第83話 ビッグバード
隠れる場所はないし風もないので、ビッグバードに気付かれてしまうのは仕方がないと判断して近づいていくと、まだかなり遠い段階でビッグバードの群れが一斉に俺達の方を向いた。
全部で五匹だ。ビッグバードは飛ぶことはできないんだけど、走ってスピードをつけてから羽を広げ、風に乗ってかなりの速度で突進してくるので注意が必要だ。
「ビッグバードは魔法を使えないよな?」
「うん。基本的には突進してきて嘴で攻撃してくるだけ」
「じゃあ俺ができる限り後ろに行かないように抑えるから、援護を頼む」
「了解」
「わんっ!」
ここからは強敵も増えるだろうから、俺達の能力は無理に隠さなくても良いということに話し合って決めてある。だからミレイアの結界もミルの魔法も、俺の明かしていない属性の魔法も使うべきと判断したら個々の判断で使う予定だ。
ただミルが話せること、体の大きさを変えられること、さらに俺のマップと神様チートのアイテムボックス。この四つだけはバレないように気をつけるつもりだ。
多分この四つだけは、他の能力とは比べ物にならないほど騒がれるから。唯一無二というのはやはり目立つ。
「いくぞっ!」
ウィリーの掛け声に従ってウィリーとミルが一緒にビッグバードに向かって駆け、ミレイアは弓を構え、俺はアイススピアの発動準備をした。
そしてウィリーが一番先頭のビッグバードの首を落としたのを皮切りに、ミルがその隣のビッグバードを爪で切り付けて絶命させ、ミレイアの弓が頭を貫いてもう一匹が地に伏し、俺のアイススピアが首元に突き刺さったビッグバードが血を噴き出しながら倒れ込んだ。
本当に一瞬だった。最後に残った一匹も危なげなくウィリーが攻撃し、全く苦戦することはなくダンジョンでの初戦闘は終了だ。
やっぱり俺達ってかなり強くなってるな。こうして力が通用すると嬉しい。
「ビッグバードなら問題なく倒せるね」
「うん。相当大規模な群れじゃない限り大丈夫かな。でも油断はしないようにしよう」
「そうだな」
「じゃあアイテムボックスに仕舞うよ」
五匹のビッグバード全てをアイテムボックスに収納し、アイテムボックス内で一瞬で解体して戦闘後のやるべきことは終了だ。
他の冒険者は魔物の襲撃に警戒しつつ素早く解体し、しかし全てを持って帰ることはできないので高く売れる部位だけを厳選して、その厳選したものを背負うなどして持ち帰る。さらに鮮度も気にしなければならない。
それと比べたら本当にありがたいなんてものではない。特にダンジョンでは恩恵を強く感じる。ダンジョンの下層で討伐できる魔物素材を狙ったり宝箱を狙ったり、そういう冒険者はその道中で手に入れたものは全く持ち帰れないのだ。仕方がないことでそれが当たり前なんだけど、やっぱりアイテムボックスを羨むだろう。
「そういえば、このダンジョンでアイテムバックって出るのか?」
「今までクリアボーナスで一度だけ出たことがあるらしいよ。でもその一度だけだって。多分かなり確率は低いんだと思う」
「そっか。じゃあアイテムバックを手に入れられるのはもっと先か〜。まあ俺達はトーゴがいるから、なくても支障はないんだけどな」
「でも私は早く欲しいよ。自分の荷物を全部トーゴに持たせるのは悪いと思ってるんだよね」
確かにミレイアの荷物はかなりの量だからな……まあ容量無限だからいくらでも持つけど。でもミレイアは女の子だから、俺には預けられない荷物とかもあるだろう。アイテムバックが手に入ったら、まずはミレイアにあげるべきかな。
「もう次の階に行くか? ここは広くないし、今はビッグバードしかいなそうだぞ?」
「確かにそうみたいだね。ビッグバードは簡単に倒せることが分かったし、二階に行こうか」
「了解。階段は向こうだよ」
階段は大きな広間の右奥にある。他の冒険者パーティーとぶつからないように、少し遠回りしていくかな。
俺達より先に戦っていた二つの冒険者パーティーは、まだ戦いが終わってないみたいで、ビッグバード相手に苦戦している。多分ダンジョンに憧れて、実力が伴ってないのにこの街に来たんだろうな。
『トーゴ様、壁際に生えているのはヒーリング草だと思います。採取していかなくて良いんですか?』
『え、本当!? ……遠くてよく分からないや』
『匂いは完全にヒーリング草です』
『さすがミル、凄いよ。じゃあ取って行こうか』
そうしてミルの助言によってヒーリング草を採取した俺達は、一階の広間を抜けて二階への階段を下った。そして二階に着くと……目の前に広がっていたのは、さほど広くはない通路だ。
このダンジョンは五階まで洞窟フロアが続くけど、広場は一階だけなのだ。俺のマップで軽く確認しても冒険者ギルドでもらった地図を見ても、二階から五階は通路型となっている。しかも結構複雑だ。
「なんだかワクワクするな!」
「通路は曲がり角があるから気をつけようね。曲がった瞬間に魔物と鉢合わせるなんてこともあるかもしれないし。トーゴのマップに頼り切りは良くないよ」
「もちろん分かってるぜ。じゃあさっそく行くか。ミル、魔物の匂いがしたら吠えて知らせてくれるか?」
「わんっ!」
二階に生息している魔物はビッグバードとウォーターラビットがほとんどだ。ビッグバードは一階にもいたあいつで、ウォーターラビットはホーンラビットが水魔法を使えるようになったようなやつ。
ホーンラビットよりも凶暴で肉食なのが少し怖いけど、攻撃力はさほど変わらない魔物だ。
「わんっ!」
「ウィリー、その角の先に魔物が三匹いる」
「了解だぜ」
ウィリーは斧に手を掛けて、楽しそうな表情を浮かべながらミルと共に魔物へ駆けていった。通路が狭くて大きな群れというのがないので、さっきから二人が全ての魔物を倒してしまう。俺とミレイアはただ歩いているだけだ。
俺達が強くなってるんだから喜ぶべきことなんだけど、もうちょっと張り合いのある魔物が出てこないかな。
「初心者ダンジョンに行かなくて良かったね」
「ははっ、確かに。行ってたら一日でクリアしてすぐこっちに来てたかも」
「それも楽しかったかな?」
確かにクリアボーナスがもらえることを実感するという点では、行っても良かったのかも。クリアした時だけの、最奥から入り口への転移も体験してみたいし。
「おーい、トーゴ。倒したぞ!」
「今行くよー」
俺はミレイアと共にウィリーの下へ向かいながら、油断しすぎるのは止めようと自分に言い聞かせた。大体はこうして油断してる時に怪我をしたりするのだ。
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