第81話 買い物
従魔の入店も可と書かれていたので全員で中に入ると、薬草の香りが鼻を刺激する。このお店は魔力回復薬を始めとして、薬草を使った商品を売っている薬屋みたいだ。
「いらっしゃいませ〜。ごゆっくりどうぞ〜」
入り口近くで商品の整理をしていた店員さんが、笑顔で声をかけてくれた。なんだか日本によくあったチェーン店みたいだ。ちょっと懐かしい雰囲気がある。
奥のカウンターにはお客さんが並んで、順番にお金を払っているのも日本のレジカウンターを思い出させる。
「魔力回復薬以外にも色々あるんだな」
「薬も売ってるんだね」
「おおっ、これ体力回復薬って書いてあるぞ!?」
ウィリーがそう言って持ち上げた瓶を見てみると、ヒーリング草が使われていると書かれていた。効能を見てみると、体力回復っていうよりも疲労軽減って感じみたいだ。ヒーリング草って風邪の時に使うって聞いたことがあったけど、疲労軽減効果もあるんだな。
「本当だね。これもいくつか買っておこうか」
「おうっ! ただこれって、瓶入りのやつしかないのか?」
「多分そうじゃないかな。前に魔力回復薬について本で読んだことがあるんだけど、必要な成分を抽出してすぐに効果が出るように、さらに効能が薄れないようには、この形が一番良いんだって。液体ってところが重要で、さらに液体の効能が一番薄れずに不純物が混じらないのが、このガラスの瓶なんだって書いてあったよ」
そうなんだ……俺はミレイアの説明を聞いて初めてその事実を知った。やっぱりミレイアは博識だな。俺は知らないことばかりだ。もっと本を読んで勉強しよう。
「そうなのか。それならこれを買っていこうぜ。十本ぐらいにするか?」
「えっと金額は……銀貨一枚か」
決して安くないけどそこまで高くもないな。これなら十本ぐらい余裕で買える。
「十本ぐらいがちょうど良いかもね」
「そうしようか。じゃあウィリー、そこにある木のトレーに十本取ってくれる?」
「了解だ」
「後は魔力回復薬だね。こっちは銀貨一枚と銅貨五枚だけど何本買う?」
魔力回復薬の方が高いんだな。まあヒーリング草よりもシャルム草の方が入手難易度が高いから、それも仕方がないのか。
こっちの方がたくさん欲しいんだよな……これからは強い魔物も増えるし今までよりも魔法をたくさん使うことになるだろうから、魔力がなくなるのが一番痛いと思う。
魔力を回復できるなんて、本当にありがたい薬なんだよな……とりあえず三十本ぐらい買ってみるか。これで全然足りなかったら、また買いに来れば良いし。
俺が本数を伝えると、ウィリーが木のトレーにぴったりの本数を載せてくれた。
「これだけで良いか? 他にも色々とあるけど」
「そうだね。解熱剤は持っておいても良いんじゃない?」
「確かにあっても良いかも。あとさ、消化促進剤っていうのがあるけど、ウィリーとミルに必要なんじゃない?」
あんなに食べてるんだから胃もたれすることもあるだろうと思ってそう聞くと、ウィリーとミルは同時に首を横に振った。
「俺は胃もたれってしたことないぞ?」
『僕もです! いくら食べても少し経てばお腹が空いてきます』
マジか……俺は二人のそんな返答にちょっと引いた。あんなに食べてるのに胃もたれを知らないとか羨ましいな。俺はこの体になって病気にならないからか、胃もたれは無くなったけど、その代わりに量をたくさんは食べられなくなった気がしている。
ミルとなんでこんなに違うんだろうな。やっぱりミルのたくさん食べられる能力は、体の大きさを変えられることに付随してるんだろうか。
「私は消化促進剤、買っておこうかな……」
ミレイアがそう呟き、薬を三つトレーに追加した。そうしてそれからもいくつか必要そうな薬を選び、お金を払って店を後にした。かなりの金額になったけど、必要なものだから後悔はない。魔力回復薬を使ってみるのが楽しみだ。
「次はどこに行くんだ?」
「あと行きたいのは本屋と食料品を売っている店、それから野営道具を売ってる店かな」
「食料品ってどういうもの?」
「俺達にはアイテムボックスがあるから、屋台とかで出来立てを買って保存しておくので問題ないんだけど、一応他の人達が周りにいる時のためにも、野菜とかパンとか食材も買っておきたいかな」
俺が小声でそう言うと、二人は真剣な表情で頷いてくれた。
「じゃあ食料品は市場で買うことにしようか。でもその前に、まずはあそこに本屋があるから行かない?」
「あっ、本当だ。じゃあ行こうか」
そうして俺達は本屋に寄ってこの街のダンジョンについてまとめた本を買い、さらに道具屋も訪れて野営に使う調理器具やそれ以外の便利な道具、さらにテントなどを購入した。
そして最後にやってきたのは市場だ。まずは屋台でサンドウィッチや串焼き、調理パンなど一般的には日持ちしない食品をたくさん買い込んだ。そして次に向かったのは、穀物を売っているお店だ。
「いらっしゃい。何をお探しかな?」
「麦粥にできる麦を買いたいんだけど」
「それならそこの袋に入ってるやつだよ。うちのは押麦と大麦を混ぜてあるんだ」
これか……これを少量の水で茹でて食べるんだよな。それって美味しいのだろうか。美味しい想像はあまりできない。ただこれが冒険者の間で一番メジャーな保存食なんだそうだ。マテオ達に話を聞いたことがあるし、野営の基本の本にも書かれていた。
「一袋もらっても良い?」
「もちろん良いさ」
「ありがと。これって粥にする以外に食べ方はある?」
「うーん、水がない時に焼いて食べたって言うのは聞いたことがあるけど、粥にした方が美味しいし食べやすいだろうな。それに膨らむから腹も膨れるし」
やっぱりそうなのか。まあここは潔く粥にして食べるしかないな。でも極力美味しいご飯を食べたいし、できる限り周りに他の冒険者がいない状態で野営をしよう。
それから保存食を売っているお店を周り、塩漬けにされた干し肉と、完全に乾燥させたドライフルーツも購入し、今日の買い物は終了とした。
「やっと終わったな〜」
「結構疲れたね。もう夕方だよ」
「今日はもう宿に戻る?」
「うん。それが良い気がする」
新しい街に移動してきて初日だし、その初日に朝から歩き回ってればさすがに疲れるよな。ミレイアはミルの隣を歩いて、ミルの頭を優しく撫でて癒されてるみたいだ。ミルも嬉しそうに尻尾を振っている。
「明日からはさっそくダンジョンに挑むので良い?」
「俺は良いぜ!」
「私も良いよ〜」
『もちろん僕もです! ダンジョン楽しみです!』
「ミルも良いって。明日からダンジョンに行くのなら、なおさら今日はもう帰ろうか。早く休んで明日に備えないと」
「そうだな。そうするか」
それから俺達は茜色に染まり始めた空を楽しみながら、ゆっくりと宿に向かって歩みを進めた。明日からのダンジョン攻略、楽しみだな。
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