第117話 岩場での戦闘

 外が明るくなったことで目が覚めた俺とウィリーは、テントから出て大きく伸びをする。するとミレイアの横に大きくなったミルが寝そべっていた。


「あっ、二人ともおはよう」

「おはよう。夜は大丈夫だった?」

「うん。ミルちゃんが匂いと音で魔物が近づいてくるとすぐに教えてくれたから、問題なかったよ。魔物もミルちゃんが倒してくれて、私は弓で補助するぐらいで」


 ミレイアのその言葉を聞きながら、ミルは隣でドヤ顔だ。褒めて欲しいのか耳がぴくぴく動いている。


「ミル、凄いな。ありがとう」


 俺がミルの首元にギュッと抱きつきながらそう告げると、ミルは途端に尻尾を高速で振って喜びを露わにした。本当に分かりやすくて可愛いなぁ。


「朝ごはん食べようぜ!」


 全くブレないウィリーのその言葉によって、俺達はテントを片付けて朝食の時間にすることにした。朝ご飯を作るのは大変なので、アイテムボックスに入っているサンドウィッチだ。


「何個食べる?」

「私は二個で」

「僕は五個食べます!」

「俺はとりあえず十個がいいな!」

「はーい。俺はミレイアと同じで二個かな」


 お気に入りの屋台で大量に購入していたサンドウィッチから各々好きなものを選んで、フルーツジュースやお茶などの飲み物と共に食べる。

 俺が選んだのはマヨネーズみたいなソースが使われた、淡白な肉が入っているサンドウィッチだ。これが一番さっぱりしていて、でも美味しくて気に入っている。


「今日はすぐ次の層に行くよな?」

「うん。その予定だよ」

「次の層からは荒野なんだよね?」

「そうだよ。サンドスコーピオンとかゴーレムとかいるらしいから、気を引き締めていこうか」


 ここまでこのダンジョンは基本的に草原や森林だったけど、ここに来て荒野に変わる。サンドスコーピオンとか砂漠にいるんじゃないんだって思ったけど、荒野にもいるらしい。毒持ちらしいから気をつけないと。


「新しい魔物と出会えるなんてワクワクするよな!」

「そうですね! 僕の爪が通るのか楽しみです!」


 ウィリーとミルは期待に瞳を輝かせている。この調子だと、二人が大活躍してくれて後衛の俺とミレイアはあんまり出番がなさそうだ。でも油断しないようにしないとな。


「じゃあそろそろ行こうか」

「そうだね」

「おうっ」

「行きましょう!」


 それからマップですぐに階段を見つけてもう一つ下の階に降りると……そこに広がっていたのは、どこまでも続くような果てしない荒野だった。


「うわぁ、広いね」

「これはアイテムボックスがなかったら、食料を運ぶだけで苦戦しそうだ」

「すげぇな。何回も言ってるけど、ここ地下だぞ?」

「魔物がたくさんいますね」


 ミルが言うように、上の階とは比べ物にならないほど魔物の密度が高い。多分ここまで来られる冒険者が少なくて、魔物があんまり狩られないからなんだろう。


「魔物と戦いながら進む? できる限り避ける?」

「そりゃあ決まってる、戦いながらだ!」

「ははっ、りょーかい。じゃああっちに行こう」


 すぐ近くに見える魔物を指差すと、皆が楽しそうな表情で一斉に頷いた。俺達のパーティーって意外と戦いが好きだよな。


「あれってサンドスコーピオンだよな?」

「多分そうだと思う。動きが素早いのと尻尾に毒があること、それからあのハサミに気をつけて。あのハサミはめちゃくちゃ切れ味が良いらしいから」

「毒針はできる限り私が結界で防ぐよ」

「よろしく頼むぜ。じゃあミル行くぞ」

「はいっ!」


 俺とミレイアは二人がサンドスコーピオンに駆けていったのを見つめつつ、それぞれ攻撃の準備をした。ミレイアは弓を構えながら結界をいつでも発動できるようにして、俺はアイススピアを宙にいくつか浮かせた。


「おりゃあぁ!」


 先陣切ってウィリーが斧で切り掛かると、サンドスコーピオンは素早い動きでそれを避ける。そしてウィリーの胴体を真っ二つに切ろうとするようにハサミを掲げて……しかしそのハサミをミルが攻撃した。

 ミルの爪での攻撃はサンドスコーピオンの殻をものともしないようで、サンドスコーピオンはかなり苦しんでいるようだ。これで右のハサミは使えない。


「ミルやるな! 俺だってっ」


 ウィリーがそう言って左のハサミに斬りかかろうとすると、サンドスコーピオンも学習したのかハサミではなく尻尾の毒針でウィリーに攻撃を仕掛けた。しかしその毒針はミレイアの結界に阻まれ、サンドスコーピオンはその衝撃で少しだけ体が硬直しているところを、ウィリーの斧が襲った。


 ウィリーの斧で胴体に深い傷をつけられたサンドスコーピオンは苦しみから暴れ回ろうとして……しかし、俺のアイススピアが傷口に追い打ちをかけて、すぐに動かなくなった。


「よしっ、俺たちなら問題なく勝てるな!」

「誰も怪我してない?」

「してません!」

「私も大丈夫だよ。倒せて良かったね」


 マップでサンドスコーピオンが映らなくなったことを確認してから近づくと、かなりの大きさだと分かる。それに……殻はかなり硬い。

 ダンジョンの本にはこの殻に阻まれて攻撃が通らなくて苦戦するって書かれてたけど、俺達にとっては問題ないみたいだな。


「じゃあ仕舞うよ。どんどん行こうか」

「うん!」


 サンドスコーピオンをアイテムボックスに仕舞った俺は、次の魔物を定めるためにマップに意識を向けた。そうして楽しみながら魔物との戦闘に明け暮れ、お腹が空いて昼になったことに気づいた時には、もう既に二十九層まで下りてきていた。

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