第82話 初めてのダンジョン

 俺達がいるのは冒険者ギルドの掲示板前だ。今日は朝早くに宿を出て、冒険者ギルドが開いたと同時に中に入った。その甲斐あって最前列は確保できているんだけど、後ろからの筋肉の圧が凄い状態だ。


「どの依頼にする?」

「まずは簡単なやつからが良いと思う」

「じゃあこれとかどうだ? ビッグバードの肉の納品だ」


 確かビッグバードは一層でも出てくる魔物だったな。それなら先に進めなくても依頼に失敗することはないだろうし、受けても問題なさそうだ。


「今日はそれ一つにしておこうか。俺達がどのぐらいダンジョンで通用するのかを確かめて、ダンジョンの深層階にはどれほどの時間を掛ければ行けるのか、それが分からないと依頼を達成できるのか予測もできないよ」


 最初は一層の広さがかなり狭いからどんどん下層に行けるとは言われてるけど、やっぱり実際に体験してみないとイマイチ想像できないのだ。

 多分俺達はマップがあるから圧倒的な速さで進めるだろうけど、最初は色々と見て回りたい気もするし。


「そうだな。じゃあこれにするか」

「うん。私も賛成かな」

『僕もです!』


 そうして俺達は一つの依頼を受注し、さっそくダンジョンに入るべくダンジョン入り口に向かった。入り口は冒険者ギルドすぐ近くの、頑丈な建物の中にあるみたいだ。

 建物の入り口で冒険者ギルドカードを確認されて、さらに実際の入り口に繋がる二重扉を通る前に、もう一度カードを確認される。


 凄く厳重な体制になってるんだな。それだけダンジョンとは冒険者以外には危ない場所で、さらに万が一魔物が街中に放たれてしまったら大変なことになるのだろう。

 扉を開いて中に入るように言われ、俺達が入ってきた扉がしっかりと閉まると、前にある扉が開くという仕組みだった。


 そうしていくつもの扉を通って目の前に現れたダンジョンの入り口は、ごく普通の洞窟の入り口みたいだ。ちょっと大きめの洞窟って感じかな。


「こんな感じなんだな」

「入り口は結構普通だね」

「おっ、初めて見る顔だな。俺は入り口の管理をしてるギルド職員だ。ここは二十四時間やってるから数人の職員が交代で管理してるんだが、たまには会うこともあるだろう。よろしくな」


 洞窟の脇で椅子に座っていた男性が立ち上がって挨拶をしてくれる。かなり体格が良くて、腰には剣が差してある。

 ここで魔物を倒す役割もしてるんだろうし、結構強い人なんだろうな。元は冒険者で歳をとってギルドに雇われたとか、そんな感じなのかも。


「よろしくな! これってもう入っても良いのか? まだ何か手続きとかあるか?」

「いや、ここでは特にないぞ」

「じゃあついに入れるんだな!」

「ははっ、楽しそうだな。まあ頑張れよ。無理はせずにな」


 そうして俺達は男性に見送られ、洞窟の中に、ダンジョンの中に足を踏み入れた。ダンジョンの中は薄暗いけど壁が光を放っていて、活動するのに問題がない程度の明るさは保たれているようだ。


「予想以上に明るいんだね」

「ランタンはいらないな」

「これなら戦いにも支障がなさそうで良かったよ」

『僕も問題なく辺りを認識できます!』


 初めて入るダンジョンの中を注意深く観察しながら、一本道を奥に進んでいく。今のところ他の冒険者は近くにいないみたいだ。……そうだ、マップを見てみるか。

 実はダンジョンの中の様子はマップで詳細まで確認できるんだけど、生体反応があるかないかはマップの外からでは表示できなかったのだ。


「あっ、見れるようになってる」

「何がだ?」

「マップだよ。えっと……今俺達がいる階層の生体反応は表示できるみたい。他の階層は無理かな」

「ちゃんと表示されるんだ。ダンジョンの中でも使えて良かったね。範囲は外と同じで一キロ?」

「それはまだ分からないかな。この階がそんなに広くないから。もう少し下りてからまた確認してみるよ」


 そんな話をしつつ歩みを進めていると、すぐに突き当たりにぶつかった。突き当たりというよりも、下り階段への入り口だ。今まで俺達が通ってきた一本道はまだ地上で、ここを下りたところが一階層と言われるフロアなのだ。


「なんか、ちょっとだけ不気味だな」

「本当だね……魔物が登ってくることもあるんだよね?」

「うん。ダンジョンではその階層の魔物しかマップで確認できないから、階段は一番注意すべきかも。あとは階段を下りてすぐの場所も」

「了解。じゃあ慎重に行かないとだね。あっ、ミルちゃんは魔物の匂いとかどうなのかな? 下の階の魔物について分かる?」


 ミレイアがミルにそう聞くと、ミルは階段に近づいて鼻をクンクンとさせたけど、しばらくして首を横に振った。


『下の階からは何の匂いも感じられません。階層ごとに空間が遮断されているような……そんな感じです』

『そうなんだ。じゃあ本当に慎重に行かないとだ』

『はい。気を付けましょう』


 ミルとの念話を終えてから二人にもその内容を告げると、二人は真剣な表情で頷いた。ダンジョンでは今まで以上に気を引き締めないとだな。


「じゃあ行くか」

「うん。昨日決めた通り狭い場所の先頭はウィリーで、その後ろにミル、ミレイア、俺の順番にしよう」


 ウィリーは少し緊張した様子で、いつもより慎重に歩みを進めた。階段の広さは二人ぐらいなら問題なく横に並べる程度なので、武器が振れないということはなさそうだ。


 緊張しながら階段を下りること数十秒、やっとダンジョンの一階層に到着した。目の前に広がるのは、端がかろうじて見えるほどのだだっ広い空間だ。天井は二階まで吹き抜けの建物のようにかなり高く、洞窟の中なのに開放的に感じる。


「ダンジョンの中はこんな感じなんだな。マップで知ってはいたけど、実際に見ると感動する」

「本当だね」

「何人か冒険者と……魔物がいるよ」


 階段の近くに人はいないけど、奥で魔物と戦っているグループが二つある。三人組のパーティーと五人組のパーティーだ。そしてそれ以外にも、魔物の群れがいくつかある。


「他の魔物は人間を襲わないんだな」

「多分食事中なんだよ。あの草みたいなやつを食べてるんじゃない?」

「本当だ。どうする、魔物を倒してくか? あれってビッグバードの群れだよな?」

「うん。依頼を受けたし倒して行こうか。これから先で遭遇しない可能性もあるし」


 俺達はビッグバードを討伐することに決め、気合を入れて一歩を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る