは朝から元気だね」

「おうっ、まだまだいけるぜ」


 野営を数日重ねてるにも関わらずこの元気を保てるのは凄いな。まだこの辺りには冒険者がいるから大きなテントなどは出していなく、分厚めな布を敷いて寝袋に小さく収まって寝てる状態なのに。


『朝ご飯は何にしますか!』


 ここにも元気な人がいた……ミルは尻尾を振って朝ご飯の時間に瞳を輝かせている。


 俺はそんなミルに苦笑しつつ、アイテムボックスからサンドウィッチと串焼きを取り出した。


「今日もいつも通りだけど、はいどうぞ」

『ありがとうございます!』

「俺も食べるぜ!」

「はい、ウィリーは足りなかったらおかわりして。ミレイアのもおいておくよ」

「うん。ありがとう」


 それから皆で朝ご飯を堪能し、今日も五層に向けてさっそく歩みを進めた。ウィリーとミルが先頭を並んで歩き、後ろは俺とミレイアといういつもの配置だ。


 しばらく歩みを進めていると、俺たちが進んでいる先のマップに一匹の魔物が映った。


「ウィリー、ミル、魔物がいるよ」

「おっ、今日初めての魔物だな」

『またオークでしょうか』

『その可能性が高そうかな。二層の時にはオークを見つけるのに手間取ったのに、四層はオークばっかりだ』

『本当ですね』


 ミルとそんな話をしていると、さっそく魔物が見えてきた。あれは……オーク、じゃない?


「もしかして、トロール?」


 ミレイアのその言葉で魔物の正体が分かった。確かにダンジョンの冊子に載っていたトロールと完全に見た目が一致している。


「トロールはオークと似たような魔物なんだよな?」

「うん。オークの上位互換だって書かれてたよ。オークの倍以上の大きさがあり、とにかく防御に優れていて力が強い。でも動きは遅いって感じ」

「分かったぜ。じゃあ渾身の一撃を何度も喰らわせれば良いんだな」


 ウィリーはそう言うと楽しそうにニッと笑って、斧を肩に構えながらトロールに向けて駆けていった。

 思いっきり振り上げた斧の一撃はトロールの肩に直撃するけど……トロールに付いたのは擦り傷程度のようだ。


 そのすぐ後にミルの爪による攻撃も繰り出されるが、ウィリーの斧と同じく擦り傷しか与えられない。二人の攻撃がここまで効かない相手は初めてだな。


「ウォォォォォォ!!」


 トロールは攻撃された怒りからか手に持つ巨大な棍棒を振り上げると、思いっきりウィリーがいる場所に振り下ろした。そこまで早くないのでウィリーは難なく避けたが、あまりに強い一撃に床が震えて少しだけ体が硬直する。


 うわぁ……あれを喰らったら、一撃でぺしゃんこだ。


「絶対に攻撃は喰らわないように注意して! ミレイアは結界に専念でお願い!」

「了解!」

「アイススピア!」


 皆に指示を出しながら、弱点だろう瞳を狙ってアイススピアを放った。しかし当たる直前にトロールが瞼を閉じてしまい……アイススピアは弾かれる。瞼でさえあの硬さなのか。これは思っていたよりも強敵かもしれない。


「おりゃあぁぁぁ! 次は俺だ!」


 俺がアイススピアを放つと同時にトロールへと駆けていたウィリーが、トロールの真上に飛んで両手で斧を振り下ろした。


 首元に思いっきり叩きつけられた斧は先ほどよりもダメージを与えられたらしく、トロールの首元から血が垂れてくるのが見える。

 しかし、致命傷にはならないらしい。


「マジで硬いな……!」

『これって、皆さんはどうやって倒してるのですか?』

「トロールに出会ったら勝てないからって逃げるか、何時間も攻撃し続けて粘り勝ちの二択らしいよ」

『……それは、少し嫌ですね』

「皆! 良い方法を思いついたんだけど、ちょっと聞いてくれる?」

「おうっ! なんだ?」


 ミレイアの作戦を聞くために皆で少しトロールから離れ、作戦会議をした。


「ミレイア、それは試す価値あるな!」

「面白い作戦だよ。やってみようか。ウィリーとミルがトロールに攻撃をさせる役割をして、俺が攻撃で良い?」

「そうだな!」


 ウィリーとミルが楽しそうに瞳を輝かせ、トロールを煽るように大振りの攻撃を放った。するとミルの爪攻撃に首を少しだけ振って煩わしそうにしたトロールが、大きな雄叫びを上げて棍棒を振り下ろす。


 その瞬間に……ミレイアの結界が、トロールの口の中に生み出された。


「グォォォォォ、ガウッ……ッ」


 結界によって口が閉じられなくなったトロールは、大口を開けたままその場で慌て――その隙に、俺は巨大なアイススピアをトロールの口の中に向けて放つ。


 アイススピアが口に届くその瞬間に、ミレイアが結界を解除すると――アイススピアは喉から首に突き刺さり、トロールは苦しそうな呻き声を溢しながら息絶えた。


「やったぜ!」

「上手くいったね!」

「わんっ!」

「さすがミレイア。硬い魔物も口の中はさすがに柔らかいんだな」


 トロールに近づいて体に触れてみると、肌に触れているとは思えない硬さに思わず瞳を見開いてしまう。


「なんか、石みたいだ」

「うわっ、本当だな。石というか……鉄っぽい感じもないか?」

「いや、それよりももう少し弾力があるよ」

「硬くて弾力があるから、あんなに攻撃が通らなかったんだな」


 皆でトロールの肌に感心してから、アイテムボックスに仕舞って解体をした。トロールの皮は高く売れそうだ。


「よしっ、じゃあ先に進もう」

『はい!』

「どんどん行こうぜ!」

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