第116話 美味しすぎる夕食

 素早く全員分のステーキ丼を作り、皆で食前の祈りをしてからステーキ丼を口に入れた。すると焼きたて熱々のステーキからは旨味が溢れ出てきて、少し強めに効かせてある塩味がレッドボアの肉と最高に合っている。米は噛めば噛むほどに甘みが出てきて、さらに少しだけ香ばしい香りがついているのも最高だ。


「これはヤバい、二十杯はいける」

「すっごく美味しいよね……レッドボアのお肉ってこんなに美味しかったっけ?」

「なんか今までで一番美味しい気がする」

「美味しすぎます! 僕も十杯はいけます!」


 やっぱり自分たちで調理してっていうのが違うんだろうな。それに外で食べてるっていうのも、美味しさを増す理由になってるだろう。


「もっと肉を焼こうぜ!」

「そうだね。ちょっと待って」


 それからはステーキ丼を食べながら、次の料理をすることにした。次は焼肉だ。ミレイアが次々と一口大に切ったお肉を鉄板に乗せていく。


「スープも作ったら食べる?」

「もちろん食べるぞ!」

「じゃあこっちで作るよ」


 俺はウィリーの勢い良い返事を聞いて、別の鍋を取り出してそこでスープを作ることにした。ウィリーが喜ぶように肉を入れようかな。ビッグバードの……あんまり脂がない部位を大量に。さすがに脂身多めの肉ばっかりは、俺とミレイアの胃に辛い。


「野営ってこんなに楽しいんだな。もっとやりたいぜ」

「普通はもっと厳しいものなんだけど、私達がこのレベルのダンジョンでやると楽しいだけになるね」


 野営が楽しいなんて、大多数の冒険者に首を傾げられて睨まれて眉を顰められる、そんな発言だろう。普通は野営なんて、全く気が休まらないただただ夜を明かすためだけの疲れる時間だから。


「確かに楽しいな」


 でも、ウィリーの発言には同意せざるを得ない。もうこれは野営じゃなくてキャンプだ。これがおいしくない保存食を少し食べるだけとかなら嫌だなって思うんだろうけど、バーベキューを開催してるからな……


「ウィリーさん、そのお肉焼けてませんか!?」


 肉の様子を確認するために大きくなったミルに指摘されると、ウィリーは慌ててトングを手に取った。


「危なかったぜ、ミルありがとな」

「いえ、お肉のためなら当然です!」


 そうして俺達はそれからも、途中で襲ってきた魔物を瞬殺しつつ夕食を楽しみ、大満足でバーベキューを終えた。


「幸せすぎたな……」

「本当ですね。美味しすぎました」

「二人とも、一応ここはダンジョンなんだからね。夜の見張りはやらないとだよ?」

「おうっ、分かってるぜ!」


 ウィリーはさっきまでのゆるゆるな表情から一気に真剣な表情になり、自分の斧を叩いた。


「じゃあ見張りだけど、俺とウィリー、ミルとミレイアのペアで良い?」

「うん。私は良いよ」

「俺もいいぜ」

「僕もです!」


 テントは一つしかなくてミレイアは女性だから、俺達と一緒に寝るのはさすがに微妙かと思ってこのペアにしたのだ。ミルはミレイアと一緒に寝られるとあって、尻尾を高速で振って喜んでいる。ミレイアもいつかはミルと一緒に寝てみたかったようで嬉しそうだ。


「テントの中に布を敷いたりしようか」

「そうだね。ミルちゃんに快適なベッドを作ってあげないと」


 大量に買い込んだ敷き布や毛布をアイテムボックスから出すと、ミレイアが楽しそうにテントの中に運んでいく。そうして出来上がった寝床は……宿のベッドよりも明らかに豪華なものだった。


 もうダンジョンの中だなんて信じられないな……


「どう? 良い感じじゃない?」

「すげぇな、快適そうだ」

「思いっきりダイブしたいです!」

「じゃあミル、足を綺麗にしようか」

「よろしくお願いします!」


 小型犬サイズになったミルを抱き上げて濡らした布で綺麗に足を拭き、テントの入り口に立った。するとミルは俺の腕から思いっきり寝床の中に飛び込む。

 ぼふっとふかふかの布に着地したミルは、さいっこうに可愛い。


「凄いです! ふかふかです!」

「ミルちゃん、可愛いねぇ〜!」


 ミルの可愛さにやられたらしいミレイアは、靴を脱いでテントの中に入るとミルを抱き上げた。この光景だけを見てたらまさかダンジョンの中だなんて信じられないな。


「じゃあミレイア、俺達は見張りをするよ」

「ゆっくり休めよ!」

「うん。ありがとう。先に休むね」


 テントの入り口を閉めたら、俺達は火がある場所に戻る。見張りをやってる時間は暇だから料理でもしてようかな……多分ウィリーが全部食べてくれるし、残ってもアイテムボックスに入れておけば良い。


「トーゴ、魔物は近くにいるか?」

「ううん、いないみたい」

「じゃあ俺は武器の手入れをするな。魔物が現れたら教えてくれ」

「了解。俺は料理をしてるけど気にしないで」

「マジか! 味見は俺に任せてくれていいぞ」

「ははっ、分かったよ」


 料理と聞いて突然瞳を輝かせたウィリーに苦笑しつつ、俺はまた米を炊くために鍋を取り出した。これから作るのは多種多様なおにぎりだ。俺は中に肉が入ったおにぎりとか野菜炒めが入ったやつとか、そういうちょっと特殊なのが好きなのだ。


「米を炊きながら中に入れるものを作るかな」


 それからの俺達は各々好きな時間を過ごしながら時間を過ごし、途中で三匹の魔物を倒してミレイアとミルと見張りを変わった。そしてそこからは短い時間だけど快適な寝床の中で眠りに落ちて……特に問題はないまま、朝を迎えた。

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